「ねえハナ、最近うちにきたおばちゃん誰?知ってる?」
「ねえハナ、最近うちにきたおばちゃん誰?知ってる?」

元野良猫「はち」と元保護猫「ハナ」 飼い主の入院中に行われた世話のための環境改善

先住猫「はち」と元保護猫「ハナ」、2匹の多頭飼育生活がはじまって1年半が経った2023年の年明け早々、私は化膿性脊椎炎(かのうせいせきついえん)及び腸腰筋膿瘍(ちょうようきんのうよう)という感染症の一種で緊急入院をした。手術を受け、抗生剤による点滴治療とリハビリを経て、約2カ月後に退院した。

(末尾に写真特集があります)

退院の日、猫たちとの再会

 2カ月ぶりの愛猫たちとの対面だが、その反応は2匹2様だった。

「ただいまー、おばちゃん、帰ってきたよー」とドアを開けると、はちは玄関まで出迎えにきた。だがマスクをし、杖をつきながらおぼつかない足取りの「おばちゃん」が不審に映るらしく、近づいてよいものかどうかを躊躇(ちゅうちょ)していた。しばらくすると近くまで寄って来て私のすねにしっぽをからませると、すぐにリビングに戻っていった。

 ハナは、私がリビングに入るやいなやハナマン(ハナのマンション=ケージ)の2階に飛び込んでしまった。私が「ただいまー」と言いながら顔を近づけると表情をこわばらせ、からだをなでると硬直した。だが「知らない人ではない」とは認識したらしく、小さく「ニャッ」とあいさつをしてくれた。

 はちは、すぐにいつものように甘えるようになった、一方のハナはハナマンに籠城し続けたが、深夜近くになると突然ケージから飛び出した。ダイニングキッチンにすわっていた私の足元にやってきて、すねに激しく頭をこすりつけ、ニャーニャー鳴いた。

「知らないおばちゃんが家にきたけど、前に会ったかしらね」(小林写函撮影)

 しかし困ったことに、私は床にいる猫をなでることができない。

 私の腰の骨はまだ完治したわけでない。杖を使うか、つたい歩きでの移動がやっとの状態で、腰痛もあり、特にしゃがむという動作ができないのだ。

「なでてほしいときは、ソファにのってね」とハナに話しかけ、ツレアイにハナをソファに運んでもらい、横にすわってしばらく戯れた。抱っこをしたり、ひざにのせるのも腰に負担がかかるので御法度だ。

 この状態では、猫トイレの掃除や、フードを食器に盛ったり自動給餌器(じどうきゅうじき)に補充したりもできない。

 そんなわけで引き続き家事全般に加え、猫たちの世話もツレアイの仕事となった。

家のあちこちに変化が

 2カ月間家を留守にし、帰宅して感じたことがあった。それは以前より、家の中がきれいだということだ。

 特にフローリングの床につやがあり、曇りがなくこざっぱりしている。

 聞けば、ツレアイが毎日掃除機をかけ、頻繁にフローリングシートで掃除をしていたのだという。

「毎日、猫たちの毛がすごく落ちるんだよね」

 とのこと。

 入院前は、掃除機をかけるのは私の仕事で、頻度は2日に1回程度だった。私は、猫がいるのだからある程度抜け毛が散らかるのは仕方ないと思っていた。きれい好きなツレアイは、ときどき気になると自分で掃き掃除はしていたが、掃除機は、納戸から出し入れをするのが面倒だったようで、ほとんど使わなかった。

「このベッド私たちが占有していたのに、おじちゃんが使えないようにしちゃったの」(小林写函撮影)

 しかし、2日に1回でも掃除機をかける人がいなくなると、猫の抜け毛の多さが顕著になり、面倒くさがっている場合ではなくなったらしい。

 生来きちょうめんなツレアイは、やるとなったら徹底するタイプだ。それは猫の世話に関することにも現れていた。

 例えば、猫トイレ横の壁だ。ここには、はちがときどき排尿の際に尿を引っかけるため、私は常にペットシートを1枚ガムテープで貼り付け、汚れたらガムテープごと取り替えるようにしていた。

 これをツレアイは、壁に横1列に3カ所画びょうを埋め込み、そこに小さい磁石でシートの端を固定するよう改善していた。画びょうは磁石にくっつくので、磁石と画びょうの間にシートをはさむようにすればワンタッチで取り外しができる。

 また尿をひっかける場所は決まっており、量も多くないので毎回シートは1枚分も必要ない。そこでシートは横に3つに切って、1/3枚分ずつ取り付けるようにしていた。これだと見た目もそこまでひどくはないし、なにより経済的だ。

「僕は頭がいいから、この小窓の使い方をすぐに理解したんだ」(小林写函撮影)

 ドライフードの計量もブラッシュアップされていた。ドライフードは、はちとハナ、それぞれの1日の給餌量をジッパー付きの保存袋に小分けにして保管している。計量する際には袋をデジタルスケールにのせ、風袋引きをし、スプーンですくって入れる。

 これをツレアイは、計量の際に丸筒を使う方法に変えた。丸筒とは、使わなくなった茶筒だ。底を缶切りで切り取って筒状にしたものを袋に入れて袋を自立させ、風袋引きをし、ドライフードはその中に入れて計量し、最後に丸筒を引き抜く。こうすると、フードをスプーンで入れる際にあやまって袋の外にこぼすことが防げる。

 それから、廊下とリビングを仕切るドア。ここには四角いガラスが12枚はめ込まれているが、最下段の1枚が取り外され、ドアが閉まっていても、猫たちが自由に行き来できるようになっていた。

 もっとも、これは私が何度か提案し頼んでいたことだ。それなのに「そのうち」と言い、なかなか行われる気配がなかった。

 重い腰が上がっていたことに私は驚いたが、

「猫たちが出入りするたびに、いちいちドアを開け閉めするのが面倒くさくなったから」

 とのこと。

 そしてもう一つ、彼が行った大きな仕事が、家庭内引越しだった。

(次回は2025年1月3日公開予定です)

【前の回】愛猫「はち」と「ハナ」との暮らしに事件 約2カ月に及んだ飼い主自身の緊急入院

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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