腎臓病の猫「ぽんた」が再び抗議 点滴の間じゅう叫び続けた(34)
慢性腎臓病のぽんたが、はじめて動物病院での治療に「抗議の表明」をした日、血液検査の結果はあまり芳しくなく、血液中のリンの量が増えていた。
リンの含有量をおさえた療法食を食べさせ、リンを体外に排出させる吸着剤も毎日与えているのに、とがっかりした。しかし体重は落ちておらず、なによりぽんたは元気なので、しばらくはそのまま様子を見ることになった。
ところが、それから数日経つと、ドライフードをあまり食べなくなった。ウェットフードをトッピングして出すと、なんとか1回分は完食するが、ドライフードだけだと数粒しか食べない。体調が悪くて食欲がない、という感じでもない。フードを保管している棚の前に座って私の顔をじっと見上げたり、シンクに伸び上がって「何かないか」という様子でのぞきこんだりする。
療法食は、猫にとってはそれほどおいしいものではないらしい。たんぱく質と塩分を制限しているというから、わからなくはない。だしも塩気もきいていないみそ汁みたいなものだろうか。もともとは嗜好性の高いものを好むという猫が、味に面白みのない同じフードを毎日食べさせられ続けたら、飽きるのも無理はない。
そこで、同じ療法食でも種類が変われば食べるようになるのではと考え、ペットグッズショップに出かけた。ぽんたがまだ食べたことのないメーカーの療法食を偶然みつけたので、少量サイズを1袋購入し、さっそく与えてみた。
ぽんたは、食器をチャリンチャリンと鳴らしながら猛烈な勢いで食べきり、満足そうに顔を洗った。
多少は味が目新しくなり、気分も変わったのか、ぽんたはそのフードをよく食べた。しかし2週間ほどたち、買い足した2袋目が半分なくなったころには、また食べ方がにぶってきた。今度は、ウェットフードをトッピングしてもあまり食べない。私は心配になり、1カ月後の定期検査を待たずに、ぽんたを動物病院に連れて行った。
前回は点滴の際に院長先生に牙をむき、治療に支障をきたしたことから、エリザベスカラーの装着を余儀なくされたぽんた。だが、血液検査のときは問題ないはずだ。採血は一瞬で終わるし、看護師さんにしっかりと脚の付け根を押さえられてしまえば、抵抗はできない。
今回、ぽんたを保定してくれるのは、初めて会う青年だった。新卒の獣医研修生かなと、私は思った。
その青年がぽんたの脚を握るが、どこかぎこちない。先生がぽんたの後ろ脚を消毒し、針を刺した瞬間、ぽんたは「あーーーー!」と耳をつんざくような声を上げた。
先生は緊張した様子でさっと針を抜いた。注射筒には無事、血液が採取されていた。
続いて、点滴の準備だ。診察台から降りようと、からだをくねらせもぞもぞ動くぽんたを青年が押さえ、先生がエリザベスカラーを装着する。それでも立ち上がろうとし、「シャー」とか「あーうー」とかぽんたは騒ぐ。
青年は無言ながらも必死で保定を試み、ぽんたのからだをがっちりと押さえ込んだ。私と、一緒に病院に来ていたツレアイは、かわるがわる頭をなでながら「ぽんちゃん、いいこでね、おとなしくね」と声をかける。
点滴がはじまると、ぽんたは「うー」と低い声でうなり、やがて「あーあーあーあーあーーー!!!」と段階的に声のトーンを上げ、最後には悲鳴にも近いような高い声で叫び続けた。
いつもは、先生と雑談をしながら穏やかに過ぎる5分間の点滴が、この日はひどく長く感じられた。叫び声は、待合室にも響きわたっているだろう。「気難しい猫ちゃんがいるのね」と思われているに違いないと考えると、身の置き所がなかった。
背中から注射針が抜かれ、消毒が終わると、ぽんたは吐き捨てるような「シャーッ!」を発したが、キャリーバッグに入れられると噓のようにおとなしくなった。
帰宅後、ぽんたは待ってましたとばかりにキャリーバッグから飛び出し、ローテーブルの下にもぐった。
「あの新人の先生、保定に慣れてなくて、無理に押さえられてぽんたは窮屈だったんじゃない?」
と言うツレアイ。
そうかもしれない、と私も思っていた。でも、点滴の注射針が刺さっていたところを、届かないのに必死でなめようとしているぽんたを見ながら、それだけではないような気がしていた。
【前の回】おとなしい腎臓病の猫「ぽんた」 この日初めて人間に牙をむいた(33)
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