こんなに元気なのに 腎臓病の猫「ぽんた」の検査結果に目を疑う(35)

 2015年の暮れに、ぽんたを保護し、初めて病院に連れて行ってから2年と4カ月、その間、一度たりとも診察台の上で騒いだり、牙を見せることはなかった。そのぽんたが、慢性腎臓病治療の点滴中に「絶叫」した。なにごとかと動揺したが、血液検査の結果、数値は横ばいだった。

(末尾に写真特集があります)

 ここ数日、フードの食べ方が芳しくなく、心配で病院に連れて行ったのだが、腎臓病が悪化したわけではなさそうだ。体重も前回と変わっていないし、触診した限りでは、胃腸にも特に問題はないと院長先生は言った。

 食が進まなくなったのは、やはりフードの選択に原因があるのだろうと私は考えた。

 インターネット上では、腎臓病の猫の闘病を記したブログが多数存在する。同じ療法食を継続して食べる猫は少ないようで、どの飼い主も愛猫の食べ飽きに悩み、フード探しに苦労する様子がつづられている。

「まわるおすしが食べたいな」(小林写函撮影)
「まわるおすしが食べたいな」(小林写函撮影)

 ぽんたは幸いにも約2年間、同じメーカーのフードを食べてくれていたが、さすがに食傷したらしい。かといって、ペットショップで購入した新しいフードにもあまり興味を示さない。

 ブログを見ると、この2年の間に療法食の新製品が登場し、ずいぶん選択肢も広がっている。

 私は、評判のよい療法食のなかからドイツのメーカーのものと国産のものを選び、1袋ずつネットショップから取り寄せた。

 ドイツ製のフードはグルテンフリーでからだにやさしいことを売りにしている。これまでぽんたが食べていたフードに比べて粒が大きく形も不ぞろいだが、素朴でおいしそうに見える。

 はたして、ぽんたはボリボリと音を立てながらよく食べた。しかし喜んだのもつかのま、1週間も経つと勢いは衰えた。歯周病で歯がほとんどないぽんたにとって、粒が大きいと食べづらいのかもしれない。そこで砕いて与えてみたが、かえって敬遠した。

 もう一つの国産フードは、老廃物を吸着して体外に排出する効果があるという活性炭を配合している。そのせいか色は黒い。なぜかマーガリンを塗ったトーストのような不思議な匂いがする。

 このフードをぽんたが口にしたのは最初の2日だけ。3日目には、ちょっと口をつけると「これかー」という感じで顔を食器から離してたたずみ、じーっと私を見上げて、「ほかのはないの」という顔をする。

「日本活躍しているし、俺もラガーマンになるかな」(小林写函撮影)
「日本活躍しているし、俺もラガーマンになるかな」(小林写函撮影)

 台所の棚の中には、中途半端に封のあいたドライフードの袋がいくつも並んだ。療法食は安くはない。乾燥食品とはいえ、いったん封を開ければ香りは飛び、味も落ちるだろう。

 私は、これらのフードをローテーションで与え、なんとかぽんたが気に入って食べてくれる「配合」をみつけようと躍起になった。ウェットフードを多めにトッピングしたり、猫用のかつおぶしや、「腎臓病の猫ちゃん用のおやつ」を砕いて少量ふりかけたり、ときには2種類のフードを混ぜてみたりもした。

 そうこうするうちに、また月に1度の定期検査の日がやってきた。

 今回、血液採取の際に保定をしてくれたのは、新人の先生ではなく、慣れた看護師さんだった。そのためか、ぽんたは叫んだりすることもなく、おとなしく血を抜かれていた。

 しかし、点滴がはじまるとまたもや「うー」「あー」「シャー」と大絶叫だ。

 点滴が終了すると、なにごともなかったかのようにキャリーバッグの中で黙って香箱を組み、くつろいでいるようにさえ見える。そのぽんたの心境をはかりかねながら、待合室で血液検査の結果を待った。

「早く帰ろうよ」(小林写函撮影)
「早く帰ろうよ」(小林写函撮影)

 名前を呼ばれ、診察室に入る。

「検査の結果なんですけど……」

 いつになく、口ごもる様子の先生。

「腎臓の数値が、かなり上がっています」

 尿素窒素(BUN)、クレアチニン、リン、すべての数値が上昇していた。クレアチニンに関しては、これまで見たことのない高い数字になっている。

 私は目を疑った。確かに、食事のとりかたは不安定だったが、それでもおおむね毎日、必要なカロリーは摂取できていたはずだ。その証拠に体重は前回と変わっていない。

 なにより、ぽんたは家ではいつも機嫌がよく、元気なのだ。

「血流をよくする薬を増やしましょう」

 先生の言葉に、私は心の中で深いため息をつき、「わかりました」と答えた。

(この連載の他の記事を読む)

【前の回】腎臓病の猫「ぽんた」が再び抗議 点滴の間じゅう叫び続けた(34)
【次の回】食欲がない腎臓病の猫「ぽんた」 元気な姿が見たい…給餌を決断(36)

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
猫はニャーとは鳴かない
ペットは大の苦手。そんな筆者が、ひょんなことから中年のハチワレ猫と出会った。飼い主になるまでと、なってからの奮闘記。
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