愛猫が心筋症で危篤に 愛する母親とビデオ通話で「再会」、その瞬間奇跡が起こった
愛玩動物看護師など動物看護職の方々にお話を聞く連載。王禅寺ペットクリニック(神奈川県川崎市)で働く望月章史(あきふみ)さんの、愛猫「なると」が19歳で心筋症に。ついには危篤に陥ります。「最後に会わせてあげたい」と、なるとを深く愛する母親とLINEで“対面”してもらったところ、思いもよらぬ展開が待ち受けていました。
病院に捨てられたグレーの子猫
望月章史さんが、当時働いていた動物病院に出勤してきたある朝のこと。病院の前に、発泡スチロールの箱に入って、1匹の子猫が捨てられていた。やせっぽちで、猫風邪で目も鼻もグジュグジュの、灰色のオス猫だ。
「病院でお世話して、元気になったら、もらい手を探しましょうか」
そう院長と話し合い、シャンプーをして、顔もきれいにしてあげると。
「白猫だったのか!」
目の前に現れたのは、みちがえるほどまっ白な美猫だった。
毎日お世話するうち愛着がわき、どうしてもうちの子にしたくなった。だが、それには問題が。一緒に暮らす母親は猫が怖く、「絶対飼わない」と前から公言していたのだ。そこで一計を案じた。
「この子、感染症があって病院に置いておけないから、家でしばらく面倒見ることになったよ」
動物医療の知識を生かしたうそで、わが家への侵入を許された子猫。「なると」と名づけ、ひとつ屋根の下で暮らすうち、何と母親がなるとを溺愛(できあい)するようになった。
やがて、望月さんが実家を出て一人暮らしを始める時、母親はきっぱりこう言った。
「あなたは出て行ってもいいけれど、なるとは置いていってね」
以来、なるとは母親のもとで、大病もせず穏やかな暮らしを営んだ。
最初に体の不調が現れたのは18歳の頃。腎臓が悪くなり、薬を飲み始めた。
19歳の時、母親が病気を患い、入院することになった。
「そこで、神奈川県の家から千葉県の実家まで、時々様子を見に行き、ペットシッターさんと協力しながらなるとのお世話をしていました」と望月さん。
だが、入院期間が当初の予定より長引いたため、車で片道2時間かけて通うのが限界に。そこで、望月さんがなるとを引き取ることにした。
ところが、シニアであることにくわえ、移動や環境の変化によるストレスもあったのか、なるとは体調を崩してしまった。元気も食欲もないため、心配になり勤め先の病院で診てもらうと、不整脈が見つかった。
「そこで翌日、心臓の検査をすると、重度の心筋症だとわかりました」
動物と飼い主の絆を目の当たりに
その後も体調不良が続き、呼吸が苦しそうな様子も見せたため、再度病院へ。胸に水がたまっていたため抜いてもらう。だが、その日帰宅すると、本格的にグッタリしてしまった。さらには何度も失神を繰り返す。
「不整脈がひどいと心臓がうまく動かず、脳に血流が行かなくなるので失神してしまうんですよね」
ついには寝たきりとなり、意識ももうろうとしてきた。
「いよいよ危ない。最後に母に会わせてあげたい」
そう願うが、母親は退院したばかりで体をあまり動かせず、それがかなわない。そこで、LINEのビデオ通話で“対面”してもらうことにした。
「画面になるとを映し、『このまま息を引き取ってしまうかもしれないから、声かけてあげてよ』と母に伝えました」
「なると、なると。ありがとね」
懸命に呼びかける母親。すると、その声を聞いたなるとが意識を取り戻し、ワッと立ち上がったのだ。そして数歩歩いて、まさに母親を探すような動きをした。
「ドラマや漫画で見たことはあるけれど、こんなこと、実際にあるんだなって驚きました。動物と飼い主の絆は本当にあるのだと、強く感じた瞬間でした」
奇跡的に持ち直したなるとは、そこからも頼もしい姿を見せた。少しずつ自分で動けるようになり、ごはんを食べ、トイレにも行く、普通の生活ができるまでになった。
望月さんは母親に、毎日LINEでなるとの様子を伝え続けた。
「母も手術後のリハビリに取り組む日々でしたので、『なるとと一緒に頑張ってね』なんて励ましました。病からの回復を目指す立場にある者同士、心の支えになっていたのかなと思います」
なるとに力をもらい、リハビリを頑張った結果、母親も徐々に元気を取り戻してきた。
そこで望月さん、車で母親を迎えに行き、ついになるとと再会してもらった。母親もなるとも、どんなにか勇気づけられたことだろう。
手厚い自宅看護で命を守る
このまま母親に、なるとを連れ帰り、再び一緒に暮らしてもらうことも考えた。だが、心臓が悪いなるとには、移動が大きなストレスになる。
「また、看病が母の方では難しいことを考え、結局は私の家で、継続して面倒を見ることになりました」
というのも、移動がネックとなり病院に頻繁に行けないなるとの体調管理は、望月さんの手厚い自宅看護により実現されていたからだ。そしてそこには本職の腕が、しっかりと発揮されていた。
たとえば不整脈のあるなるとのため、1日2回、望月さんはなるとに聴診器を当てたり脈を取って、心拍数や脈拍数をチェックした。
「心筋症で怖いのは、心臓が“空打ち”してしまうこと。心臓が拍動してもうまく血液を送り出せない。それを繰り返すと、血液が体を十分にめぐらず、その結果、脳貧血、そして失神を引き起こします。聴診器を当てて、心拍数が多く脈拍数が少なければ、空打ちしているとわかります」
また、この頃のなるとは7種類もの錠剤を飲んでいた。口を開け、少しずつポンポンと入れてあげると上手に飲めるのだが、うまくできず何度もやり直そうとすると、それがストレスとなり失神を引き起こすこともあった。そのため投薬には慎重を要した。
環境整備にも心を砕いた。
家には、若い猫が2匹いた。闘病中のなるととは、あまり接触させない方がよいと考えた望月さん、なるとの部屋を設け、そこで面倒を見ることにした。
「歩ける範囲のところにトイレや食事の場所も設置。エアコンのない部屋なので、冬は暖房器具を設置し、寝る場所にはヒーターも敷いてあげました」
最も状態が悪かった時、望月さんは寝袋と枕を持ち込み、なるとの横で寝た。
「そうしたら、その寝袋と枕をなるとが気に入ってしまって。私がそばで寝なくなっても、つねにそこで過ごすようになったので、なると専用のベッドにしました(笑)」
自ら選び取ったマイベッドで気持ちよさそうにくつろぐなると。望月さんの献身的な看護のおかげで、なるとは持病があっても、深い安心感に包まれていたに違いない。
(後編に続く)
(次回は11月14日に公開予定です)
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