猫の病気とどう向き合う? 治療費に心構えを 獣医師が解説

「動物病院の受診率が低い」といわれる猫。飼い主が気づいたときにはかなり重篤、というケースも少なくない。そして、せっかく受診しても、治療費の問題や猫に負担がかかるとの理由から治療を中断する飼い主もいるという。愛猫を守るために、私たちはどう考えたらよいのか、猫専門病院「東京猫医療センター」院長の服部幸先生に話を聞いた。

猫は家族? それとも宝物?

「猫のことを家族です、とおっしゃる患者さんは多い。ですが、私から見ると『家族』というより『宝物』の感覚ですね」と服部先生はいう。どういう意味だろう?

「例えば、わが子が虫歯になったり、耳に水が入って中耳炎になったりしたら、引きずってでも病院に連れてゆきますよね。ではなぜ、猫はなかなか病院へ連れて行かないのか。多くの飼い主さんが『猫が嫌がるから』『ストレスを与えたくないから』とおっしゃいます。ものすごく大切にしているからこそ、つらい思いをさせたくない。ある意味、家族以上に大切なんだと思います」

 だからこそ、もう一度考えてほしい。

「その宝物は生きているということ。怪我もするし、病気にもなります。医療的ケアが必要になった時にどうするのか常に考えておき、そうならないように定期検診など早期発見に努めることが大切なのです」

高額な治療費にどう向き合う?

 猫の8割がかかるといわれているのが、慢性腎疾患。一度損なわれた腎臓の機能が回復することはなく、生涯にわたって付き合うことになる。発見が早ければ早いほど、進行を遅らせることができる、つまり寿命を保つことができる。

 だが、治療が長期にわたるために問題も出てくる。

「治療を継続しない、中断する、という飼い主さんが出てくるんです」

 放置すれば寿命が縮まってしまう病気。なのに、中断してしまうのはなぜか。

「まずみなさんがおっしゃるのが『猫にこれ以上負担をかけたくない』『かわいそうだから』というもの。そしてもうひとつは治療費の問題ですね」

 はっきりとお金の問題を口にする飼い主は少ないという。そもそもお金の話は言いにくいのに加えて、お金がないから治療をあきらめる=自分のせい、になってしまうからだ。

「僕はそんなことで悩んでほしくないと思うんです」と服部先生は断言する。

「お金が無限にある人なんていない。誰だって自分の生活がある。例えば年金だけで暮らしている高齢者のペットが病気になったからといって、5万、10万の治療は無理なんです。そんな時、一番いいのは、腹を割ってお金の話をしてもらうことです」

 猫の状態を把握して、どんな治療が必要になるのかを見立てる。そのうえでいくらかかるのかを提示する。もしそんなお金が用意できない場合はどうするのか。

「10万円は無理でも2万円ならなんとかなる、というならば、2万円でできる最善の治療方針を組み立てる。飼い主さんの生活を壊さない範囲で、可能な選択肢を提示できる病院なら、信頼してお付き合いできるのではないでしょうか」

猫の気持ちを考えて

「人間の子どもだったら、泣こうが暴れようが病院に連れていくのに、とお話ししましたが、それが成立するのは人間だからなんですよね。嫌な治療もつらい手術も、それを乗り越えれば健康が改善される、とわかっているからこそ耐えられる。そう考えるのは人間だけです。動物にはそういう未来予測はできませんから、病院へ行くのはストレスですし、口をこじ開けて薬を飲まされるのも、間違いなくストレスです」

 しかし、これだけは忘れないで欲しいと服部先生は言う。

「動物を飼う、つまり命を預かる、その時点で人間のエゴなんです。それをわかった上で、感謝を忘れず、最善を尽くしてあげましょう。猫の本心はわかりませんが、ひとつだけ、確実に言えることがあります。それはどんな状態になっても、どの瞬間も、動物は『生きたがっている』ということです。息を引き取るその瞬間まで、動物は明日が来ることを信じて生き抜きます。その生命力を信じて、手助けしてあげられるのは飼い主さんだけ。大切な猫のために、考えてみてほしいと思います」

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服部幸(はっとり・ゆき)先生
東京猫医療センター(東京都江東区)院長。JSFM(ねこ医学会)CFC理事。 北里大獣医学部卒。2005年から猫専門病院長を務める。2012年に東京猫医療センターを開院。2013年、国際猫医学会からアジアで2件目となる「キャット・フレンドリー・クリニック」のゴールドレベルに認定される。

浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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この連載について
猫の健康のために知ってほしいこと
愛猫と長く健康に暮らすための、獣医師からの珠玉のアドバイス。この連載は「ネコも動物病院プロジェクト」の一環です。supported byベーリンガーインゲルハイム アニマルヘルス ジャパン
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