なぜ猫の動物病院の受診率が低い? 定期的な検査で早期発見を
愛猫と長く幸せに暮らすのに、頼りになるのは動物病院だが、猫の受診率は低いといわれている。なぜ、猫を動物病院に連れて行かないのか。改善するにはどうしたらいいか。猫専門病院「東京猫医療センター」院長の服部幸先生に話を聞いた。
猫の飼い方・意識の変遷
受診率の低さについて、服部先生は「問題は病院側にも、飼い主側にもあります」と話す。
「犬は病院に連れて行きやすいですし、狂犬病の予防接種などがありますから、医療機関と接する機会がある。散歩によって犬の飼い主同士のコミュニケーションも生まれ、飼育について学ぶ機会も多い。それにくらべて猫は、あくまで家庭内での管理にゆだねられているのが現状です」
動物の健康管理について価値観も、時代とともに変遷しているという。まず病院側の問題を指摘する。
「昔は、日本人のペットといえば圧倒的に犬が多かった。また診療費は猫よりも犬のほうが高額に設定されていたので、ビジネス的に犬に力を入れている病院が多かった。そのため、獣医師の中にも犬を診るのは得意だけれど、猫はあまり診たことがない、という人もいるんです。飼い主からすると、猫の医療技術や知識がなく、質問にきちんとこたえてくれない獣医師に診てもらいたくはないですよね。今は猫のほうが、飼育頭数が多い時代。猫の飼い主さんときっちり向き合わずには、経営が難しくなってきてしまうのではないでしょうか」
一方、飼育の仕方が変化するにつれて、飼い主の意識も変わってきている。
「猫の飼い方にはいまだに地域差がありますが、都市部ではほぼ、完全室内飼育が定着しています。それは望ましいことなのですが、かえって間違った判断に結びついてしまう側面も。外に出さないから感染症や寄生虫にかかることもないだろう。だからワクチン接種や寄生虫予防は不要だ、と考える飼い主さんがいらっしゃるんです。ネットの情報ですでにケアできていると思っている方も多いですね」
また、犬と猫とで入手方法が違うことも影響している可能性がある。
「統計によれば、犬のうち8割は純血種。ペットショップなどから有償で手に入れている。つまり、能動的に飼い始めているんです。一方、猫では、いつのまにかふらりと現れた野良猫の面倒をみるようになった、知り合いの猫が子猫を産んだからもらってあげた、など受動的に迎えているケースもある。その中には、具合が悪くなっても『仕方がない』と、積極的に治療を考えない人もいます」
sippoの読者のみなさんは意識が高いから、こんな話を聞くと憤慨されるかもしれませんね、と先生は苦笑する。
何を調べたら病気が防げるの?
「ずっと元気でいて欲しい、どんなことをしても治してあげたい。そうおっしゃる読者の方もいらっしゃるでしょう。それほど猫を愛している、大切な家族だ、とみなさんおっしゃいます。本当にわが子なら、いくら嫌がったり泣いたりしても、6カ月児健診や1歳児健診をさぼるお母さんはいませんよね? そこから考えなくてはいけないと思うんです」
成猫ならば最低でも年に1回、9歳以上のシニアなら半年に1回の定期健診が理想だという。
猫にストレスがかかるから通院したくないという場合は、自宅で尿だけ採取して「猫抜き」で受診することも有効だと先生は言う。
「病院で採取した尿に比べれば診断精度は落ちますが、どんなことが猫の体内で起こっているかを知る手がかりにはなります。飼い主さんが日ごろの猫の生活をしっかり把握していれば、普段と比べてどう違うのかも聞き取れる。猫にストレスを与えずに、病気の予兆がつかめる。もし予兆があれば、それから連れてきていただければいい」
信頼できる病院を見極めるにはどうしたらいいのか。
・猫の生活のこと(食事、排泄、運動)について、具体的な知識があるか・相談に応じてもらえるか
・選択肢を挙げた上で、その中で獣医師自身が考えるベストな方法を示してくれるか
・尿だけの受診など、フレキシブルに対応がお願いできるか
・飼い主の飼い方(生活の仕方)によりそったアドバイスができるか
そして、どんなことも率直に相談できる関係を築くことが大事だと服部先生は言う。
「猫は不調を隠す生き物です。言葉で不調を訴えられない猫は、人間でいえば赤ちゃんと同じ。気遣ってあげられるのは飼い主さんだけなのです」
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- 服部幸(はっとり・ゆき)先生
- 東京猫医療センター(東京都江東区)院長。JSFM(ねこ医学会)CFC理事。 北里大獣医学部卒。2005年から猫専門病院長を務める。2012年に東京猫医療センターを開院。2013年、国際猫医学会からアジアで2件目となる「キャット・フレンドリー・クリニック」のゴールドレベルに認定される。
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