人生に猫が必要 自分を見失いかけた時、きょうだい猫に出会った

今も記憶にある中で、一番クリスらしい表情がこの写真。目がクリクリで、いつものほほん。
今も記憶にある中で、一番クリスらしい表情がこの写真。目がクリクリで、いつものほほん。

 私の弟分だったアーサーは人生2番目の猫。その次に私の家族になってくれたのは、アメリカンショートヘアのクリスとココの兄妹でした。

(末尾に写真特集があります)

自分を見失いかけたとき…

 最初の結婚をしたとき、母にべったりだったアーサーは実家に残してゆくことになりました。一人娘を嫁がせる両親にとっても、アーサーまでいなくなるのは寂しいことこの上なかろうと思ったのです。

 さて、結婚式もすませ、新婚旅行にも行き、楽しい新婚生活が始まりました。新居は神奈川県の小田原からさらに奥へ入ったところで、都心までは東海道線で2時間。それまでの都会暮らしから一転、アパートの周辺は田んぼだらけの、田舎暮らしのスタートです。空気も水もきれいで、おいしいものもたくさんあります。近所のみなさんはとても親切。新婚生活はまるでおままごとのようでした。

 しかし。問題は私にありました。時間が経つにつれ「おままごと」は現実になってゆきます。

 フリーランスとして旗揚げはしたものの、ご祝儀でお仕事がいただけたのは最初だけ。ネットも一般的ではなかった時代、打ち合わせに行くだけで片道2時間もかかる機動力のなさは致命的でした。ライターとしても未熟でしたが、腕を磨こうにも仕事が来ません。仕事のない焦り、ただ家事をして過ごすことへのいらだちを覚えるようになりました。

 そこではじめて、自分は結婚に浮かれていただけだったこと、その先の人生について楽観視しすぎていたことに気が付きました。

貫禄が出てきたころのココちゃん。避妊手術以降、あんなに細かった子がふっくらと
貫禄が出てきたころのココちゃん。避妊手術以降、あんなに細かった子がふっくらと

 そんな時、新聞で目にした「子猫譲ります」。私の目はくぎ付けになりました。
「子猫が生まれています。アメリカンショートヘアのグレイタビー。プロのブリーダーではないので、価格はお謝礼程度で結構です」

 気づけば即、受話器を取り上げていました。

やっぱり猫がいなきゃ!

「私の人生には、猫が必要なのよ!」

 今思うと変な言葉ですが、私はその日、帰宅した夫に新聞を見せながら力説していました。動物を飼った経験のない夫。何の話かとおどろいていましたが、ここ数日の私の落ち込みぶりに困惑していたので、結局は賛成してくれました。

 当初私は、オス猫を引き取るつもりでした。最初に飼ったサムも、次のアーサーもオスで、人懐こくて甘えん坊、という印象があったからです。お見合いの日、元の飼い主さんは子猫を3匹、ケージに入れてやってきました。

 生まれたのは5匹。うち1匹は飼い主さん宅で、もう1匹はすでに譲渡済。のこった3匹はオスが2匹にメス1匹でした。

「うわー!かわいい!」

我が家に来て、3か月ほどしたころのクリス。まだ耳がやたらと大きい
我が家に来て、3か月ほどしたころのクリス。まだ耳がやたらと大きい

 ちょうど手のひら大の子猫たちです。うちの1匹はほかの2匹の1.5倍はありそうで、でーん、と香箱を組んだまま、声をかけても見向きもしません。

 残る2匹はぴったりと寄り添っていました。小さいほうが女の子で、ちょっぴりおびえています。男の子が丹念に毛づくろいをしてあげて、「大丈夫、大丈夫」となだめているかのよう。

「この男の子がいいです」

 女の子の世話をしていた、優しい男の子を選びました。そっと抱き上げると、なんともぽやーん、としたお顔。のんきそうなタヌキ顔です。

「アメショーを飼うのは初めてですか?大きくなりますよ。可愛いですよ」

 手続きらしい手続きがあるわけでもありませんが、一応、血統書の関係で名前と住所を届けます、とのことで書類に記入を。その時、ケージに男の子を戻したら…。すかさずあの女の子のところへ飛んで戻るではありませんか。

「………」

 こんなに仲良しなのに、引き離していいものか。でも、猫を2匹飼うのは初めてだし…。
1匹分のお支払いをしようと財布を開けました。なんとか、2匹分の額は入っています。

家族でペット宿泊可のペンションに旅行したとき。外から虫が入ってきて、この後大騒ぎに…
家族でペット宿泊可のペンションに旅行したとき。外から虫が入ってきて、この後大騒ぎに…

「あの!」

 意を決したせいか、つい大声になりました。飼い主さんもびっくりしています。

「この、女の子のほうも、一緒にいただいてもいいですか?どなたか希望者がいらっしゃいますか?」

 飼い主さんはにっこり笑いました。

「一緒に引き取っていただけますか?」

「ええ。だってこんなに仲がいいのに、引き離すのは忍びなくて」

「そう言っていただけるとうれしいです。目が開く前からちっとも離れないんですよ。この子たち」

 お代は1.5匹分で結構です。差額はご飯代にでもしてあげてください。きょうだいですから、もう少し大きくなったら確実に避妊手術してあげてくださいね。

 飼い主さんのありがたいお申し出を受けることにして、晴れて2匹、我が家の一員になりました。

名前は世界的デザイナーから!

 その夜、帰ってきた夫は、猫が2匹いて仰天しました。用意してあった首輪もごはんの皿も足りないので、慌てて買いに行きました。

 名前をどうするか?ということになって、アーサーのときの法則を思い出しました。この子たちは母猫の3回目のお産で生まれた子。なので、Cで始まる名前にしよう。

 時代はバブル崩壊直後。ですが、まだ人の記憶にも流行にも、その残滓が残っていました。そこで女の子はココ・シャネルからココ。男の子はクリスチャン・ディオールからクリスになりました。

 数日後、元の飼い主さんから血統書が届きました。そこにはなんと。

 メス猫…シャネル

 オス猫…コング

という名前がありました!

「ココちゃん、やっぱりあんたはシャネルだったのね」

【前の回】3度の結婚 猫「アーサー」は歴代の旦那にとって手厳しい小姑
【次の回】お嬢さま猫「ココ」に寄生虫 のんきな飼い主だった自分を反省

浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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この連載について
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猫と暮らし始めて、気が付けば40年! 保護猫ばかり6匹と暮らすライターの、まさに「カオス」な日々。猫たちとの思い出などをご紹介します!
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