3度の結婚 猫「アーサー」は歴代の旦那にとって手厳しい小姑
私の弟分だったアーサーは人生2番目の猫。20年にわたって「弟分」でいてくれましたが、途中、一緒に暮らせなかった時代がありました。
両親とのケンカの仲介役は猫「アーサー」
大学を卒業して情報誌出版社に就職。そこで7年ほど働いたところで、私と結婚しようというもの好きな男性が現れました。バブル景気に踊らされて、連日の深夜残業、そこから朝まで(クラブではなく!)ディスコ、なんていう日々に疲れていた私は、あっさり会社を辞め、結婚準備に奔走したのです。
そもそも、両親はこの結婚に反対でした。口をきかなくなるほどのケンカも何度もしましたが、そのたびに仲介役になったのもアーサーでした。「アーサー、お姉がどうしてるか見てきて」。部屋にいる私に、わざと聞こえるように母が言います。
アーサーは開けっ放しのドアからそっとのぞき込み、私と目が合うと「なーう」。そして小走りにリビングの母の元へ報告に戻ります。
夜中に帰った日の翌朝は、父がアーサーに話しかけています。「お姉、ゆうべ何時に帰ってきた? 父さんも母さんも心配したんだぞって言っといてくれよ」。これも私に丸聞こえです。
結婚にあたり、アーサーのことは家族全員で悩みました。私にとっては大事な弟ですが、一人娘を旅立たせる両親にとっては、かけがえのない息子のようなもの。結局、母に泣きつかれて実家に置いていくことにしました。
猫「アーサー」、1番目の旦那が帰るとほえる
結論から言うと、その結婚は1年ほどで破綻しました。ある意味親の心配した通りになったのです。ふたたび3年ほど親元で暮らし、2度目の結婚。またもやアーサーとお別れすることになったのです。実は2度目の結婚も1年半で終止符となりました。今は3番目の旦那さんと一緒に暮らしています(この結婚はもう20年になるので、さすがに大丈夫だと思います…。多分)。
アーサーは最初の結婚、二度目の結婚、三度目の結婚、すべてを見守ってくれました。家を出たり入ったり。浮かれていたかと思うと泣き暮れて、しょうもない飼い主にあきれていたかもしれません。それでも、私が怒ったり泣いたりするたびに、寄り添って涙をなめてくれました。
歴代の旦那さんたちにとって、アーサーは実に辛辣な小姑だったといえるでしょう。特に最初の旦那さんのことは苦手だったようです。彼が家に来ても、アーサーは軽くあいさつするだけでさっさとどこかへ行ってしまいました。母によれば「彼が帰るとアーサーね、玄関で大声でほえるのよ」。
犬じゃあるまいし。いつも彼を送って一緒に家を出ていたので、にわかには信じられませんした。しかし、ある日彼だけが帰ったあと、
「ああーぉぅ!わーううぅ!」
アーサーが閉まった扉に向かって怒りの声を上げたのです。出迎えるときは知らん顔するくせに、なんで? そのときは「あんたまで私たちに反対するのね!」と腹を立てた私でしたが、結局離婚。
二番目の旦那さんは大の動物好きでした。アーサーにも優しくしてくれましたが、アーサーは一向になつきませんでした。彼が手を差し伸べてもひらりとかわして、手の届かないタンスの上にさっさと逃げていました。
そして、今の旦那さんです。彼がアーサー的ヒエラルキーの最下層にいたことは、前にもお話ししました。
彼が初めて私の実家に顔を出したときは傑作でした。アーサーはただ遠巻きに見て、知らん顔。そこまでは歴代旦那衆と同じです。
彼の好物がバーボンウイスキーだと聞いて、母はI.W.ハーパーの12年ものとブルーチーズを用意していました。我が家は誰もお酒を飲まないので、どうもてなしたらいいのかわからないのです。
「ありがとうございます。勝手にやりますからお気遣いなく」
言葉通り、彼はさっさとロックを作ってうれしそうになめています。つまみのブルーチーズのパックをぴっ、と開けた瞬間。
(おっ? お前、お母さんに何もらってんだよ。見せろよ)
アーサーがよっこいしょ、と、彼の目の前に座ったのです。
「……あの…猫がチーズ欲しそうなんだけど?」
猫を飼ったことのない彼は面食らっています。
「そりゃ欲しがるわさ。好物だもの」と母。
「だってブルーチーズですよ?人間だって嫌いな人いるのに?」
「あげてごらんよ。ただし、ほんのちょっとね」
耳かき一杯程度のかけらを恐る恐る差し出すと、アーサーはぺろっと食べて満足げ。塩も脂肪も強いから、もちろんそれ以上はあげません。
「へええー!」
チーズを食べる猫がそんなに珍しいかい、あんた。両親も大笑い。アーサーはクールなふりして顔を洗っています。
(お前、いいヤツだな。お姉のこと、大事にしろよ)
ある意味、アーサーが認めた初めての旦那さんだったのかもしれません。
【前の回】私の猫になった「アーサー」 Aで始まる名前のわけと円卓の騎士
【次の回】人生に猫が必要 自分を見失いかけた時、きょうだい猫に出会った
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