みんなに愛想がいい猫「ぽんた」 飼い主の胸の内はちょっと複雑(28)

 ぽんたが慢性腎臓病と診断されてから1年が過ぎ、家に来て2度目の春を迎えた。

(末尾に写真特集があります)

 腎臓病用の療法食を与え、毎日の投薬と2カ月に1度の通院と血液検査の結果、数値は少しずつ下がり、正常値の範囲に近づいた。

 腎臓病は進行性の病気なので、数値が下がったからといって失われた腎機能が元に戻るわけではない。数値は、現在の腎臓がどの程度機能し、老廃物を濾過できているかの指標だ。数値が低くなれば、それだけ腎臓の調子がよく、病気の進行が抑えられていることを意味する。

 実際、ぽんたは元気だった。ときどき、ドライフードに口をつけたがらない日もあったが、そういうときは療法食のウェットフードの量を増やせば必要カロリー量を摂取できたし、何もしなくても、1〜2日もすれば食欲は回復した。私もぽんたの食欲に一喜一憂することはやめ、食欲がなくても「そういう日もあるだろう」と構えられるようになった。点滴治療をせずに半年近く過ごせていたし、体重は5kgに増えていた。

 風が心地よい日に、ベランダで洗濯物を干す手を止めてサッシに腰を下ろし、日なたで気持ちよさそうに転がるぽんたをながめる。1年前に宣告された「余命2年」は、楽に越えられそうな気がした。

「おばちゃんが作ったお花も日なたぼっこ」(小林写函撮影)
「おばちゃんが作ったお花も日なたぼっこ」(小林写函撮影)

 ぽんたから見て、私とツレアイはお互いを「おじちゃん」「おばちゃん」と呼んでいた。

 ぽんたは子猫で保護したわけではなく、私たちと同世代か、それ以上の年齢だ。外で自立して暮らしていた経験もあるし、そういう猫に対して「おとうさん」「おかあさん」では違和感があったため、なんとなくこの呼び方になった。

 ぽんたは、元野良猫にしては、人間に対しての警戒心が薄い。生粋の野良ではなく、なんらかの事情で野で生活することになってしまった元飼い猫だったからで、だからこそ、猫を飼ったことのない私のような人間でも保護することができた。

 来客も平気だった。インターホンが鳴ると、どの部屋にいても、いったんは猛スピードで私の部屋に逃げ込む。そして、そのお客が部屋に上がり、リビングで私たちと話をはじめるとトコトコと現れて、「ここにいるよ」という視線を送ってくる。それは相手が修繕工事の業者でも、友人の場合でも変わらない。

 工事業者の場合は、その人が大きな機械音などをたてない限りは近くに寄り、興味深そうに作業を眺めている。

「今日はスポンジじゃなくて毛玉で遊んでるんだ」(小林写函撮影)
「今日はスポンジじゃなくて毛玉で遊んでるんだ」(小林写函撮影)

 友人の場合は「ぽんちゃんだ、こんにちは」「かわいいねー」など、自分に関心を寄せて甘い言葉をかけてくれているのがわかるらしい。すぐに得意そうに床に転がっておなかを見せ、「なでてもいいよ」のポーズをとる。ぽんたは、人を引っ搔いたり嚙んだりする癖もないため、安心して戯れてもらうことができる。

 ひとしきりなでてもらい、打ち解けた様子のぽんたは、ソファに飛び乗って友人の隣に座ったり、ひざにのろうとする。さらに調子にのるとテーブルの上の料理に興味を示しはじめるので、厳しく諭してテーブルから引きはがす。すると今度は友人に向かって「なー」と鳴き、もっと相手をしろとアピール。私は、友人にその気があればじゃらし棒を渡し、しばらくぽんたと遊んでもらう。

 近所に住む若い夫婦が来たときは、ご主人がぽんたをブラッシングをしたいと言うのでペット用ブラシを渡した。酔いがだいぶまわっていた彼は、なぜかぽんたのことを「ポチ」と呼びながら、ずいぶん長時間ブラシをかけていた。ぽんたは嫌がることなく、されるがままになっていた。

「このお兄さんのブラッシングってどうなのかな?」(小林写函撮影)
「このお兄さんのブラッシングってどうなのかな?」(小林写函撮影)

 一度に10人の来客があった日には、普段とあまりにも違う光景にさすがに居心地が悪かったのか、私の部屋に引っ込みがちではあった。それでも食事の時間には現れて台所でフードを食べ、水を飲み、廊下の猫トイレで排泄を披露した。

 愛想がいいぽんたは友人からは高評価で、飼い主としてはうれしい。だが「飼い主にしか心を許さない猫」というのにも憧れる。誰にでも懐くぽんたは、どこの「おじちゃんとおばちゃん」とでも楽しく暮らせるのではと、少し複雑な思いがするからだ。

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宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
猫はニャーとは鳴かない
ペットは大の苦手。そんな筆者が、ひょんなことから中年のハチワレ猫と出会った。飼い主になるまでと、なってからの奮闘記。
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