家に迎えて1年 私をガラリと変えた猫「ぽんた」の力に驚く(27)
ぽんたが家に来てから1年が過ぎた。
(末尾に写真特集があります)
降圧剤の投与をはじめてから3カ月、体調はいいようだ。保護してからちょうど1年目となった日に、定期健診として全項目の血液検査を行ったところ、腎臓以外は特に問題はなかった。その腎臓の数値も、前回よりはまた少し改善されていた。
食欲も旺盛で、体重は4.9kgまで増えた。病院では「今後、また食欲が落ちて体重が減るかもしれないので、ある程度はあったほうがよいとは思いますが、ぽんちゃんの体格なら、4.7kgぐらいに抑えたほうがよいでしょう」とそれとなくダイエットを勧告された。
1年前の今頃は、猫という生き物の存在にとまどい、その一挙手一投足におっかなびっくりしながら暮らしていた。今では家の中に猫のいる風景があたりまえになり、いないことが想像できないようになっていた。
朝は、掛け布団の上で私にくっついて寝ているぽんたを確認するか、食事の催促で起こされることからはじまる。フードを与え、薬を飲ませ、ぽんたが家中をパトロールしたり、窓外をながめたり、スポンジボールで遊んだり、昼寝をしたりする姿に目をやりながら仕事をする。
猫トイレの掃除をし、ときにはじゃらし棒で遊ばせ、ブラッシングをし、構ってほしくて擦り寄ってくるときは、なでて、話しかける。夜になると「寝るよー」と声をかけ、私が布団の中に入ると、どこにいてもぽんたはやってきて、私の横で丸くなる。
外出する日は、「今頃ぽんたはどうしているか」が常に気になり、寄り道をせずに帰宅することが増えた。
こうして猫を飼うようになってから、「家の中に世話をしなければならない動物がいる」ということ以外にも、私を取り巻く環境は大きく変わった。
街を歩いていると、猫の姿が以前より目に入るようになった。外で暮らす野良猫はもちろん、民家の窓から外を眺めている飼い猫もだ。前は「猫がいる」程度の風景の一部でしかなかったものが、同じ空気を吸う生き物として、個性を持って存在するようになった。猫を見かけると足を止め、しばらく眺め、声をかけることが習慣となった。
犬に対しても同様だ。動物が苦手だった私は、知らない犬に愛想を振りまかれると、かつては困惑していたが、今は、話しかけたり、なでることもできる。散歩中の飼い主と犬の姿を見ると、それぞれにドラマがあるのだろうなと、自分と重ね合わせてみる。
また、初対面の人でも、お互い「動物を飼っている」だけで急速に距離が縮まるということもわかった。ある飲み会の席で隣同士になった女性とは、ちょうど同じ頃にはじめて動物を飼いはじめた、ということで意気投合。彼女は犬、私は猫と種類は違っても、それぞれの性格や悩みの話をしているだけで2時間があっという間に過ぎた。
ほかには、動物を扱ったテレビ番組、例えば大自然で暮らす野生動物のドキュメンタリーなどを見るようになったことも大きな変化だ。過酷な生存競争の中に身を置き、生き抜く彼らの様子は、作られたストーリーなどよりずっとドラマチックで、画面に引き付けられる。
その一方で、「動物園で暮らすホッキョクグマに暑中見舞いに氷柱が贈られた」というような新聞記事を読むと、ほっとする。そして、エアコンの効いた部屋でぬくぬくと昼寝をする我が家の猫の頭をなでてみる。
それから、猫ブログを読みふけり、古今東西の猫にまつわる小説やエッセーも、かたっぱしから手に取るようになった。本棚には「猫」の文字が入った背表紙が増えていく。
そういった本には「可愛くおかしい猫との日常」だけでなく、死にまつわるエピソードも登場する。ほほえましいストーリーだと思って電車の中で読んでいると、急に悲しい出来事が登場し、目からあふれる涙を止められなくなることがある。猫に関する書物は、人前では読まないほうがよいことを知った。
人は歳をとると変わることが難しくなると言われる。齢50になるまで、動物に興味がないどころか苦手だった私を「動物好きな人」に変えてしまう、ぽんたの力には驚かされている。
【前の回】回復した元野良猫「ぽんた」 スポンジ拾いは健康のバロメーター(26)
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