腎臓病の猫「ぽんた」との暮らし 動物病院はお守りみたいなもの(29)
猫を飼うまで、一生縁がないと思っていたもののひとつが、動物病院だ。
(末尾に写真特集があります)
動物というものは、体の具合が悪ければ自然治癒力で治し、治らない場合は寿命がきて自然に亡くなる。それはペットも同じで、病気になった場合でも、よほどのことがない限りは家で飼い主が面倒をみながら自然のなりゆきにまかせる。そう想像していた。
だから、人間のような医療保険がなく、治療費が高額になるらしい動物病院は、お金持ちが行くところだと思っていた。飼っているのは、犬ならトイ・プードル、チワワ、ダックスフント、猫ならペルシャとかロシアンブルーのような純血種。
かつて、ペットを人間扱いする飼い主に違和感を感じていた私は、知り合いが血統書つきの飼い猫の治療のために、軽自動車1台が買える費用をつぎ込んだ、という話を聞いたときは、驚いたりあきれたりした。
それが、ぽんたと暮らすようになって、考え方ががらりと変わった。
今では、ぽんたがちょっとくしゃみを連発しただけで、「すわ、病院か!」と思う。動物病院は私の生活に欠かせない存在であり、「お守り」みたいなものだ。
動物病院に通うようになり、驚いたことはいろいろある。
人間の病院なら、耳鼻科、内科、泌尿器科など、診察する分野が分かれている。しかし一般的な小動物を扱う動物病院では日常的な風邪やけがから、ガンなどの重病まで1人の医師が対応する。あるときは歯科や産婦人科にもなるし、外科医として手術もする。しかも患者は、どこが痛いとか具合が悪いとかを述べてはくれない。「ものを言わない動物」相手の場合は、高度な医療技術や知識、経験以外に人間として何か必要なものがある気がする。
また、診察中におびえたりストレスを受け、凶暴になる動物もいるだろう。その証拠に、ぽんたの通う病院の院長先生の腕には、ときどき痛々しい傷痕が見られる。
「駆け出しの頃は、診察中に動物たちに引っかかれたりかまれたりすると炎症をおこして腕が腫れることもありました。今は免疫ができたせいか大事には至りませんね」とのこと。
医師の診療の補佐をする動物看護師の存在も、猫を飼うようになって知った。ぽんたの通う病院の看護師は全員女性で、たとえば採血のときなどは、彼女たちがぽんたを押さえて動かないようにする。
その腕の筋肉の状態から、かなり力を入れていることはわかるが、ぽんたが痛がる様子はない。この作業は「保定」と呼ばれる。皮下輸液(点滴)の際に、私が押さえていることがあるが、むずむずと居心地悪そうに体を動かす。医師が治療に専念するために、いかに重要な作業かがうかがえる。
こうした緊張感のある現場でありながらも、「ぽんたちゃん、えらいねー」「毛並みがいいねー」「おりこうだねー」と、治療中に彼女たちがかけてくれる声はやさしい。そして受付では、「ダイエットさせたいのだけど、ねだられるとついご飯をあげちゃうのよね」というような飼い主たちの悩み相談にも、テキパキかつていねいに対応している。
これまで未知の世界だったプロの仕事にふれるのは心地がいい。私はぽんたの治療が終わると、いつもすがすがしい気持ちで病院をあとにしていた。
ぽんたが家に来て1年半、慢性腎臓病と診断されてから1年と2カ月が経ったある日、ぽんたが体調を崩した。
丸1日、ドライフードもウェットフードもほとんど口にしなかった。水もあまり飲まない。
「なんとなく食が進まない」レベルではないと感じ、慌てて動物病院に連れて行った。
血液検査の結果、腎臓の数値は少し上昇していた。脱水もしているとのことで、8カ月ぶりに点滴治療を行った。
食事をとらなくなったり脱水するたびに、腎臓の機能は低下していくという。2日前までは、食欲もあり元気だったのに。
すると先生が言った。
「別の薬を追加してみましょうか」
血管を広げて血流をよくする錠剤だそうだ。ぽんたの体調改善に効果があるという。
ぽんたの腎臓の機能は、ゆるやかではあるが低下してきている。でもまだ、それを食い止めるための手段はあるのだ。
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