お父さん犬を探して迎えた家族 ボロボロだった老犬が知った幸せ

   ブリーダーのもとで、子犬を産ませる繁殖犬として長く働いたオス犬が、“娘犬”が暮らす家に迎えられた。当初は被毛もボロボロで、歩くことさえできず、目や耳も不自由だった。だが、家族に愛情を注がれて活発になり、余命を1年、また1年と延ばしていった。

(末尾に写真特集があります)

   マルチーズのモアナ(オス、15歳)とアネラ(メス、9歳)に会ったのは、まだ少し肌寒い春先だった。この日は友だちの家に遊びにきていた。

「2匹は親子なんです。もうモアナはおじいちゃんですけどね」

   飼い主の智代さん(45)に抱かれたモアナの目は、白内障等が進んでいるのか濁っている。でも、表情は豊かで愛嬌たっぷり。娘のアネラとお揃いの服がよく似合う。

   そばで友だちのトイプードルが“遊ぼうよ”というように鳴くと、モアナは犬の輪の中に入っていった。その姿を、智代さんが愛おしそうに見つめる。

「こんなふうに元気でいてくれて嬉しい。だってモアナは出会った頃、獣医さんには余命1年といわれていたから……」

お友達の家でママに抱かれるモアナ(左)とアネラ(友永翔大撮影)
お友達の家でママに抱かれるモアナ(左)とアネラ(友永翔大撮影)

親犬の存在が気になりはじめる

   モアナが家にやって来たのは、4年前の1月だ。智代さんの家では、それまでペットショップから迎えた“ひとり娘”のアネラを大事にしていたのだが、お父さん犬やお母さん犬に会ってみたくなったのだという。

「アネラは初めて飼った犬。当時は、保護犬のこととか、この世に不幸な犬がいるということを知りませんでした。友だちに誘われて保護団体でお手伝いをするようになって、アネラの親が気になり始めて……。まだ繁殖場にいるなら、引き取りたいと思いました」

   血統書にあった県名を頼りにネットで探し、繁殖場に電話してみると、お父さん犬は存命だった。「あと1回繁殖があるが、それが終わったら、もういらない」と言われたという。智代さんはお父さん犬を「幸せにしてあげたい」と思った。

   経緯を説明すると、保護団体からも「繁殖場から引き出そう」と言われた。

家に迎える前のモアナ。茶色がかった顔の色は「ケージの錆」と繁殖場から説明されたという(提供写真)
家に迎える前のモアナ。茶色がかった顔の色は「ケージの錆」と繁殖場から説明されたという(提供写真)

まずは一時預かりで

 だが、一つ問題があった。家で飼うことに夫が納得しなかったのだ。動物好きだが、命あるものだからと躊躇した。夫を説得するまで、保護団体に預かってもらうことにした。

 ところが、直後にシェルターでボヤ騒ぎがあり、すぐに自宅に連れて来ることになった。

   夫には「一時預かり」と伝え、譲渡会にも参加させた。「老犬だから、もらい手が見つかりにくい」と説明した。

   “娘犬”のアネラは、老いた“親犬”の出現に、最初は遠巻きに見たり、隠れたり、緊張した様子だった。智代さんはおやつを一緒に与えるなど、2匹の距離を少しずつ縮めていった。2匹は2カ月ほどですり寄るようになった。

   その頃、智代さんは病気で入院を経験。退院後、モアナに癒やされている智代さんの姿を見た夫から、飼い犬とすることにOKが出た。夫は2匹の関係も見ていたのだった。

   こうしてモアナは、その年の4月、正式な家族になった。

柔らかいブランケットで”親子”仲良く昼寝(提供写真)
柔らかいブランケットで”親子”仲良く昼寝(提供写真)

「余命1年」が伸びていった

   当時のモアナは、体重わずか1.5キロ。繁殖中にけがをしたようで、腰の骨は折れたまま固まっていた。立ち上がっても、歩くのもままならなかった。

「病院で内臓も診てもらいましたが、この状態だと『一年もてばいい』といわれました。あの時、ブリーダーに問い合わせなければ、処分対象になっていたのかもしれません。飼い主として最後まで見守りたいと言うと、獣医さんも『できる限りのことをする』と言ってくださいました」

   モアナは目や耳も悪かったが、鼻だけはよく、実は食いしん坊だった。「以前は思うように食べられなかったのかな」と智代さんは胸が痛んだ。食事の準備をしていると、モアナは「ワン(ごはん早く)」と催促するようになり、体重も増えていった。

   智代さんが車やカートで、カフェや遊びのスポットへも連れて行った。白く濁った目を見て、「かわいそうね」と言う人もいたが、こんなふうに明るく答えた。

「目は見えないけど、鼻はものすごーくいいので、ごはんもわかるし、可愛い子が目の前に来たら、バッチリ見えているかも(笑)」

 出かけているうちに、モアナは円を描くようになら歩けるようになった。口からべろんと長く出ていた舌も、よく食べることで筋肉がついたのか、短くなった。

   こうして「余命」とされた1年が、2年、3年と延び、今年1月で4年を迎えた。夫にとっても大切な存在となり、夫妻と2匹の絆がむずばれていった。

ハワイのレイをかけて(今春自宅にて 提供写真)
ハワイのレイをかけて(今春自宅にて 提供写真)

さよならの向こう側

 急変したのは、3月だった。

   モアナが急に体調を崩した。動物病院で調べてもらうと、肺のわかりづらい部分にガンがあり、心臓のほうに転移していた。高度医療センターで治療もしたが、救うことはできなかった。

「最後まで生きようとしていました。318日には15歳のバースデーも迎えて。亡くなる前夜、苦しそうなモアを見た時、『ありがとう、大丈夫よ、愛してるよ』と朝まで伝え続けて……413日の昼に旅立ちました」

 葬儀には、会社を休んで駆けつけてくれた犬友だちもいた。花で埋め尽くされたモアナの写真は、笑っているようにもみえた。

   その旅立ちから1カ月ほどが経った。智代さんは穏やかに話す。

「モアナを見て、保護犬の存在を初めて知った人もいました。はじめはボロボロで、どうしたの? と思われていた子が、どんどん可愛くなっていって。その姿を見た人たちから優しい言葉をかけてもらい、新しい友だちも増えました。おじいちゃん犬にもできることがたくさんあって、モアナも人をどんどん好きになってくれて、嬉しかった」

 モアナがいなくなると、アネラは声がかれるほど鳴いた。智代さんはモアナの匂いのするクッションを置き、以前よりアネラとたくさん遊んであげるようにしているという。

「晩年はせめて穏やかにいう気持ちでしたが、モアナからこちらがたくさんの幸せをもらった。救った命に、私が救われていたんです」

   モアナはきっと、雲の向こうから見守っていることだろう。

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藤村かおり
ペットライター。小説等の創作活動を経て90年代後半から、ペットの取材を手掛ける。2011年~2017年週刊朝日記者、2017年からsippoメインライター。丹念な取材と独自の目線から、動物と人の絆、動物と共に生きる人の心をすくい取る記事に定評がある。ペット関連の著書に『長寿猫』『明日にアクセス』など。現在は保護した黒猫、キジ猫と暮らす。

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