保護された元繁殖犬 初めて人のぬくもりと、遊ぶ楽しさを知る
子犬を産ませるための繁殖犬だったトイプードルが、事件をきっかけに保護された。犬好き夫婦に引き取られ、初めて人のぬくもりと、仲間の犬と遊ぶ楽しさを知った。
東京都品川区にあるタワーマンションの36階。坂爪りえさん(53)宅を訪ねると、トイプードルが2匹、玄関に勢いよく迎えに出てきた。「そらまめ」(オス、9歳)と「レオ」(オス、推定8歳)だ。
見晴らしのよい居間には、普通よくあるダイニングテーブルが見当たらない。あるのは犬と一緒に座るソファ、犬がソファを上り下りする階段、大きなペットマット、キャリーバッグやケージ。部屋が“犬仕様”になっている。
りえさんが「この子たちが室内で動きやすいように、大きな家具は処分したんです」と説明してくれた。
航空会社の客室乗務員として忙しく働くが、この日は休み。友達のマルチーズが2匹遊びに来ていたほか、同僚の犬も1匹預かっていて、居間はさながら犬の保育園のようだっだ。
そんな中で、ひときわ尻尾を振って愛想を振りまいていたのが、レオだった。
「ぼくを“見て見て”状態ですね(笑)。本当に自分をうまく表現できるようになったし、体重も増えたんですよ、おやつが好きで、今はちょっと“タヌキくん”です」
ガリガリに痩せて保護
レオが家にきたのは2014年12月。先住のそらまめが5歳の頃だ。
「そらまめはブリーダーから迎えたのですが、犬と暮らして以降、動物のために何かしたいなと思って、たまたま見つけた保護団体に寄付をしたり、譲渡会などのお手伝いをしたりするようになったんです。ある日、“あなたに飼ってほしい子がいるのだけど”と団体の代表から相談されました」
ある事件の現場から救出された犬だった。東京都内のペットショップ経営の女性らが、獣医師免許がないのに犬に混合ワクチンを注射したとして、獣医師法違反容疑で逮捕された。トイプードル専門の繁殖と販売をしていて、複数の保護団体が取り残された犬の救出に入った。レオはそのとき保護された繁殖犬だった。
りえさんは、そらまめを“ひとりっ子”として溺愛していた夫に「うちの子として可愛がってあげない?」と相談した。夫も了解してくれたため、先住犬のそらまめとおそろいのケージを買い、レオを家に迎えた。
やって来たレオはひどく痩せていて、体重は1キロ台しかなかった。
「ブリーダーはトイプードルの中でもティーカップと銘打っていたので、体形を保つため満足な食事を与えていなかったらしいんです。余分な筋肉や脂肪をつけないように、食事は日に2回、ささみ汁をほんの少しのフードにかけてふやかしたものだけ食べさせていたと聞きました」
家でもレオは、ドッグフードをなかなか食べようとしなかった。りえさんがおやつをあげてみると、ぱくっと口に入れて、“世の中にこんな美味しいものがあるの?”というように目を輝かせた。だが食べ終わると、またケージの端に隠れるようにして固まってしまったという。
徐々に心を開いていったレオ
「前はケージから出るのはお仕事(繁殖)の時だけ。名前を呼ばれたり、人に抱かれたりすることもなかったようです。それで我が家では、とにかく名前を呼んで、抱きしめるようにしました」
2カ月後、ドッグランに連れていくと、最初はおそるおそるだったが、先住犬のそらまめに促されるようにして、走り出した。そんな姿に愛しさが募った。
そらまめも、新入りの弟分をスムーズに受け入れた。
「レオが来たことで、ヤキモチを妬くどころか、逆にのびのびした感じなんです。むしろそれまでが過干渉だったのかもしれません。2匹になって、私もほどよい愛情の配分ができるようになりました」
レオは家族や犬友達とのお出かけが大好きだが、今は「お灸と鍼」にもハマッている。
「持病はないのですが、ノミ薬が原因でひきつけを何度か起こしたことがあって、体質改善のために鍼灸を試すと、体調が落ち着きました。月に一度、往診の先生に鍼を打ってもらうと、体がほぐれるのか気持ちよさそうにします。またドッグランにも行こうね」
そう声をかけられると、レオはシッポを動かした。ソファから下り、春の日ざしが降り注ぐ窓辺に近づいた。
(撮影・友永翔大)
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