ガリガリだった大型犬、救出され、幸せな家に 少女とともに成長
劣悪な環境から救出された大型犬ゴールデン・レトリーバ-が、犬を飼いたいと切望していた少女と出会った。その出会いが、犬の生活を一変させ、少女も変えた。
埼玉県川越市。瀟洒な家の玄関先で、人なつこそうなゴールデン・レトリーバーが迎えてくれた。目をキラキラ輝かせ、しきりに尾を振る。「アル」(2歳、オス)だ。
吹き抜けになった居間には、大きな木製のハウスがあった。中学1年生の大澤晴奈さん(13)が説明してくれる。
「ハウスはパパの手づくり。最初の頃は弟たちが一緒に入ったりしていました(笑)」
両親と子ども3人が暮らすこの家にアルがやって来たのは、2017年12月。晴奈さんが小学6年生の時だった。
待ち焦がれた犬との暮らし
母の美智さん(40)が当時を振り返る。
「娘は小さな頃から犬を飼いたがっていました。でも『そのうちね』『いつかね』と私が何年も先延ばしにしていたんです」
美智さんの実家では超大型犬を飼っていた。美智さんが実家を出たあと、高齢になって寝たきりになった犬を母親が介護する様子を見て「大変だ」と実感し、躊躇していたのだ。
そうこうしているうちに、晴奈さんは近所に住むお年寄りの飼い犬の散歩の手伝いを始めた。そして、ある時、母に抗議した。
「ママずるい! 『いつか』って、いつ? その気がないなら『いつかそのうち』なんて言わないでよ」
美智さんはその言葉にはっとした。その夜、夫に相談し、「飼うなら保護犬」と情報を探したという。すると翌日、市内の百貨店で保護団体「Dog-Nuts(ドーナッツ)」が譲渡会を開くことがわかった。習い事が休みだったこともあり、家族全員で見に行くことにした。
予想外の出会い
そこには予想外の出会いが待っていた。晴奈さんがいう。
「お目当ては、ネットにも紹介されていた中型のミックス犬でした。スタッフにミックス犬のことをいろいろ聞こうとしたら、『今日は連れてきていないけど、ほかにも紹介したい犬がいるよ』と言われて。スマホで見せてくれたのが、ゴールデン・レトリーバーのアルだったんです」
写真をみた途端、晴奈さんの胸が高鳴った。「いつかは飼ってみたい」と最も憧れていた犬だったからだ。
大型犬のため、美智さんは少し戸惑ったが、お見合いすることにした。譲渡会の10日後、公園でアルと待ち合わせると、初対面ながら、家族のほうに一目散に駆け寄ってきて、車に乗ろうとした。そのけなげさに美智さんの心も動いた。責任を持ってこの子を迎えたい。それから20日後、トライアルが始まった。
ネグレクトされた犬
保護団体にいる犬猫は、つらい過去を抱えているケースが少なくない。アルにも晴奈さん親子が驚くような過去があった。
アルは、もともと地方に住むサラリーマンが子犬の頃に買って、飼い始めた犬だという。だが、すぐに持てあまして『自分では飼えない』と実家に連れて行った。実家では屋外の狭い場所につながれ、糞尿にまみれ、散歩にも連れ出してもらえなかった。餌は家主が時おり投げ与える少量の残飯で、ガリガリに痩せていたという。
「あれでは虐待だ」と近所の人から声があがり、Dog-Nutsに連絡が入った。この飼育状態はひどいと懇々と説明して、家主から引き取ったのだという。アルは歩けないほど弱っており、車に乗せられて家を離れる時、後ろを振り返ることもなかったそうだ。
「衰弱しながらも誰かの助けを待っていたのかもしれない。そう思うと切なかったですね…」と美智さんはいう。
今では、よろよろと歩けなかった昔の姿が想像できないほど元気になった。
最年少のボランティア
晴奈さんの家の前は畑があり、その先は原っぱになっている。アルは毎朝2回づつ、散歩に出かけるほか、ドッグランのような広い原っぱを駆け回る。
原っぱでボール遊びの相手をするのは2人の弟。泥だらけになったアルをシャンプーするのは晴奈さんの役目だ。美智さんは、一番大変な世話を率先して引き受ける娘の姿に、少し驚いたという。
「晴奈も以前は、弟や家のことでイライラしていたけど、アルが来て、落ち着いたわね」
さらに晴奈さんは部活がない休日などに、Dog-Nutsの手伝いをするようになった。譲渡会の会場で、参加する犬の排泄の始末をしたり、人慣れしていない犬と遊んであげたりする。
「ボランティアのみんながワンちゃんのために尽くし、幸せにしたいと思っている、それを見て、私にも何かできることないかなって考えたんです。両親に相談して、他の保護犬の預かりもこれからすることにしました。アルも手伝ってくれる?」
晴奈さんが姉のように優しく話しかけると、アルは“笑顔”で見つめ返した。
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