猫仕様に自宅を改装、庭に保護猫シェルター 女性会社員の思い

“犬派”だった女性が、たまたま野良猫と出会ったことをきっかけに、40歳を過ぎて、猫の保護活動を始めた。保護猫のために、400万円かけて自宅を改装もした。そこまで保護活動に打ち込むようになった転機は離婚だった。猫へのあふれる思いを聞いた。

(末尾に写真特集があります)

 都内杉並区にある五十嵐朋子さん(53)宅。実母と暮らす2世帯住宅の前に、2棟の小さなプレハブ小屋があり、窓から猫の顔が見えた。

「駐車場を壊して保護部屋を作ったんです。3年前に建てた保護部屋1号には白血病の子が1匹、昨年建てた保護部屋2号には、会社の近くで保護した6匹の猫がいます」

 部屋にはエアコンを備え、木製のステップ、ハウスなどもあって居心地がよさそうだ。

保護猫部屋 2号棟の中
保護猫部屋 2号棟の中

 2階の自宅にあがると、三毛猫が玄関先に座って出迎えてくれた。

「この子は長老17歳のハナ子です。去年まで22歳の子もいたんですけどね……。まず男部屋を案内します。相性の良くないオス同士を離すために、部屋を分けたんです」

  引き戸を開くと、8畳ほどの部屋があり、天井付近に猫用の吊り橋(ウォーク)やステップが付けられ、猫が楽しそうに歩いていた。リビングにも梁を利用した立派なステップやハンモックが備えられている。個人宅なのに、まるで猫カフェのようだ。ソファやテーブル、床、それぞれに猫がいる。

「私は勤続30年の会社員ですが、“保護ねこラウンジ管理人”という肩書の名刺も持っています。部屋全体を保護猫たちに解放して、猫たちが新たな生活に歩み出せるまでの間、安心してくつろげるような待合室を目指しています。といっても私が保護するのは、基本的におとなの猫で、中には夜鳴きをしたり、虐待の後遺症があったり、排泄難があったりして譲渡の対象にならず引き取るケースも多いんです。この7年で11匹看取りました」

リビングに作った猫ステップ 
リビングに作った猫ステップ 

会社近くの神社で見つけた猫

 屋外の保護小屋と2階の猫仕様の部屋の改装に、約400万円かけたという。猫への半端ない思いが伝わってくる。子どもの頃から猫に囲まれて生活していたのかと思いきや、意外にも40歳過ぎまで、猫の体に触れたこともほとんどなかったらしい。

「元々動物は好きでしたが、どちらかというと犬派で、結婚後もミニチュアダックスを飼っていました。猫に目が行くようになったきっかけは、会社の引っ越しなんです。今まで3度移転をしたのですが、14年前、2度目に移った新宿区に野良猫が多くいて……」

 会社の裏の神社に、人慣れした野良猫が数匹いた。会社の人たちがお弁当をあげていたが、「捨てられた」と聞いて不憫に思い、朋子さんは懸命に世話を始めた。ある時、猫を複数飼うという女性と出くわし、「猫が好きなの?」と声をかけられた。

「動物が好きですと答えたら、『去勢してない猫には餌をあげたらだめなのよ』という。じゃあそういう場合はどうしたらよいのかと尋ねると、捕獲して病院に連れていって手術をして……と細かく教えてくれました。犬を散歩させながら注意して見ると、自宅周辺にも野良猫がけっこういて、自分で捕獲してみようかなという気持ちになり、ネットで捕獲器を買ったんです。それが私の保護活動のスタートでした」

   家の近くで捕獲を始めたら、次々と野良猫が集まって、不妊手術をすることができた。しかも不妊手術を施す必要性の高いメスばかり。お金がかかったが、“やりがい”を感じたという。と同時に、ジレンマも感じるようになった。「よくやるよねえ」と驚く夫に気遣い、自宅には猫を入れなかったからだ。

   階下の母に頼んで、具合の悪い子を2匹だけおいてもらうようにした。

長老のハナコに世話をしてもらう子猫
長老のハナコに世話をしてもらう子猫

前向きな別れを経て

「もっと助けたいという気持ちがわくほど、夫との距離を感じるようになりました。私は猫の世話で階下に降りる時間や、捕獲などのため外に出る機会も増えて……。次第にケンカも増えました。夫に車のボンネットに猫の足跡があるといわれたり、『俺の金で猫の世話をしてないよな』と言われたのはショックでしたね」

 猫のことばかりではなく、考え方の不一致もあり、7年前、結婚20年を目前にして夫婦は別の道を歩むことになった。でも、それは前向きな選択だったと、朋子さんは明るくいう。 

「人生は一度きりだし、それぞれやりたいことを存分にやるのがいいもの。離婚とともに、これで心おきなく保護ができるぞ、とホッとしたのを覚えています。家の改装をしたのは、離婚して少し経った後。愛犬を看取り、猫を自宅に保護するようになってからです。実は支援をしてくれる足長おじさんならぬ、足長おばさんがいたんです(笑)」

 それは離れて住む朋子さんの(双子の)妹だった。やはり動物好きで、野良猫を何匹か保護したが、自宅で犬を飼っているため、朋子さんのもとに「お願い」と連れてきたそうだ。そうした経緯もあり、改装費用の半分を負担してくれたのだという。

風呂場を猫が占領?高齢の子が多く、のんびり過ごしている
風呂場を猫が占領?高齢の子が多く、のんびり過ごしている

目標は「猫ラウンジ」

  朋子さんは、平日は朝5時に起きて、2時間かけて保護猫の世話をしてから出勤する。土日は保護をしたり、譲渡会に出たり、新たな家族のもとに保護猫を届けたりする。

「初めのうちは、猫をとにかく助けなきゃ、との思いでどんどん引き取りました。でも、もっと困った子がいた時にスペースがなくなったらどうする? と仲間に言われて、譲渡できる子は譲渡するようなりました。手放す時は寂しいけど、我が娘、我が息子のように大事に可愛がってもらうと、喜びに変わるんですよね」

 リビングの棚には、譲渡した猫や、旅だった猫の写真が飾られている。その横には、ワインセラーがある。それは、朋子さんの“次なる目標”につながるものだ。

「私はワインエキスパートと、野菜ソムリエの資格を持っているので、猫繫がりの友人たちを集めてよく自宅で“ワインパーテイ”をするんですが、料理を作って、猫好きな仲間と食べたり飲んだりするのが楽しくて、会社を辞めたら猫ラウンジを開きたいなと思うようになりました。8時になったら猫はおやすみタイム、そうしたら猫のビデオを流しながら、おしゃべりに花を咲かせたいなって……」

  猫と生きると決めた道を、この先も迷うことなく歩んでいくのだろう。 

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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