「会話ボタン」を通じてコミュニケーションをとるモネ(左)とフーフー(右)
「会話ボタン」を通じてコミュニケーションをとるモネ(左)とフーフー(右)

会話ボタンで絆が深まったモネとフーフー 犬も猫も豊かな感情があることを伝えたい

「遊ぼう」「うれしい」「ママ、悲しいの?」――。録音機能付きの「会話ボタン」を使いこなすミニチュアシュナウザーのモネと保護猫のフーフーのYouTubeチャンネル『モネとフーフー/しゃべる犬と猫』が人気だ。かつては意思の疎通が図れなかったモネのトレーニングをきっかけに導入した会話ボタンが、どのような変化をもたらし、現在はどのような日常を送っているのか。2匹の飼い主であるママさんにお話を伺った。

(末尾に写真特集があります)

偶然始まった犬との暮らし

 台湾で暮らす家族のもとに、1匹の子犬がやってきたのは2021年1月。猫を飼うつもりでペットショップを訪れたママさんが出会ったのは、ミニチュアシュナウザーの「モネ」だった。

「一目ぼれでしたね。そこで抱っこさせてもらったとき、左脇に小さな炎症を見つけたんです。店員さんも気づいていなかったようで、このまま狭いケージの中で異変にも気づかれずにいるなんて可哀想だと思いました。すぐに『この子にしよう』と決めました」

 犬を飼うつもりのなかったママさんとモネの運命的な出会い。ママさんにとって初めてとなる犬との暮らしは、想像とは大きく異なったという。

「子犬って甘えん坊で、飼い主にぴったり寄り添ってくれるものだと思っていました。でも当時のモネは、抱っこをすれば腕にかみつくし、お散歩中も言うことを聞かなくて。寝ているとき以外は、とにかく落ち着きがなかったですね。モネが何を考えているのか、まったくわからなかったんです」

 すぐにドッグトレーナーに依頼し、様々なトレーニングに挑戦。同時に、自身でも犬との接し方の勉強を始め、モネと向き合った。

会話ボタンとの出合いが転機に

 そんな折、SNSでペット用の「会話ボタン」がアメリカで流行していることを知った。このボタンは、押すと事前に録音した音声が流れるという仕組みで、犬や猫が「おやつ」「散歩」などをボタンで伝えることを学び、飼い主との意思疎通を深めるツールだ。

 当時、日本ではまだほとんど知られておらず、会話ボタンを実際に使用している人はほとんどいなかったが、「うまくいくかわからないけど、試してみよう」と3つ設置してみた。

「1週間ほど経ったころ、私が『お水』のボタンを押したら、モネが5秒ほど考えて自分で水を飲みに行ったんです。その瞬間、『これ、わかっているんじゃないか』と手応えを感じました。40日目に『遊ぼう』のボタンで私を遊びに誘ってきたときは、初めて通じ合えた気がして、本当に震えましたね」

会話ボタンは「Fluent pet」を使用。モネが一番押す単語は「おやつ」(ママさん提供)

 なかでも一番感動したのは、ママさんが小説を読んで泣いていたときのこと。

「横にいたモネがボタンの前に行って、少し考えてから『うれしい』『ノー(NO)』『(ん)?』のボタンを押したんです。つまり、『悲しいの?』と聞いてきたんですね。もう胸が締め付けられるような感動を覚えました。モネが私の感情まで分かってくれるなんてと、驚きましたね」

 モネはその後も次々と単語を覚え、現在では80ものボタンを使いこなしている。愛犬の気持ちを理解できる喜びは、初めての犬との暮らしの苦労を乗り越えたからこそ大きい。ママさんはこの経験を通じて、犬との向き合い方が変わったという。

「モネがボタンを押して自分の意思を伝える姿を見て、犬にも人間と同じような感情があることに気づきました。『犬は人間の指示に従わせるもの』という考えが変わりましたね。犬にも喜怒哀楽があり、やりたいことやほしいものがある。それを尊重し、自分の子どもと同じように育てるようになりました」

保護猫のフーフーも仲間入り

「モネが落ち着いたら、今度こそ猫を飼いたい」と考えていたママさん。2024年5月、「モネに合う子を」と選んだのが、生後間もない保護猫の「フーフー」だった。シェルターに80匹ほどいた猫たちのなかから、一番懐いてくれた子を迎えることにした。「犬と猫はすぐに引き合わせてはいけない」という話もあるなか、ママさんには確信があった。

「モネの優しい性格を信頼していたので、フーフーをその日のうちにケージから出して、2匹を引き合わせました。案の定、すぐに打ち解けて、翌日には一緒にご飯を食べていましたね。3日目には、モネが『うれしい』のボタンを押して、フーフーを受け入れてくれました。その直後、私を見ながら『ありがとう』のボタンも押してくれたんです」

 そんなフーフーもモネの影響を受け、会話ボタンを使うように。

「まずは『お手』の練習を応用して、ボタンを押す動作を覚えさせました。その後はおやつを使ったりして練習しているうちに、すぐに『ごはん』や『ビュンビュン(ねこじゃらし)』など、自分の好きなものの単語を覚えていきましたね。モネがボタンを押すと私が反応するのを見て、自然に学んだ部分もあると思います」

「イエス」「ヘルプ」「ベランダ」などのボタンも使いこなす。「ママ」のボタンを押したときは、うれしくて思わず駆け寄ってしまった(ママさん提供)

「ボタンの教え方は、モネもフーフーも同じ。ボタンを押して教えることもありますが、基本的には日々の会話を通じて覚えさせています。たとえば、誰かになでてもらった後は『うれしいね』と声をかけ、遊んだ後は『楽しかったね』と声をかける。特別なことをしているわけではないんです。こうして会話が増えることで、絆も深まったと感じていますね」

 モネがフーフーを見つめて、「遊ぼう」とボタンを押して誘うこともあるそう。

「うれしそうにすぐ遊び始めるんです。これから、2匹のコミュニケーションを見るのがますます楽しみですね」

ボタンを通じた日々の変化

「ボタンを導入してよかったのは、彼らが“気分”を教えてくれることです。特に『ノー』や『プンプン(怒っている)』などのネガティブなワードは、『イエス』や『うれしい』よりも重要だと思っています。『プンプン』は”早く行こうよ”かもしれないし、『ノー』は”いまはお散歩の気分じゃないからイヤ”といった意思表示かもしれない。そうしたときに、別の方法を考えるきっかけになるからです。実際、外で騒音がしたときにモネが『ノー』『怖い』のボタンを押したことがあって、窓やカーテンを閉めるなどの工夫をすることで、彼らの生活の質を上げることにつながりました」

日常の会話を通じて、単語を教えていく(ママさん提供)

 さらにボタンのおかげで、モネの変化に気づくきっかけになったことも。

「ある時、モネの食欲がなくて、ごはんが合わないのかなと思いしばらく様子を見ていたんです。そうしたら、とうとう『痛い』のボタンを押すようになって。すぐに病院に連れて行ったら、急性膵炎(すいえん)の可能性があると言われたんです。日々の観察だけだと『まだ病院へ連れていくほどじゃないかな……』と迷ってしまうことがあるのですが、体調の変化に早く気づくことができました」

見ているだけで幸せな存在

 会話ボタンを通じて、息のぴったり合った日々を送る2匹とママさん。

「朝、目が覚めて、2匹が寄り添っているのを見ると、『今日も平和だな』と幸せな気持ちになります。まだやんちゃ盛りのフーフーに付き合ってあげるモネの姿は、本当にお姉さんみたいで。あんなに暴れん坊だったモネがこんなに落ち着くなんて、成長ぶりに驚きますね。2匹が姉弟になってくれて本当にありがたいなと思います」

フーフーがモネの毛づくろい。ママさんが一番幸せを感じるシーン(ママさん提供)

 動物と暮らすうえで、ママさんが飼い主として大切にしていることは。

「動物に癒やしてもらおうとするのではなく、まずは人間が動物を癒やすことが大前提。そのためには、自分自身が良い状態でいることが大切だと思っています。自分の気分次第で、動物に優しくできる日もあれば、冷たくしてしまって後悔する日もあります。特に犬は、人間の悲しい気持ちに敏感で同調しやすい。だからこそ、自分をいたわり、心穏やかに過ごすことを心がけていますね。結果、自然と動物からも癒やしをもらえるようになると感じています」

 今後は2匹が「話したい」と感じる言葉を見つけてあげることが、ママさんの願い。

「モネとフーフーがボタンで何を伝えたいのか、もっと引き出していきたいですね」

Yotubeチャンネル:モネとフーフー/しゃべる犬と猫 Monet&Foufou
インスタグラム:@ monet_talking

増田夕美
ライター・編集者。ホテル広報、出版社勤務を経てフリーランスに。ファッション、インテリア、カルチャーなどライフスタイル関連の雑誌、WEB、書籍の制作に携わる。動物歴は幼少期からこれまで猫2匹と犬1匹。現在は三毛猫と暮らす。

sippoのおすすめ企画

sippoの投稿企画リニューアル! あなたとペットのストーリー教えてください

「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!

Follow Us!
編集部のイチオシ記事を、毎週金曜日に
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。


動物病院検索

全国に約9300ある動物病院の基礎データに加え、sippoの独自調査で回答があった約1400病院の診療実績、料金など詳細なデータを無料で検索・閲覧できます。