「こんにちはハナです。これから、はちにちょっかい出します」(小林写函撮影)
「こんにちはハナです。これから、はちにちょっかい出します」(小林写函撮影)

おもちゃで遊ぶ愛猫たちの姿に生まれた感情 「多頭飼いはおもしろいのかもしれない」

 元保護猫「ハナ」が家の猫になって1カ月が経ったある日の早朝、はちが「あーう、あーう」と鳴きながら猫トイレに出たり入ったりを繰り返した。

 すぐにかかりつけの動物病院に連れて行くと、膀胱にストラバイト結石ができていた。

(末尾に写真特集があります)

思い返せば…

 はちは、膀胱炎やストラバイト結石になりやすい体質だ。ハナをトライアルで迎えて間もない頃にも頻尿になり、軽い膀胱炎と診断された。そのときは結石は見られなかったが、以来、膀胱内を酸性にし、結石をできにくくするサプリメントを病院でもらい、毎日飲ませている。

 水分はできるだけ摂らせる工夫をしていたし、このところ問題はなかった。それなのに今回ストラバイト結石ができたのは、前日、トイレで用を足し終わったところを、ハナに襲われたからだろう。襲われたというのはおおげさだが、つまり、ハナがはちに飛びかかり、猫パンチを浴びせたからだと思われた。

 でも、これは引き金にすぎない。ここ1週間ほど、はちは落ち着きがなかった。要求鳴きや、自動給餌器(じどうきゅうじき)をたたく頻度も高かったし、排尿中に尿を壁に引っかけることも多かった。これらは、膀胱に違和感があったせいかもしれないのだ。

 ストラバイト結石は微量で、しばらく消炎剤を飲ませていれば消えるだろう、とのこと。

 だが私は、はちのサインに気がついてやれなかったことに落ち込んだ。

 動物病院の院長先生も、多頭飼いの先輩たちも、猫同士で猫パンチを繰り出しあうことはごく普通のことなので、流血騒ぎにならない限りは心配しなくてよい、と言う。

「しっぽの臭いかがないで、オナラするよ」(小林写函撮影)

 それでも、はちがストレスを受けていることには間違いない。ハナを同居猫として認めてはいるし、おっとりとくったくのない性格ではあるが、けっこう繊細だ。それは、以前からわかっていた。

はちに反して絶好調のハナ

 一方のハナは、絶好調だ。

 この1カ月で顔がきゅっと小さくなり、トライアルで迎えた当初とは比べものにならないほど毛づやがよくなった。白、黒、茶色の三毛カラーがよりくっきりとし、存在感が増している。

 私のひざにも自分からのるようになったし、「なでて」「ご飯ちょうだい」の要求も以前より頻繁になった。行動範囲も広がり、「ハナマン」(ハナのマンション=ケージ)の中以外でも、ソファや、私のベッドの上でもくつろぐようになった。

 はちも、初代猫「ぽんた」も、家に来て最初の頃は体調を崩し、動物病院のお世話になった。ハナはそういうことは一切ない。人間同様、猫も女性のほうが強いのだろうか。

 そんなハナに、私はもう何度もかけている言葉を繰り返した。

「あんまりはちをパンパン叩かないようにね。ストラバイトが出ちゃってかわいそうだから、もうちょっと控えてね」

 ハナは賢く聞き分けがよい猫のはずなのに、この件についてだけは耳をかさないのだった。

「なんか背後に気配、ハナかと思った」(小林写函撮影)

 しかし皆が言うように、ハナがはちと遊びたくて猫パンチでちょっかいを出しているならば、応えてもらえないのも気の毒だ。

 ハナの気を紛らわせるためと、はちにばかり猫パンチの矛先が向かないようにするため、人間が遊んでやる必要があるのかもしれないと、ふと思った。

じゃらし棒で遊びに誘うと

 といっても、ハナはおもちゃにはほとんど関心がない。これまで何度かじゃらし棒で遊ばせようとしたことがあるが、ちょいちょいとお付き合い程度につつくだけで、1分もたたないうちに飽きてしまう。たいていは「なにそれ、どうせニセモノでしょ」としらけた顔で宙を舞うじゃらし棒を見ている。そしてしばらくするとあくびをし、背を向けてしまう。

 そういうわけで、私はあまりハナと積極的に遊ぶ気にはならなかったのだが、久しぶりにハナの前でじゃらし棒を振ってみた。

 だいぶ家猫らしくなったし、はちが遊んでいるのも見ているし、少しは変わったかと思ったのだが、相変わらずの反応だ。

「あたしもジャンプくらいできるのよ」(小林写函撮影)

 ふと気がつくと、どこからともなくはちがやってきて、私の足元に座った。「遊ぶなら僕と遊んで」というアピールだ。私は、はちに向かってじゃらし棒を振った。

 じゃらし棒が大好きなはちは、いつも夢中で飛びつく。

 すると、普段は興味なさそうにしているハナが、はちとじゃらし棒の動きを交互に目で追いはじめた。そうして、はちが捕まえ損ねたじゃらし棒の先についているフェルトのボールが自分のほうに向かってきたとき、前脚でちょんとつついたのだ。

 すかさず、はちの方へ棒を振ると、はちがボールを前脚でつつく。今度はハナのほうへ振ると、またハナがつついた。2匹はまるで、ボールの打ち合いをしているような形になった。

 私はうれしくなった。もっと遊ばせようと、より激しく棒を振った。だがそれもつかの間、ハナがはちに飛びかかろうとし、はちが逃げてゲームオーバーになった。

 この後、ハナがじゃらし棒でよく遊ぶようになったかといえばそうではなかった。2匹の「パンパンパン!」「シャー!」も変わらずだった。

 それでも私はこの日をきっかけに、多頭飼いはおもしろいのかもしれないと、ようやく少し思えてきたのだった。

(次回は7月5日公開予定です)

【前の回】おっとり系男子の先住猫「はち」とグイグイ系女子の新入り猫「ハナ」 またも事件が

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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