現在、芝生化を試みているプライベートドッグラン
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犬に特別な能力はあるのか? 鈍感かと思いきや飼い主の休日を察知する

 先代犬の富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らすライターの穴澤 賢さんが、犬との暮らしで悩んだ「しつけ」「いたずら」「コミュニケーション」など、実際の経験から学んできた“教訓”をお届けしていきます。

(末尾に写真特集があります)

鈍すぎる大福の五感

 一般的に犬の五感は優れているといわれているが、私は懐疑的である。聴覚は人間の4倍、嗅覚(きゅうかく)にいたっては3000〜10000倍とされているが、であるならなぜ背後から近づくとビクッとして振り返ることがあるのか(脅かすつもりはないのに)。

 警察犬や麻薬探知犬もいるので潜在能力としては兼ね備えているのかもしれないが、それはある程度訓練によって習得されるもので、ただのんびり暮らしていると衰えていく、あるいは使う必要がないので忘れてしまうのではないかとうたがっている。

現在リフォーム中の築50年の山小屋

 わが家の大福を見ていると、つくづくそう思う。たとえば、宅配便の人が訪ねて来たりする度に毎回ワンワンほえるのだが、家の前に車がとまった時点で私は気が付いているのに、玄関前に来るまで彼らは気付かない。

 また、ときどき大福そろって突然外に向かってほえるので「ん? 誰か来た?」と外を見ると誰もないなんてことがよくある。確率としてはほえても50%くらいは何もない。彼らにしか察知出来ない何らかの存在に対してほえているのか、センサーが誤作動しているのか、私は後者だと踏んでいる。

 他にも寝ているときに、ゆすっても起きない。寝ている大吉の鼻先に冷ました豚肉をそっと置いても気付かない。以上を踏まえると、野生の本能は消え去り、五感もかなり退化しているとしか思えない。

時間と休日は認識している?

 運動神経はたしかに人間より優れている部分があり、大福ともに10歳を超えた今も早く走れるが、よくつまずいたり転んだりする(特に福ちゃんはよく転ぶ)。

風を切る丸い福ちゃん

 というように、わりと鈍臭い大福なのだが、いくつか優れた能力もある。そのひとつが、休日を察知することが出来ることだ。

 土日になると大吉が「今日休みだよね? どっか行くの?」と期待した目で聞いてくる。私はフリーライター時代から自宅で仕事しているからいつ休むかは自由なのだが、それだと自分を制御出来る自信がないので、サラリーマンのように月金朝何時から何時までと決めて仕事をするようにしている。徹夜なんて絶対しない。

「今日休みだよね?どっか行く?」の大吉

 若い頃は徹夜したこともあるが、翌日見直したら半分くらいやり直すことになるし、睡眠不足で頭が回らないから無駄だと悟った。

 月金で働くから大吉はもしかしたら曜日を把握しているのかもしれないが、祝日でも反応するので、やっぱり「今日は休みだな」と察しているのではないかと思う。その証拠に、平日に仕事をしているとそんな期待に満ちた顔はせず、黙って二度寝している。これを書いている今も。

 何をもって休日を察知しているのかは不明だ。私から「今日は休日だオーラ」でも出ているのだろうか。ちなみに休日を察するのは大吉のみで、福助は大吉の反応を見て「え? 休日なの?」と後で気付くタイプだ。犬と暮らす友人も「休日を把握されている」と言っていたので、同じ能力を持つ犬が一定数いるのだろう。

最後に起きてくる大吉

 それから、体内時計もまぁまぁ正確だ。大福の場合、朝起きるのは私より後だが、夕方の散歩の時間になると「そろそろじゃない?」とさりげなく催促してくる。近年の夏の暑さから、「いや、分かってるんだけど、まだ暑いから出られないんだよ」と言っても理解してくれず、無言の圧をかけてくる。

 彼らの中では、私が忘れている、またはサボっているということになっているんだと思うが、この苦悩に日々耐えている飼い主は多いのではないかと思う(私は山に完全移住したので開放された!)。

標高1400メートルの山では朝7時半でも余裕で散歩が出来る

怒りに敏感な大福

 もうひとつ彼らの優れた能力は、人の感情を読み取ることだ。これはいつもそばにいる妻と私限定だと思うが、喜怒哀楽を察知されてしまう。特に怒りには敏感だ。

 私も出来た人間ではないから、ムカつくこともある。それをストレートに相手に伝えることはあまりないが、メールを読んで内心「何だそれ、ふざけんなよ」と思うことはある。ときには声に出してしまうこともあった。

 感情を読まれて困るのがそんなときだ。私は八つ当たりは絶対にしないが、不用意にムカついた態度を出してしまうと、大福が「なんか、すみません」と申し訳なさそうな顔になることだ。だから慌てて「違う違う、お前らは何も悪くないから!」となでたりして取り繕わなくてはならない。

来客に関してはよく誤作動するセンサー

 さらに困るのが、このセンサーは実に優れていて、たとえば仕事部屋で大福が背後で昼寝をしているとき、私は一切何も言っていないのに、ムカついた空気を察したのか、いそいそとどこかへ行ってしまうこともあった。私の背中から、怒りのオーラでも出ていたのか? と思うほど察知する能力が高い。

 だから私は、だんだん腹が立っても極力態度には出さないようになった。正確には、大福にバレないように努力するようになった。察知されると訂正するのが面倒なので。そうしていると不思議なもので、それほど腹も立たなくなっていく。私は年のわりに精神年齢が低い方だと自覚しているが、大福のおかげでちょっと大人になったのかもしれない。

 あとは、私が喜んだり楽しそうにしていると大福にも伝染するので、そういうときは大げさに喜んで見せたりすることも増えた。

ついに薪ストーブを導入

アピールするため意図的にやること

 大げさといえば、大福はある感情を表現するときに意図的にやっている気がする。うれしい楽しいはそのまんまだと思うが、不満なとき、つまらないときは露骨になるので、あえてアピールするよう意識しているような気がする。

 さきほどの「今日休みだよね? どっか行くの?」の期待が裏切られたときなどは「なんだどこも行かないのか、休日なのに……」という顔をする。予定が立て込んでいて、そんな休日が続くと、ため息(長い鼻息)をつくことさえある。その無言の圧力に耐えかねて「わかったから、今度の休みはどっか行こうな」となる。そんなことを繰り返している。

「どこへ行くのかなーどこへ行くのかなー」の図

 そう考えると、犬の五感は優れていなくても、違う特殊な能力を身につけており、私をうまくコントロールしているのではなかと思う。

まるやち湖にて

【前の回】犬は「かけがえのない時間」を与えてくれる存在である 彼らのいない世界は白黒だった

穴澤 賢
1971年大阪生まれ。フリーランス編集兼ライター。ブログ「富士丸な日々」が話題となり、犬関連の書籍や連載を執筆。2015年からは長年犬と暮らした経験から「デロリアンズ」というブランドを立ち上げる。2020年2月には「犬の笑顔を見たいから(世界文化社)」を出版。株式会社デロリアンズ(http://deloreans-shop.com)、インスタグラム @anazawa_masaru ツイッター@Anazawa_Masaru

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この連載について
悩んで学んだ犬のこと
先代犬は富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らす穴澤賢さんが、犬との暮らしで実際に経験した悩みから学んできた“教訓”をお届けしていきます。
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