「嫌なことがあるときは、座禅ならぬ香箱組んで精神統一」(小林写函撮影)
「嫌なことがあるときは、座禅ならぬ香箱組んで精神統一」(小林写函撮影)

おっとり系男子の先住猫「はち」とグイグイ系女子の新入り猫「ハナ」 またも事件が

 元保護猫「ハナ」が家の猫になって3週間が過ぎた。

 ハナが先住猫「はち」に猫パンチを浴びせ、はちが嫌がって威嚇する「パンパンパン!」「シャー!」が繰り返される日々は相変わらずだった。

(末尾に写真特集があります)

ハナは理想の猫

 あるときは、ハナがはちをキッチンの角に追い詰め、行き場のなくなったはちが冷蔵庫の上に飛び乗る光景を目にして仰天した。はちはそれまで、冷蔵庫の上にのぼったことなど一度もなかったからだ。

 もちろん、四六時中「パンパンパン!」「シャー!」とやり合っているわけではない。ハナがはちにちょっかいさえ出さなければ、同じ部屋の離れた場所でそれぞれくつろいでいる。私たちが「ハナマン(ハナのマンション)」と呼ぶケージの中でハナが過ごしているときは、はちも自分からハナに近づいたりしている。

 多頭飼いの先輩たちの話によると、本当に相性が悪い場合は、同じ空間にいることさえ不可能だそうだ。そう考えると、はちとハナは共生できているといえる。

 また、オスとメスの組み合わせの場合、たいていはメスのほうが強いという話もよく聞く。兄妹猫だったり、先住がオスで新入りがメスだったりする場合は、我が家同様「グイグイ系女子に押される、おっとり系男子」となるパターンは少なくないようだ。

「ハナまだ家に慣れないのかな、どうも落ち着きがない」(小林写函撮影)

 ツレアイは「ハナが家の中を牛耳ってくれるなら、それは願ったりだね」と言う。

 2匹目の猫を迎えようと考えた理由の一つに、はちの飼い主依存が強くなってきたことがあり、はちの気がよそに向く存在がほしいということがあった。特にツレアイは「はちの甘えを戒めてくれるような強い猫だとなおよし」と考えていた。そういう意味ではハナは理想の猫だ。

 だが、はちにとっては理想でもなんでもない。ハナとの共生を受け入れたのはしかたなくであり、歓迎しているわけではないのは明らかだった。

 相変わらず、早朝からニャーニャー鳴いて飼い主を起こす。食事は十分与えているのに、自動給餌器(じどうきゅうじき)の排出口に手を突っ込んでガタガタゆすったりするのは、別の不満の表れのような気がした。

トイレを見直す

 それから気になるのは、トイレだった。

 家には、猫トイレが3つあった。すべてシステムトイレで、1つはハナマンの中に置いているハナ専用の小型タイプ。あとの2つはスタンダードタイプで、1つは私の部屋、もう1つは廊下に置いてあった。

 はちが日中、おもに使用するのは廊下のトイレだ。このトイレの横の壁に、はちはときどき尿をひっかけるのだが、その頻度が上がってきていたのだ。

 はちはトイレの縁に前脚をかけ、腰をあげて排尿をするくせがある。最初は砂に向かって下向きに排尿し、だんだんと腰を上げていくため、壁に尿がひっかかってしまう。だから壁には常にペットシーツを貼っていた。

 猫が縄張りを主張するために行うスプレー行為とは明らかに違うし、ハナの存在とは関係ないのかもしれない。

「こっちに来ないといいんだけど」(小林写函撮影)

 だがやはり気になり、あらためて「猫とトイレの関係」についてインターネットで調べた。すると「猫がトイレ容器の縁に脚をかけて用を足すのは、トイレそのものに不満があるから」という記述をみつけた。

 もしかしたら今のシステムトイレは、からだの大きいはちにとっては小さいのかもしれない、と私は思った。

 本来、猫のトイレ容器は、四本脚で立ったまま360度方向転換ができるサイズが理想と言われる。はちのトイレは半年前にシステムトイレに切り替えたが、その前に使っていた固まる猫砂を入れていた容器は、十分な大きさだった。そのときは脚をかけて使用してはいなかった気がする。

 そこで私は思い切って、大きめの箱型の容器に鉱物系の猫砂をたっぷり入れたトイレを導入することにした。

 鉱物系の猫砂は自然の砂に近く、排泄後に砂をかく猫の習性に適しているといわれる。だがこの種の猫砂は重いし、飛び散りやすいし、掃除も面倒だ。だから避けていたのだが、猫も2匹になったことだし、試してみてもいいかもしれないと思った。

「獣医師推奨」とうたい文句がついたトイレ容器と猫砂をさっそくインターネットで注文し、廊下のトイレをこれに替えた。

「はちときたら遊んでくれない」(小林写函撮影)

 はちも、そしてハナも、新しいトイレを気に入ったようだった。はちは腰を下ろして排泄するようになったし、ハナも、ケージ内の小さいトイレより、鉱物系猫砂のトイレをメインで使用するようになった。

 2匹とも、ざっざっと勢いよく、システムトイレのときよりも熱心に砂をかく。かき終わったあとは、満足そうにトイレをあとにする。

「しまった!」

 しかし、またまた問題が起こった。

 トイレの中でしゃがんでいるはちにハナが飛びかかり、猫パンチをしたのだ。

「しまった!」と私は思った。以前、かかりつけの動物病院の院長先生に言われていたのだ。「はっちゃんがトイレに入っているときだけは、ハナちゃんが邪魔をしないように気をつけてあげてください」と。

 排泄行為中は無防備になっているため、攻撃されやすい。排泄を邪魔されると不快な経験として記憶され、トイレを使わなくなったり粗相をしたりと、問題が起こりやすくなる。

 案の定、翌朝はちは、ニャーニャー鳴きながら、トイレを出たり入ったりした。

 朝一番で動物病院に連れて行くと、膀胱内にストラバイト結石ができていた。

(次回は6月21日公開予定です)

【前の回】先住猫「はち」と2匹目「ハナ」 それぞれの安心と関係構築にケージの重要性を知る

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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