「外国のお友達からは『ビューティフル!』って言われてるの」(小林写函撮影)
「外国のお友達からは『ビューティフル!』って言われてるの」(小林写函撮影)

おでこや鼻筋にうっすらとある引っかき傷 猫の多頭飼育で感じた爪切りの必要性

 元保護猫「ハナ」が家の猫になって5カ月が過ぎた。

 ハナが先住猫の「はち」に猫パンチをし、はちが嫌がって威嚇する「パンパンパン!」「シャー!」は相変わらずだったが、関係はだいぶ安定してきた。

 そこで私は、猫たちの爪切りに挑戦することにした。

(末尾に写真特集があります)

2匹の安全のために

 私は、猫の爪を自分で切ったことがない。

 初代猫「ぽんた」で何回かトライしたが、激しく抵抗されて以来、諦めていた。

 ぽんたは、慢性腎臓病を患っていたため月に1回は動物病院に通っていた。爪も治療のついでに切ってもらえばよく、料金はかかるが、プロに任せられるので安心だった。

 はちの場合も、風邪をひいたりストラバイト結石ができたりと、動物病院にお世話になる機会が数カ月に1度はあった。そのときに切ってもらったり、また「爪がのびているな」と感じたら、爪切りのためだけに病院に連れて行くこともあった。

「暑いけど、みんな元気かな」(小林写函撮影)

「のびているな」と感じるのは、じゃらし棒で遊んでいるときだ。はちはどういうわけか私の足にまとわりついて、爪を立てる。

 だが、ハナが加わり家の猫が2匹になると、ゆうちょうに構えてもいられない。「パンパンパン!」「シャー!」がエスカレートして、2匹が大けがをすることもあるかもしれない。

 私は、はちのおでこや鼻筋にときどきうっすらと引っかき傷があるのを見て、いつでも爪を切れる体制を作る必要性を感じたのだった。

いざトライしてみると

 猫の爪切りを成功させるには、いくつかコツがある。

 1人で行う場合は、ひざの上にのせ、後ろから抱きかかえるようにするのが基本という。嫌がって暴れる場合も、バスタオルなどでくるむと落ち着くので、タオルから脚だけ出す体勢にすると比較的スムーズだそうだ。実際、この方法で爪切りをしている猫飼いの友人は何人かいた。

 タイミングは、できるだけ猫がリラックスしていて、落ち着いているときをねらう。

 そして、一度に全部の爪を切ろうとしないこと。すべてを一度に切ろうとして時間をかけると、猫がイライラして暴れだすこともある。「今日は1~2本だけ」など何度かに分けて切るのが、成功への近道だという。

 ぽんたでトライしたときから6年が経ち、私も猫の扱いにだいぶ慣れた。それではちがソファの上でまどろんでいるときに、爪切りとバスタオルを用意して隣に座り、抱きかかえてひざにのせようと試みた。

 はちは「ヒャー!」と悲鳴に近いような声を出し、体をくねらせて4本の脚を使い全力で抵抗した。はちはもともと、抱っこが嫌いだ。体をそらして全身に力を入れるので、バスタオルでくるむなどはとうてい無理だ。はちは骨格がしっかりしていて力も強い。私のほうが負けてしまった。

「僕は日陰の存在なんだ」(小林写函撮影)

 それでとりあえず、抱っこに問題のないハナの爪切りを先に行うことにした。

 別の日、ソファの上でくつろいでいるハナの横に座り「ハナちゃん、爪を切りましょうね」とやさしく話しかけながら、ひざの上にのせた。爪切りは、猫専用のハサミ形のものは扱いにくかったので、人間用の爪切りを使うことにした。

 後ろから抱きかかえるように手をまわし、左手でハナの右前脚を持ち、軽く押して爪を出す。やり方は、動物病院で何度も見ているからわかっている。爪の中からピンクに透けて見える血管を切らないように注意して、右手に持った爪切りで、小指側の爪の先端のとがった部分のみを、パチンと切った。

 ハナは、黙ってじっとしている。何をされているのかわからず面くらい、かたまっているようだ。その間に右前脚の爪3本を切ることに成功した。

「やめて」「あー嫌だった」

 私は大喜びでツレアイに報告した。翌日、今度は左前脚の爪を切ろうと、ハナをひざにのせた。

 すると爪を1本切ったとたん、ハナは私の手に噛みついた。出血こそしなかったが、かなり痛く、甘噛みの域は超えている。「やめて」という意思表示だろう。

 無理は禁物だ。ハナの爪切りはしばらく様子を見ることにした。

「ねえ、お外に何もないけど、ここって東京?」(小林写函撮影)

 別の日、ツレアイに協力をあおぎ、再びはちの爪切りにチャレンジした。

 ひざの上では難しいので、ダイニングテーブルの上で行うことにした。四つんばいに座らせ、前進しないように脚の付け根と胸の辺りを後ろから保定し、肉球を押さえて爪を出す。

 爪を切るのはツレアイの役目だ。

 本当はツレアイに押さえてもらい、私が爪を切りたかったのだが、ツレアイが「切る係のほうがやりがいがあって楽しそう」と言いだした。だが肉球を押して爪を出すという行為がうまくできず、それで私がはちを保定しながら、爪を出す作業までを担当することになった。

 はちは「うにゃー」と鳴きながら、からだを振って抵抗した。私は全身ではちを押さえながら手であごをなで「えらいね、がんばろうね」と励ます。そして「血管切っちゃうとこわいね、どのへんまで切ればいいのかな」とつぶやいているツレアイを「大丈夫だから、全然深くないから、早く切って!」と急かす。

 こうして、前右脚3本の爪をなんとか切ることに成功した。

「よし切れた、えらいぞ、はち」とツレアイも満足そうだ。

 手を離すと、はちはテーブルから飛び降りて「あー嫌だった」という様子で、毛づくろいをした。

(次回は8月16日公開予定です)

【前の回】「ツンデレ猫というのは、ハナのようなタイプか」 多頭飼いで際立つ猫それぞれの性格

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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