「コケコッコー!あれ?おかしいぞ」(小林写函撮影)
「コケコッコー!あれ?おかしいぞ」(小林写函撮影)

多頭飼育開始から8カ月 猫たちが見せた行動とポーズのシンクロに2匹の関係を思う

 元保護猫「ハナ」が家の猫になって8カ月が過ぎ、年が明けた。

 ハナが先住猫「はち」に猫パンチをし、はちが嫌がって威嚇する「パンパンパン!」「シャー!」の回数は激減し、「あれ、今日はしなかったな」という日が増えた。

(末尾に写真特集があります)

2匹一緒に動物病院へ

 また少し前から、はちが自分からハナに近づいて尻尾のにおいをかいだり、たまに夜、興奮するとハナに追いかけっこらしきものを仕掛けるようになった。その様子を見て、2匹は友好関係を築きつつあると、私はうれしくなった。

 それでも、はちはやはりハナの存在が疎ましいようだ。ハナと適度な距離がとれている分には同じ空間で問題なく過ごせる。だが、ハナのほうから「ソーシャルディスタンス」を突破して接近してくると、イカ耳にして体を反らし、不機嫌そうな表情で立ち去る。

 ハナも、はちからアプローチされるのは必ずしも好きではないらしい。においをかがれるとはちを睨みつけ、「シャー」と「ニャー」の中間のような声を上げて追い払っている。

「脚が短いって?そう見えるだけよ」(小林写函撮影)

 そんなある日、私ははじめて2匹を一緒に動物病院に連れて行くことにした。

 毎年1月に、はちは年に1度の定期健康診断と3種混合ワクチン接種を受けている。

 ハナも、保護団体のところでワクチンを打ってもらってから約1年が経過していたので、ちょうどよい機会だ。

 2匹とも動物病院に連れて行くのに苦労はない。特にハナは抱っこを嫌がらず、小柄なのでキャリーバッグに入れるのが楽だ。

予想に反して

 まずは、ハナよりは多少抵抗をするはちをキャリーバッグに入れることにした。

 リビングのソファの上でくつろいでいるはちに近づいて、両手でしっかり押さえる。鳴いて脚をバタバタ、からだをくねらせるところを抱え、あらかじめ上ぶたを開けた状態で廊下に用意しておいたキャリーまで素早く運ぶ。頭からキャリーに入れると、すとんと勝手に底に降りてくれるので、すぐにふたを閉める。

 次はハナの番と思いリビングに戻ると、姿が見えない。

 ソファの下をのぞく。奥のほうで目を丸く開き、身をかたくしている姿が目に入った。はちが捕獲される様子から、自分の身に何が起こるかを察したらしい。

「ハナ、出ておいで」と声をかけながらソファを動かす。だがハナはソファの動きに合わせて移動するため、いっこうに姿を現さない。

「座布団取られたんじゃないよ、ゆずったんだ」(小林写函撮影)

「まだハナは捕まらないの?」と言いながらツレアイがリビングに現れた。今日は彼の運転する車で行くことになっている。

 状況を説明すると、ツレアイはフローリングを掃除するためのモップを持ってきて、柄をソファの下に突っ込んだ。

「そんな乱暴な方法はやめて」と私は制したが、「早くしないと、はちがキャリーに閉じ込められっぱなしでかわいそうだよ」とツレアイ。はちは、キャリーの中で激しく鳴いている。

 モップに追い立てられたハナはさすがに観念して出てきたが、今度はハナマン(ハナのマンション=ケージ)の2階に飛び込み、背を向けて座り込んでしまった。

 2階の扉から手を入れ、抱えて出そうと試みるが「シャー」と威嚇し、噛みつこうとする。ツレアイは「扉を閉めて、上から出すしかないな」と言い、ハナを刺激しないように注意しながら、ハナマンの天井をはずした。

 興奮して上から飛び出すのではという心配は無用で、ハナはじっとしていた。ツレアイが抱え出し、私が足元に用意したキャリーにハナはおとなしく入った。

シンクロする2匹

 2つのキャリーを車の後部座席にのせ、動物病院へ向かう。道中は「あーう、あーう」の大合唱だ。

 待合室では、変わらず「ニャア、ニャア」と激しく鳴いているはちに対し、ハナは一言も鳴き声を発さない。

 診察室に呼ばれ、最初にはちを診察台にのせる。「ハナちゃんと仲良くしてる?」と院長先生に話しかけられたはちは、診察台の上を鳴きながら歩き回り落ち着かない。

 そこをなんとか取り押さえ、触診と聴診、検温、採血、ワクチン接種、ついでに爪切りもお願いする。その間、はちはもぞもぞしながら、ときおり抗議の声を上げた。

「ピントはあたしにちょうだい」(小林写函撮影)

 はちをキャリーに戻したら、次はハナを診察台へ。ハナは何をされても微動だにしないし、声も上げない。お利口というより、ただただ緊張しているのだろう。爪切りが終わると、足の裏にベッタリと汗をかいていた。

 2匹とも健康上に大きな問題はなく、ほっとして帰宅した。キャリーを廊下に置いて扉を開けると、2匹はそろって一目散にリビングに向かった。ハナはハナマン飛び込み、はちはソファの上へ飛び乗り、同時に毛繕いをはじめた。

 そうして気がつくと、2匹は同じ体勢で丸くなり、それぞれの場所で眠っていた。

 一緒に暮らしている猫たちは行動パターンが似てくることがあるそうだ。また「動きやポーズがシンクロする猫は仲がいい」という記述をどこかで読んだことがあった。

 はちとハナは、決して仲がいいとはいえない。それでも、少しずつ家族になりつつあるのだと、私は2匹の寝姿を見て思った。

(次回は9月20日公開予定です)

【前の回】我が家なりの友好の証? “やられっぱなし”の先住猫「はち」に変化が訪れた

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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