「あたしはレディーだけど、取っ組み合いはたしなむの」(小林写函撮影)
「あたしはレディーだけど、取っ組み合いはたしなむの」(小林写函撮影)

我が家なりの友好の証? “やられっぱなし”の先住猫「はち」に変化が訪れた

 元保護猫「ハナ」が家の猫になって半年が過ぎた。

 季節は晩秋になり、ハナも、先住猫の「はち」も、私のベッドの上で昼寝をすることが多くなった。

(末尾に写真特集があります)

胸が高まる

 といっても、2匹はベッドの端と端に陣取っているので、距離は常に1m近く離れている。

 それでも、同じ空間で穏やかに過ごせるようにはなったのだから、初期の頃に比べると大進歩だ。

 この頃、2匹の関係にまた少し変化が現れた。

 これまで来客があったとき以外、自分からハナに近づこうとはしなかったはちが、ハナにちょっかいを出すようになったのだ。

 ハナが自分の目の前を尻尾を立てて通り過ぎるとき、その尻尾をぽんぽん前脚でたたく。ベッドやソファで丸くなっているハナのところに近づいて、背中の匂いを嗅ぐ。歩いているハナの後ろから、お尻に鼻をつけていることもある。

 ハナマン(ハナのマンション=ケージ)の格子の間に前脚を突っ込んで、昼寝中のハナの背中をひっかくようにしているのを目にしたこともあった。まどろんでいたハナは目を開け「シャー!」と威嚇しながら猫パンチを繰り出した。一瞬殴り合いのような形になりひやっとしたが、直後に2匹にウエットフードを与えると、なにごともなかったかように並んで食べた。

「ハナをベッドから追い払ったんじゃないよ。涼しくて居心地のいい爪研ぎの上からハナに追い払われたんだ」(小林写函撮影)

 ある夜のことだった。はちが、あーう、あーう、と高い声をあげ、リビングのソファの上でがさがさ動いている音を耳にし、キッチンにいた私は様子を見に行った。

 すると、はちが腰を落とし、おしりを左右に揺らし、ふくらませた尻尾をぶんぶん振っていた。視線の先には、リビングテーブルの上に寝そべっているハナ。

 あっ、と思った瞬間にはちは飛び出したが、飛びかかられる前にハナはテーブルから飛び降り、玄関ホールへ逃げ去った。それをはちが追っかけ、2匹は廊下の端まで全速力で走り去り、すぐに引き返してきた。

追われる立場のハナは、ハナマンの2階にジャンプして飛び込んだ。

 はちはしばらくハナを見上げていたが、尻尾を立てたままくるりと背を向け、去っていった。
これは、ひょっとして「追いかけっこ」という行動ではないか。

 私は胸が高まった。追いかけっこをするのは仲がよい証拠だと、どこかで読んだからだ。

「あたしがゴロゴロのどを鳴らしていると、おばちゃんもうれしいんだって」(小林写函撮影)

 その後も、夜になると何回か、はちがハナを追いかける場面を目撃した。追いかけるのはいつもはちで、追われるのはハナだ。

 インターネットで調べると、追っかけっこは通常、お互いに追いかけ合ってこそ成り立つ。攻守が入れ替わることが、仲よく遊んでいる証となるらしい。

 片方だけが追いかけているのは、あまりよくない例だそうだ。「追いかけている猫が相手を気に食わないと思っており、自分の縄張りから排除したいという気持ちの表れである」という記述もみつけた。

それでも

 しかし私が見る限り、今のはちがハナを排除したがっているとは思えない。ハナが家に来た初期の頃に、このような行動を見せたら納得しただろうが、そのような時期はとっくに過ぎている。

 また、インターネットで動画を見ていると、追いかけっこをしている猫たちは部屋中を駆け回っている。途中で「猫プロレス」を繰り広げたりもし、そこそこの時間を費やしている。

 うちの2匹の場合、廊下を一往復し、いつも最後はハナがハナマンに飛び込んで終了、というパターンだ。時間にして十数秒程度と短い。

 はたして、これを追いかけっこと呼べるのだろうか。ハナにしても、はちに追いかけられてなぜ追い返さないのか謎だ。あんなに執拗(しつよう)に、はちに顔ごとぶつけて鼻チューをしたり、猫パンチで気を引こうとしている様子だったのに。

「ハナの頭突きを避けるには、マットや花びんが置いてある、足場の悪い所が安全なんだ」(小林写函撮影)

「体型が違うから、得意な遊び方が違うんじゃない、はちとハナは」

 疑問を呈する私に、ツレアイは言った。

「はちは脚が長く俊敏で、走ったりジャンプが得意な陸上アスリートタイプ。ハナは、脚が短くて重心が低く、どっしりとしたレスラータイプ。はちは追っかけっこが得意で、ハナは、とっくみあいが好み。だから相容れないのかもよ」

 あくまで人間の勝手な推測にすぎないが、私は納得した。

 お互い、得意分野は違うけれど、それなりにつきあってはいる。はちとハナの一方的な追っかけっこは、我が家なりの「友好の証」なのかもしれない。

【前の回】おでこや鼻筋にうっすらとある引っかき傷 猫の多頭飼育で感じた爪切りの必要性

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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