「こうしてまぶたを閉じると、懐かしい母の顔が浮かぶなあ」(小林写函撮影)
「こうしてまぶたを閉じると、懐かしい母の顔が浮かぶなあ」(小林写函撮影)

脱走防止ネットをDIY ついに同居猫候補「みーちゃん」を迎える準備は整った

 愛猫「はち」の同居猫候補、推定9歳の三毛猫「みーちゃん」を保護団体B会でみつけ、トライアルをしようと思った矢先に、ツレアイが異議を唱えた。きっかけは「ベランダに面した窓の内側に脱走防止柵を設置してもらえないか」とB会に頼まれたからだった。これにより、保護団体から保護猫を受け入れることの責任の重さについて考え、「背負う自信がないから保護猫はやめよう」と言い出したのだ。

(末尾に写真特集があります)

打開策を探る

 みーちゃんとお見合いをして以来、私はみーちゃんが家に来るのが楽しみでならず、日に何度も B会のSNSで動画や写真をながめていた。お見合いのときは「愛想がない」と感じたが、それも魅力に思えてきて、「はちの同居猫はみーちゃん以外考えられない」とまで入れ込んでしまったので、ツレアイの発言はショックどころではなかった。

 なんとか説得しなければと思ったが、ツレアイも2匹目の猫を迎えることに反対しているわけではない。感情的にならずに彼の言い分に耳を傾け、話し合うことにした。

 ツレアイは、脱走防止柵を設けることが不服なのではなかった。ただB会が提案する室内に固定式で設置という方法では、はちをベランダに出しにくくなる。それに、人間の出入りが不便だし、景観も悪いから嫌だと言うのだ。

 私は、B会の方法はあくまで1例であり、脱走防止対策を講じることができさえすれば形は問わないらしいと話した。すると、

「それなら室内ではなく、ベランダに脱走防止柵を作ろう」

 と言った。実はこれは以前から、ときどきツレアイが口にしていることだった。そうすれば、はちがベランダに出るときに常に張り付いている必要もなくなるし、何より、はちにとって安全だ。

ぽんた「はち、皆さんに新年のごあいさつ」はち「あ、本年もよろしくお願いします」(小林写函撮影)

 DIYが得意なツレアイの頭に中には、柵の構想はすでにあるという。にもかかわらずこれまで実行しなかった理由は、はちがベランダから外にはまったく出ようとしなかったことと、ツレアイがなにごとに対しても腰の重いタイプだからだ。

 私は、今こそ腰を上げるべきだとこの案に飛びつき、 B会の人たちに LINEで報告した。ツレアイが「明日材料を買いそろえたら、すぐに着手する」と言うので完成予定日を設定してもらい、トライアルは、その数日後から開始できるようにB会と調整した。

脱走防止ネットをDIY

 ツレアイが考えたのは、ベランダの両端にポールを立て、防鳥対策などに使う緑色のネットを張る、というものだった。ポイントは、ネットを可動式にする点だ。

 ポールには高い位置から低い位置まで数カ所にフックを取り付ける。そのフックに物干し竿のように横棒を渡し、棒からネットを吊り下げ、裾はベランダの手すりに固定する。横棒を引っ掛けるフックの位置によって、ネットの高さは変えられる。当然、壁とネットの間は、猫が通れる隙間ができないように工夫する。

 ネットの高さを変更できれば、ベランダから外の写真を撮る際にも、手すりに布団を干したいときなどにも邪魔にならない。

「飛べるさ!」(小林写函撮影)

 何回かホームセンターに通って材料を買い足したり、製作途中に改良したりしたのち、予定通り、脱走防止柵ならぬ防止ネットは完成した。

 これを写真に撮り、B会の人たちに送った。すると「すばらしいアイデアですね!」「これなら、2匹仲良くひなたぼっこができますね」「ほかの譲渡希望者にも提案できそう」「みーちゃんのためにありがとうございます」など、ツレアイの労をねぎらうメッセージが届いた。これには、ツレアイもまんざらではなさそうだった。

お見合いから1カ月後

 さらに、リビングの窓にも脱走防止柵を取り付けることにした。この窓はベランダには面していないが、隣家の塀がすぐ目の前にある。万が一、換気のために開けた窓から網戸がはずれたりすると、簡単に外に出ることができてしまい危険だ。

 ここは2重窓になっているため、内側の窓と外側の窓の間に、ホームセンターで購入したワイヤーネットをはめ込んだ。スムーズに左右にスライドできるように、窓の桟にピンを打つなどしてツレアイが工夫をした。

 こうして準備が整い、いよいよあと4日でトライアル、というときになって、はちが珍しく風邪をひいた。くしゃみを連発する程度でたいしたことはなさそうだが、念のためにかかりつけの動物病院に連れて行った。

「陽を浴びると元気になるね」(小林写函撮影)

 症状は軽いので自然になおるだろうというのが院長先生の見立てだった。だが、私がトライアルの話をすると「新しい猫ちゃんに移してしまう可能性があるから」と、抗性物質を処方してくれた。先生には以前、新たな猫を迎えることについて相談し、そのときは「猫エイズキャリアのはっちゃんにとってストレスになるからおすすめはできない」という見解だった。今回は「楽しみですね。仲良くなれるといいですね」とにこやかだった。

 だが、2日過ぎてもはちのくしゃみは完治せず、その様子を見てツレアイが「はちの体調が万全になるまで、トライアルは延期したほうがいい」と言い出した。まだ「お預かりする猫」という立場のみーちゃんに風邪を移しては一大事、と考えたらしい。

 こうして、再度トライアルの日を遅らせてもらい、お見合いの日から約1カ月後、ゴールデンウィーク間近の風が心地よい季節に、みーちゃんは来ることになった。

(次回は1月19日公開予定です)
【前の記事】トライアル延期 保護猫を譲り受ける責任の重さに、「保護猫はやめよう」と言った

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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