猫への愛を描いた画集 横尾忠則さん「タマ、帰っておいで」
日本を代表する美術家、グラフィックデザイナーの横尾忠則さんが15年間ともに暮らした愛猫タマの姿を描いた画集「タマ、帰っておいで」(講談社)が発売されました。タマが旅立った日から6年間にわたり描き続けた肖像画91点に、タマへの思いにあふれる文章が添えられています。編集を担当した講談社の新井公之さんに企画背景をうかがいました。
本書は横尾忠則さんが描いた愛猫タマの絵だけを集めた画集。「生まれ変わったら、また一緒の家族になろう」という「弔辞」とともに始まり、膝に座ったり、箱に入ったり、桜の花びらの上を歩いたり、生き生きしたタマの姿を描いた91点が収められている。それぞれに横尾さんが折々に記した日記などの文章が添えられ、巻末には、タマから横尾さんへの“メッセージ”も載せられている。
――本書が生まれたいきさつを教えてください。
2014年5月31日に愛猫タマが亡くなり、その嘆きを横尾先生はツイッターで次々とアップされました。私もそれを見ていた一人で、胸が締めつけられる思いでした。最初はデスマスクを2枚絵に描いたとあり、画家らしい鎮魂の表現と思っていましたが、その後もタマの絵の制作が続きました。当時は作品の公開予定も書籍化もないと述べていた記憶があり、残念に思いましたが、2017年に十和田現代美術館でタマの絵の連作40点余りが公開されると横尾先生のツイッターで読み、投稿欄から“タマちゃんの本を作りたい”“絵とともに先生の名文を書籍に残したい”と自分の思いを伝えました。
――依頼から実現まで、4年近くかかったそうですね。
ご相談して1週間後に横尾先生から直接ご連絡いただき、タマの絵は絵画作品というよりレクイエムのつもりで描き始め、絵の表現のほとんどが普段の絵画様式とは別に“写実的に描いている”こと、“タマの絵はアトリエでは一点も描いていない”こと、“100点の作画を目標にしている”こと等をおうかがいしました。それから出版に向けて打ち合わせをし、(100点になるまで)楽しく待たせていただきました。タマちゃんの7回忌がちょうどよい時期と先生がお考えになったこともあり、今年、出版と展覧会(延期)をということになりました。
――横尾さんとの打ち合わせの中で、猫に関して意気投合したことはありますか?
横尾先生に、うちの猫は私が目覚めて物音ひとつ立てないのにも関わらず起きたのを察知してやってくる、という話をしたところ、先生も『タマはうちのかみさんと寝るけれど、僕が目覚めているとニャオーンと鳴きながら来る。眠っていると入ってきても声をかけないで出て行く…猫は(人の)“意識”を読むんです』とお話しされていて、印象的でしたね。
――〈「タマ」の名前で始まる朝はもう来ない〉〈オノ・ヨーコさん来訪…「アート作品にするのではなくタマへの愛を描いた」。「それこそアートじゃない!」〉……こんなふうに、猫好き、アート好きの人が心動かされるエピソードが日記としてつづられていますね。
この本は画集だけでなく、胸にしみる日記文学作品です。愛するものを失った気持ちを分かち合うことのできる本として、皆さんの家の猫同様、この本も一生涯の伴侶となるのではないでしょうか。タマを失った悲しみ、寂しさが胸に迫ってきます。内田百閒の「ノラや」の令和版ともいえるかもしれません。
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