「はちだけど蜜は吸わないんだ」(小林写函撮影)
「はちだけど蜜は吸わないんだ」(小林写函撮影)

一触即発状態は“よい兆候”だった? 2匹目の猫「ハナ」のトライアルは継続へ

 愛猫「はち」の同居猫候補、推定9歳の三毛猫「みーちゃん」を保護団体B会でみつけ、トライアルを開始。滑り出しは順調で、家の子にするつもりで「ハナ」と名付けた。

 だが、日が経つにつれて2匹の関係は悪くなり、一触即発の状態が続くようになった。そうして2週間が経ったとき、私はトライアルを断念することにした。

 それぞれ8歳と9歳というシニアの入り口の2匹にとって、相性のよくない猫との同居はストレスになるだろう。ともに猫エイズキャリアでもあるし、それぞれ別々の家庭で暮らしたほうが幸せだと考えたからだった。

(末尾に写真特集があります)

ふと思い立ち

 B会のMさんにその旨を電話で伝えたのは、外出先でのことだった。

 帰宅し、リビングにいるハナのところへ向かった。留守にするときは、ハナはケージに入れて扉を閉めていた。

 ハナは、前脚をバンザイにした姿勢で、おなかを出して寝ていた。

 ケージの扉を開き、リビングの窓を開けた。網戸越しに初夏の風が入り込んできて、ハナは気持ちよさそうに鼻をひくひくさせ、寝返りを打った。

 とたんに、涙があふれた。

 ハナは、ここを定住の地と決め、安心しきっている。そんなハナをまた、別の場所に移すなんて。

 そのとき、ふと思い立ち、本棚から『まんがで読む はじめての保護猫』という本を取り出した。

 それは、保護猫を迎える際によくあるケースをまんがで取り上げ、問題解決のためのヒントや情報を専門家監修によるコラムで紹介している実用書だった。絵がかわいいので最近購入したのだが、まだきちんと目を通していなかった。

「春だな」(小林写函撮影)

 パラパラとページをめくると、2匹目の猫を迎える例が出てきた。読み始めるとそこには、まさに今、私が直面していることが描かれていた。

 新入り猫の積極的なアプローチに対して、先住猫がおびえて威嚇、行動や体調に異変が現れ、飼い主は動揺する。やがて2匹が猫パンチを繰り出し合うようになると、「喧嘩(けんか)では?仲が悪いのでは?」とオロオロしてしまう。

 しかし専門家は、それを「よい兆候」だと解説していた。「猫パンチは挨拶(あいさつ)みたいなもので、相手を認めるための儀式。どちらかが一方的に攻撃しているなら問題だが、ジャブ程度なら介入しないように」とのことだった。

 さらに、「先住猫が憔悴(しょうすい)する姿を見て心が折れ、早い段階でトライアルをやめたり2匹目を迎えるのを断念するケースは珍しくない。だが、これも通過儀礼の一つ。時間とともに先住猫の態度も、猫同士の関係も変わる。結論を急ぎすぎず、どっしり構えて見守りましょう」と書かれていた。

2匹は対等に?

 早まった、と私は思った。なぜ、この本を先にちゃんと読まなかったのか。

 確かに、はちは、ハナに強引な鼻チューをされ、最初は嫌そうにしていた。しかし、しばらくすると猫パンチを繰り出し、威嚇するようになった。そして威嚇された当初はおとなしく引き下がっていたハナだが、最近は応戦するようになった。

 それは、この本によると「よい傾向」で、立場が対等になった、ということのようだ。

「このはちって、悪い猫じゃないわね、頭以外」(小林写函撮影)

 また冷静になって考えれば、2匹は絶えず威嚇しあっているわけではないのだ。はちがハナに猫パンチをするのは「自分の気がのらないのに、鼻チューを強要してくるとき」だ。ハナが、ただリビングをうろうろしているだけなら衝突は起こらないし、同じ空間の離れた場所で、2匹同時に昼寝をしていることもある。

 なにより、2匹とも健康状態に問題はない。快食快便だし、はちの膀胱炎も再発しない。

 ツレアイが帰宅すると私は「ハナのトライアルをもう1週間続けたい」と話した。ツレアイは「もうやめると先方に言ったんでしょ、それにはちは嫌がっているんだよ」と呆れたが、2匹の関係は決して悪くないことをとくとくと話し、納得してもらった。

ケージごしの鼻チュー

 翌日、B会の Mさんに伝えた。Mさんは「とてもうれしいのですが」と前置きをしつつも、難色を示した。昨日、私が出した結論をもっともだと思ったMさんは、「みーちゃん」には1匹で飼ってもらえるお宅限定で、新たな譲渡先探すつもりになっていたからだった。

 そこを私は「私の早とちりで、ちょっと神経質になりすぎていました。これからは肩の力を抜いて2匹の様子を見守りますから」と懇願した。 

 そして、何より私が「みーちゃん」と離れがたくなっていることを力説、なんとか1週間の延期を承諾してもらった。

「おばちゃん、戻ってこない。ハナと遊んでいるのかな」(小林写函撮影)

 トライアル中、猫たちの関係が何かおかしいと思った場合は、一つ前の段階に戻してみることも有効だそうだ。

 そのことを、動物行動学を専門とする獣医師のウェブセミナーを受講して知った。そこでハナには、しばらくケージ生活に戻ってもらうことにした。

 このところ、私たちが在宅中の昼間は、ケージの扉は開け放し、自由に行動させていた。それをいったんやめて、ハナをケージから出すのは、私がリビングにいるときのみ1日数回、数時間に限ることにした。

 ハナは不服そうで、たびたび鳴いたり、ケージの格子に頭をぶつけて「出せ出せ」とせがんだ。私は「はちがもう少し落ち着いて、あなたの存在に慣れるまで我慢してね」と言い聞かせた。

 ハナがケージの中にいる時間が長くなると、はちの態度に変化が現れた。

 このところ、ハナを避けるような様子だったのに、ハナが家に来たばかりのとき同様、自分から近づいて行き、ケージごしに鼻チューをしようとしたり、ハナの耳をなめるような仕草をするようになったのだ。

(次回は4月19日公開予定です)

【前の回】先住猫はちと2匹目ハナ トライアル開始から2週間、譲渡を諦めようと決断した

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

sippoのおすすめ企画

sippoの投稿企画リニューアル! あなたとペットのストーリー教えてください

「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!

この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
Follow Us!
編集部のイチオシ記事を、毎週金曜日に
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。


動物病院検索

全国に約9300ある動物病院の基礎データに加え、sippoの独自調査で回答があった約1400病院の診療実績、料金など詳細なデータを無料で検索・閲覧できます。