「予想外に大きくなった」ため手放されたトイプードル 犬好きの夫婦のもとで幸せに
ブリーダーが崩壊したり、長く働いた繁殖犬が引退したりした後に、一般の家に引き取られることがあるが、ある雄のプードルは、体が“予想外に大きくなった”という理由で、不要とされた。しかしその後、犬好きな夫婦と出会い、今はやんちゃなペットとしてのびのび暮らしている。どんな経緯で迎えたのか、飼い主に話を聞きにいった。
やんちゃなトイプードル
東京都町田市の一軒家に、リフォーム業を営む渡辺尚さんと、会社員の妻、理恵さんが暮らしている。35年前に結婚して以来、“犬がいない時はほぼない”という犬好きの夫婦だ。
居間にあがると、赤茶色のトイプードルがわんわんと元気よく鳴いた。アフロヘアがよく似合い、毛艶もぴかぴかだ。
「この子が5歳のコア君です」
「今とってもやんちゃですが、家に来た時はもっとおとなしかったんですよ」
尚さんと理恵さんが笑顔で説明をしてくれる。
大きくてバッグに入りきらず
コアを家に迎えたのは2016年の1月末。同居していた理恵さんの父が同じ月に92歳で亡くなった。さみしい思いをしていた時に、仲良くしている犬友から「関西の方のブリーダーのところに、ティーカッププードルがいるようだけど、どう?」と相談をされたのだ。
その犬友は、ペットショップで迎えたメスのマルチーズの“親”がどんな犬か、まだ生きているのかと気になり、出生地を頼りにブリーダーを探して連絡し、繁殖の役目を終えたその老親犬を引き取ることにしたのだった。その時に、ブリーダーから「若いティーカップを一緒に引き取ってもらえないか、無料でいいので」と言われたという。
ちなみに、ティーカッププードルはジャパンケネルクラブ(JKC)で公認されている犬種ではない。成犬時の体重2㎏未満、体高が約23㎝以下のトイプードルの通称で、小さいため健康が不安視されることもある。
犬友の話を聞いて、尚さんと理恵さんは「そのティーカップ、うちで迎えよう」と決めた。タイミング的に縁を感じたからだ。
「父が亡くなってすぐのお話だったので、父の生まれ変わりのようにも思えて……」
コアが関西から空輸される日、羽田まで迎えにいった理恵さんは驚いたという。
「ティーカップと聞いて、小さなバッグを持っていたんです。そうしたら、痩せていたけど骨格が大きくてバッグに入りきらず、一緒にいった友人にキャリーを借りました。生後4カ月程度でしたが2㎏は超えている感じで、この“大きさ”が原因で繁殖場を出されたのだと思いました」
しかし、ブリーダーの都合で“不要”の烙印を押された繁殖候補の子犬は、この瞬間からふつうのトイプーとして愛情を注がれ、のびのび生きることになったのだ。
先住犬が旅立った後「お山の大将」に
コアは、家に来た時にオドオドとしていた。筋力がなく、はじめはフローリングもうまく歩けなかったそうだ。尚さんが当時を振り返る。
「運動を全然していない感じでした。でも鳴かないし、意外といい子だなと思いましたね。僕のいなかの実家に連れていってもおとなしくしていたし、先住犬ともうまくやって……」
コアが来た時、家にはオスの黒いトイプードル(当時15歳)のクーがいた。クーは、年の離れたコアの面倒を我が子のようによく見て、コアが鳴いたり、いたずらをしようとすると、だめだぞ、というようにしつけた。
その甲斐もあってか、コアは順調に、聞き分けよく育っていった。
だが、同居から1年後(2017年)にクーが亡くなってから、キャラが変わったそうだ。いきなり、やりたい放題犬にスイッチオン。
「クーに抑えつけられていたのが爆発したのか、騒ぐようになって。いなかにいっても僕の兄に吠えて嚙もうとするので、兄もびっくりしてね。どうやらコアは1匹になって本領発揮というか、“お山の大将”になったようです」
尚さん夫妻は35年前に結婚して間もなく2匹の雑種犬を飼い、その後クーを迎えたので、コアは結婚以来4匹め。犬の変化にそうそう慌てなかったが、クーがいなくなって、1匹で留守番する姿が不憫に思えた。
「家ではいつも“2匹飼い”を続けていたので、クーの亡き後しばらくしてもう1匹犬を迎え、コアの相棒にしたいと思うようになりました。迎えるなら、行き場を失った保護犬を迎え、命を救うことができればと……」
そんな風に思い、調べはじめた時、犬仲間から、都内で保護した犬と家族をつなぐ「非営利動物保護団体ととのん」のことを教わった。ホームぺージを見ると、家族を探している犬の写真が何匹も掲載されている。
「どの子がいいかな」「おとなの犬もいいね」と夫婦で相談し、白羽の矢が立ったのは、崩壊したブリーダーからレスキューされた、7歳のメスのトイプードルだった。触れあいルームに面会に行き「うちの子にしたい」と申し込みを決めた。
そうして縁を繫いだコナが、2018年2月にやってきた。
散歩がどんどん好きになって
7歳といえばシニアの入り口あたりだが、小型犬ではまだ若々しい子が多い。だがコナは体の毛もシッポの毛も薄くまばらで、痩せて、歯はぼろぼろで口内炎もできていた。コナは尚さんの目に「ぞうきん」のように映り、生きていけるのだろうかと不安になった。しかし、切れ長の目が美しく、惹かれた。
「獣医さんに診てもらうと、この子は10歳を超えているようだと言われました。マイクロチップも入っているし7歳のはずなのですが……。劣悪な環境でたくさん働かされて、心身がボロボロになったのでしょうね。でも穏やかで本当にいい子なんですよ」
コアはフレンドリーで、子育て経験があるせいか、やんちゃキャラに豹変したコナとも反目しあわず、うまく折り合ったという。
最初は表を怖がり道端で固まっていた散歩も、どんどん好きになった。散歩にいくとわかると、「女子でなく親父みたいな太い声で」鳴いて喜び、今では山も坂道も駆け上がる。
「毛はなかなか生えてこないけど、うちに来てから、コアと同じように無添加のフードを選んで、そこにささみをトッピングしてあげて、体重が増えました。抱いてみますか?」
そう言われて尚さんが抱いていたコナを胸に抱くと、意外と重かった。
「小柄なのにずっしりしていてびっくりするでしょう、むちむちなんですよ(笑)」
日中、尚さんと理恵さんが仕事にいっている間、コアとコナは居間で仲良く留守番をしている。夜は、隣の寝室で、家族みんなで「川の字」になって寝るそうだ。
「僕らは子どもがいないので、ペットはまさに子どものような存在。子どもの頃は猫と添い寝もしていたけど、犬も別々な場所でなく一緒に寝たい(笑)。それでベッドにもぐりこめる大きさの犬に目がいくのかな」
理恵さんによれば、尚さんは「目にいれてもいたくないほど」犬を可愛がっているという。
「犬のために、私たちもこれから健康で長生きしていきたいと思いますね」
尚さんは、コアが来てから、床を自分でリフォームもした。たまにおしっこをしてしまうため、フローリングを木目調の塩化ビニール製に変えたそうだ。
「確かにこの子たちの存在は大きい。夫婦も35年を超えると会話がほぼなくなるけど(笑)、ふたりともよく話すし、よく笑いますよ。僕らが救われていますね。ブリーダーなどの飼育や管理方法の数値規制を法律に導入することが問題になっていますが、本当に劣悪な環境を改善してほしいと思う。みんな、大事な命なんですから」
尚さんが薄い毛のコナを抱くと、コアが、そうだ!とでもいうようにワンと鳴いた。
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