実はすごく飼い主を気遣っている犬 それに気がついたエピソード
先代犬の富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らすライターの穴澤 賢さんが、犬との暮らしで悩んだ「しつけ」「いたずら」「コミュニケーション」など、実際の経験から学んできた“教訓”をお届けしていきます。
犬の精神年齢の成長は早い
幼い犬は、なかなか言うことを聞かないし、意思疎通もあまり出来ない。それが3歳頃になると落ち着き、手がかからなくなる。5歳頃になると、飼い主の歩調に合わせたり、ちらっと振り返って気遣ったりそぶりを見せる。そんな姿に、若い頃はあんなにグイグイ引っ張ってばかりいたのに、と驚いたりする。
これは犬と暮らしている人なら、だいたい経験していることではないかと思う。どんなにやんちゃな犬でもそういう風になっていくし、ある程度の年齢になると、好き勝手やっているようで実はさりげなく飼い主を気遣っていたりする。そういう面で、犬は人間とは比べ物にならない速度で急速に成長していく。
わが家の大吉は12歳で、福助は9歳だから、当然この領域に入っている。ただ、大吉は歩くときにちらちら後ろを気にしたり気遣いが感じられたりするが、福助はあまりそういう態度は見せない。
優しい兄がいるおかげか、わりと好き勝手やっている。とはいえ、困るようなことは一切しないから何も問題ない。だからどちらもさりげなく気遣ってくれているレベルかなと思っていた。でも実は、ものすごく気にかけてくれているんだなと思う出来事があった。
感染を避けてとった行動が裏目に
2022年8月、私は新型コロナウイルスに感染し、1週間倒れた。経緯はこうだ。8月4日の夜、妻が発熱した。翌5日、PCR検査の予約がとれたので車で連れていったところ陽性と判明。症状は軽かったし、この時点で私は無症状だったので、二人して倒れたらまずいと別行動をとることに。そこで5日夜、鎌倉市腰越の自宅で療養する妻を残し、私は大福を連れて八ケ岳の山の家に避難した。
6日はなんともなかったので私は平気だと思っていた。というのも、これまで妻がなんらかの感染症にかかっても私に伝ったことはなかったからだ。ところが7日の夕方、いきなり寒気と猛烈な倦怠(けんたい)感に見舞われベッドに倒れ込む。持っていた抗原検査キッドで検査すると、陽性。これはまずいと思った。
医療機関で診察した妻は解熱剤などを処方されていたが、私には何もない。探してみたが、山の家には薬はおろか体温計すらなかった。体調から判断すると自力で運転して病院へ行くことも出来ない。たとえ行けたとしても大福を残して病院には行けない。
妻と二人で倒れたら大福の面倒は誰が見る、ということで別行動したのにそれぞれ別の場所で倒れるという最悪の展開に。さぁ、どうする。
寒気はひどくなるいっぽうだし、熱がぐんぐん上がっていくのが分かる。意識も次第にもうろうとしてくる。夕方の散歩の時間だが、ふらふらして行けそうにない。そこで大福には「悪い、ドッグランでしてきて」と表に出すと、ふたりともさっさとオシッコをしてすぐ戻ってきた。あとは、ひたすら眠ることにした。
とにかく熱を下げろ
ここで私に出来ることはひとつしか思い浮かばなかった。それは風邪で発熱したときと同じ方法。厚着して眠る、汗をかいたら着替える、とにかく水を飲む。その3つだけ。そんなものが通用するのか?でも他に出来ることはない。
バスタオルと着替えを大量にベッド脇に積んで、冬用の布団と毛布にくるまった。ところが厚着して布団に入っているのに寒気がとまらない。それならと冬用のインナーを2着重ね着して、その上にトレーナなどを着込んでみた。ようやく寒気が少しマシになったが、熱はぐんぐんあがっているのが分かる。ちなみにこれは8月の話である。
経験上、平衡感覚がおかしくなると38℃後半だが、そのラインは確実に超えている気がした。ふと見ると、大福はベッドの脇で寝ることもなく、ふたりして「どうしたの?」と心配そうな顔で見ているのだった。
布団にくるまりもうろうとする意識の中で、「ここで死んだらまずいな」と思った。それから夜中に何回も起きた。時間の感覚もあいまいになっていたが、とにかく汗をかいたら着替え、その度に水を飲めるだけ飲む。それをひたすら繰り返した。
8日の朝になると、熱が下がっているのが分かった。平衡感覚は戻った。37℃代まで下がったのだろう。平熱に近くなっても、異常に体がだるい、のどが痛い、食欲は一切ないという状態だった。
だからベッドに横になっていたが、大福は何かを催促してくることもなく、おとなしく隣にいた。彼らのゴハンは作れないから缶詰を出したり、ドッグランに出したり最低限のことしか出来ない。それでも不満そうな顔は見せず、私がベッドに戻ると彼らも一緒に付いてきた。
自分たちのことより、人を心配する犬
10日ごろになり、ようやく起きて少し歩けるくらいになった。それでも脱力感は抜けず、本を読んだり映画を観たりする気力もなかった。食欲も戻らず、備蓄してあったおやゆのレトルトを1日1パック食べる程度だった。
そうして約1週間、山の家で何をするでもなく、ただ寝て過ごした。ちょうどお盆休みと重なっていたため特に仕事に支障をきたすことはなかったが、山の中でひとりで倒れる不安を痛感した。
もうひとつ実感したのは、人は1週間寝て暮らすと、恐ろしく体力が落ちることだった。散歩へは少しずつ出られるようになったが、すぐに疲れる。息があがる。いつもなら1時間くらい歩くのに、それが出来ない。
それを知ってか知らずか、福助は日に日にどんどん距離を伸ばしていった。私としてはウンチをしたら引き返したいのだが、しそうでしない。だから仕方なく歩くのだが、山の家周辺は坂道が多いので体力を消耗する。
それでも福助は、いつもは行かない別荘地の一番上くらいまで登っていく。その後を、ハァハァいいながら付いていく。朝夕とそんなことを繰り返しているうちに、少しずつ体力が戻ってくるのが分かった。同時に食欲も少しずつ出てきた。もしかして、リハビリのつもりだったのか。
リハビリは気のせいかもしれないが、このときのコロナ療養で、大福が私のことを思った以上に気遣ってくれていることを知った。
ベッドでただ寝て過ごしている間も、不満そうな顔は一切せず、むしろ「大丈夫?」という目で見ていた。自分たちの体はなんともないはずなのに、遊ぶこともなく、暇そうにすることもなく、ただひたすらそばにいてくれた。いつもは好き勝手やっているように見えていた福助さえも。つらいときに、それが精神的な支えになった。
だからきっと、あなたのそばにいる愛犬も、あなたが思っている以上にあなたのことを気遣っているんだと思う。普段はあまり見せないが、なんてけなげで愛おしいやつらなんだろう。
【前の回】なぜ犬たちは100%信頼してくれるのか 私はそれに応えるしかない
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