「ハナが近寄ってきたら、こうやってパンパンと追い払うんだ」(小林写函撮影)
「ハナが近寄ってきたら、こうやってパンパンと追い払うんだ」(小林写函撮影)

紆余曲折あったトライアルを経て 猫の首輪をはずし、大切そうにバッグにしまった

 愛猫「はち」の同居猫候補、推定9歳の三毛猫「みーちゃん」を保護団体B会でみつけ、トライアルを開始。家の子にするつもりで「ハナ」と名付けたが、2匹の相性はよくないと思い、1度はトライアルを断念した。しかし、その決断は早急だったと気がつき、あと1週間、様子を見ることにした。

(末尾に写真特集があります)

ハナの興奮をはちが静める

 はちとハナの関係をリセットするために、数日間ハナをケージ隔離生活に戻したのち、再びリビングに限って自由に行動させることにした。

 ハナは相変わらず、はちに強引に鼻チューを迫る。そのたび、はちは顔を背けたり、猫パンチで抵抗したりする。

 だが心なしか、以前に比べて叩き方がソフトになったようだった。ハナもやみくもに鼻をぶつけるのではなく、ハチの様子をうかがいながら加減するようになってきた。

 ハナはときどき、夕方から夜にかけて興奮状態になることがあった。猫は本来、薄明薄暮性動物で薄暗い時間に活発になるといわれる。ついこの前まで外で暮らしていたハナには、この習性が残っていると思われた。

 興奮状態のハナは、リビングと隣接するキッチンを所在なく歩き回る。カーテンの裏にもぐり込み、窓ガラスに伸び上がり「アーウ、アーウ」と激しく鳴く。

「ハナ、少しはうちになれたかな」(小林写函撮影)

 ある夕方、ハナはチェストにのぼり、窓に設置してある脱走防止用の柵に前脚をかけ、ガタガタ揺すり始めた。止めようとして私が慌てて椅子から立ち上がると、別の部屋にいたはちがすっ飛んできてチェストに飛び乗り、ハナの頭を強く叩いた。

 するとハナはぴたっと鳴き止み、柵から手を離した。その後しばらく、2匹は並んで窓の外を見ていた。

 このように「ハナが興奮して鳴き、はちが叩いて収束」ということはその後も何回かあった。まるで「うるさい、落ち着きなさい」と、はちが戒めているかのようだった。

互いを知っていく2匹

 数日後からはリビングのドアも開放し、ハナの行動範囲を広げた。

 ハナは毎日、家の中をひと通り散策はするが、ほかの部屋にはあまり興味がないようだった。すぐにリビングに戻ってきて、ケージの2階でくつろいだり、昼寝をしていることが多かった。窓に近く、光と風が入るこの場所が、自分の「巣」だと思っているようだ。

 一度、私がケージの床を掃除するため扉を開けていたら、はちが入り込んできたことがあった。はちは2階に伸び上がり、寝ていたハナをのぞき込んだ。するとハナは目を開き、激しくはちを威嚇した。「邪魔しないで!」と怒られたらしいはちは、すごすごと退散した。

 ハナが昼間、リビングを歩き回っているだけなら衝突は起こらない。たとえば、はちの横をハナが素通りするときは、はちは前脚を伸ばし、ハナの尻尾にじゃれるような仕草をすることもあった。

「ペットボトルのおもちゃじゃなくて、あたしと遊びなさいよ」(小林写函撮影)

 こうして、トライアル延長を決めてから1週間が経った。

ハナをうちの子に

 トライアル期間が終了するにあたり、私はB会の人たちにあらためて、ハナの生活や健康状態についてグループ LINEで報告した。

 2匹の関係については、「相性抜群という感じではないが、牙を見せ合うことはなくなり、距離は確実に縮まってはいる」と述べた。そのうえで「焦らず見守っていくので、ぜひ『みーちゃん』を譲り受けたい」と伝えた。

 さらにハナが私のひざに乗り、その足元にはちがおなかを出して転がっている写真も送った。

 見ようによっては、後から来たハナが飼い主のひざを横取りしている光景ともとれなくない。だが、もともと私のひざに乗るのを好まないはちにとっては、最大の「甘え」の表現だった。

  B会の人たちからは、「ぜひ、みーちゃんを宮脇さんの家族に迎えてください」という返事をもらった。

譲渡契約を結ぶ

 1週間後、初夏の汗ばむ日に、譲渡契約を結ぶためB会のSさんとMさんが家にやって来た。今回は、自宅で2カ月間ハナの預かりボランティアをしていたIさんも一緒だった。

 借りていたケージは返却することにし、代わりに同じものをインターネットで購入した。

 B会の人たちがリビングに現れると、新しいケージの中でハナは身を固くした。「みーちゃん、久しぶり!」と声をかけながら顔を寄せる3人に対して、緊張した表情でずりずりとあとずさりしている。

「ここはあたしの特等席ね」(小林写函撮影)

 9年もの間、外であれだけお世話になっていたのにと思うが、これは譲渡の際に保護主に対する反応としてはよくあることだそうだ。新たな自分の居場所ができた場合、そこに現れる人間は猫にとってすべて侵入者という位置づけになるらしい。

 譲渡契約書には「この猫を大切な家族の一員として最後まで責任を持って愛育します」「完全室内飼いとし、毎年継続して予防接種を接種し、必要に応じて動物病院にて治療させます」など、6項目の誓約文が書かれていた。譲受者の欄に私が、譲渡者の欄にMさん、立会人の欄には Sさんがそれぞれ署名をした。

 ハナは、家に来たときから首輪をしていた。Iさんが自宅で付けたもので「みーちゃん」と名前入りだった。

 Iさんはその首輪をはずし、大切そうにバッグにしまった。

 こうしてトライアル開始から約1カ月後、「みーちゃん」は正式に「ハナ」となり、はちの同居猫となった。

(次回は5月3日公開予定です)

【前の回】一触即発状態は“よい兆候”だった? 2匹目の猫「ハナ」のトライアルは継続へ

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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