「野菜の苗の番をしてるんだ」(小林写函撮影)
「野菜の苗の番をしてるんだ」(小林写函撮影)

トライアル延期 保護猫を譲り受ける責任の重さに、「保護猫はやめよう」と言った

 愛猫「はち」の同居猫候補を、保護団体B会のSNSでみつけた。実際に会いに行き、トライアルをすることに決めた。「みーちゃん」という名の推定9歳の三毛猫の女の子だ。

 B会の4人とはグループLINEでやり取りをすることになり、みーちゃんは、トライアル開始の日に会の人が車で連れてきてくれることになった。

(末尾に写真特集があります)

トライアルに向けて

「トライアル」は、保護猫が実際に譲渡希望者の家で暮らし、新しい環境になじめるかを見極める期間だ。といっても「合わなかったらほかの猫にすればいいか」というような、気軽な「お試し」とは違う。譲渡希望者がその猫を迎えることが前提で行われ、どうしても難しい場合にのみ白紙に戻すというような、猶予期間だ。

 保護団体によっては、トライアル前の家庭訪問を譲渡の条件にしているところもある。B会では原則として行なっていないが、トライアルの前に、みーちゃんが過ごす部屋の写真を送るように頼まれた。また「みーちゃんを連れて行くのは、ツレアイさんが在宅の日でお願いしたい」と言われた。

 それをツレアイに告げると「僕がいる必要があるの?」と怪訝そうな顔をした。私は、保護猫を託す家に、どんな人々が暮らしているのかを知っておきたいからだろうと言い、ツレアイは納得した。

ツレアイに変化

 だがトライアルの準備を進めるうち、「君の好きなようにすればいい」という態度だったツレアイが、物を申すようになった。

 ケージを買おうとインターネットで物色していると「こんな大きなものをリビングに置くつもり?」と言った。みーちゃんを迎えたら、新しい環境に慣れてもらうため、しばらくはケージ内で生活してもらう。保護猫を迎える家ではどこでもそうしているようだし、先住猫がいる場合は、隔離するために必須であることを説明した。

「僕の写真が入ったハガキ、今年も出すみたいだよ」(小林写函撮影)

 ツレアイは「トライアルがうまくいってもいかなくても、いずれ必要がなくなるものだから買うのは早急。B会から借りられないか聞くべきだ」と主張した。ケージは、猫にとって災害時の避難場所にもなるらしいので、家に1つあってもよいと思ったのだが「はちがケージなんかに入っておとなしくするわけがない」と一蹴された。

 幸い、貸し出してもらえることになり、この件は解決した。次に問題になったのは、脱走防止対策についてだった。

激しく抗議

 リビングとそれに続くダイニングキッチンの写真をB会に送ったところ「ベランダに面しているダイニングキッチンの窓に、脱走防止柵を設置してもらえないか」とのこと。

 我が家はマンションの2階だ。はちは家に来たばかりの頃、一度この窓からベランダに飛び出して壁に飛び乗り、慌ててツレアイが取り押さえたことがあった。

 B会から提案されたのは、片側の窓の内側に突っ張り棒を立て、100円均一ショップで売っているワイヤーネットを結束バンドで取り付ける、というものだった。固定式で、人が出入りする側には設置しない。人間がベランダに出るときは、猫は別の部屋もしくはケージに入れるなど、隔離する必要があるという。

「スギ花粉はそろそろ終わり、ヒノキの匂いがするぞ」(小林写函撮影)

 取り付けは、B会の人がやってくれるというが、これに対してツレアイは激しく抗議した。

「それって猫をベランダに出せないようにしろということでしょ。はちはベランダでひなたぼっこをするのが大好きなのに、禁じるなんでできないよ」

 天気のいい日は、2人のうちどちらかが監視できるときに限って、はちをベランダに出していた。いつも気持ちよさそうに床の上を転がったり、風のにおいをかいだりしている。過去の脱走未遂事件以来、2度とベランダの壁に登ろうとはしない。

 景観も悪くなるじゃないかとブツブツ言うツレアイに、私は説いた。

「光合成はしないけど、ひなたぼっこは好きなんだ」(小林写函撮影)

 保護猫に限らず、人間のちょっとした不注意により猫が脱走し、事故にあったり怪我(けが)をしたりして取り返しのつかないことになる場合は少なくない。また脱走した猫を捕獲するのは一大事だ。過去にトライアル期間中に猫が脱走してしまい、保護団体の人たちがその家の近所に捕獲器を設置、捕獲できるまで何日も通ったことがあったという。

 脱走防止対策については、どこの保護団体でも講じることを条件にしている。室内で安全な生活が送れるようにと保護された猫を、再び、危険の多い外での暮らしに戻すわけにはいかない。

「保護猫はやめよう」

 しばらく沈黙があったのち、ツレアイは言った。

「保護猫を譲り受けるって、そんなに責任が重いのか。個人の責任で野良猫を保護するのとは訳が違うことはよくわかった。だったら、僕は負う自信がない。保護猫はやめよう」

 もともと、はちのためにと考えた同居猫なのに、その猫を迎えるためにはちの楽しみを奪うことは本末転倒。それに脱走防止柵を設置したとしても、猫をうっかり外に出さないという絶対の約束はできない、というのが理由だった。

 私は、「今さらそんな」と泣いて抗議した。

 だが、自業自得でもあるのだ。保護団体から保護猫を受け入れるとはどういうことか、条件やプロセスまではきちんと私は説明していなかった。詳細に話したら、「めんどうだから嫌だ」と言われかねないと、どこかで思っていた。

 B会には、トライアル開始の時期を待ってもらうことにした。なんとか、ツレアイを説得しなければならない。

(次回は1月5日公開予定です)

【前の回】春のやわらかな光の中で猫談義 「この会の人たちから、猫を譲渡してもらいたい」

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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