「毛玉では遊ばないけど、猫とも遊ばないよ」(小林写函撮影)
「毛玉では遊ばないけど、猫とも遊ばないよ」(小林写函撮影)

春のやわらかな光の中で猫談義 「この会の人たちから、猫を譲渡してもらいたい」 

 愛猫「はち」の同居猫候補を、B会という保護団体のSNSで見つけた。設定した5つの条件にぴたりとはまるので早速連絡をとり、会のボランティアのGさん、Sさん、Mさんとともに、一時預かりボランティアのIさん宅に会いに行った。

「みーちゃん」という名の推定9歳の女の子は「人慣れしていて甘え上手で愛想よし」というふれこみだった。だが実際に対面してみるとクールで愛想はなく、気が強そうな顔をしており、想像していたイメージとは少し違っていた。

(末尾に写真特集があります)

みーちゃんの保護された経緯

 抱っこしていたみーちゃんをケージに戻し、みーちゃんを囲んで保護のいきさつを聞いた。

 約8年前、避妊手術ののちにリリースされ、地域のアイドル猫として不自由なく過ごしていたみーちゃんを、Gさん、Sさん、Mさんが保護したのは約2カ月前のこと。周囲の環境が変わり、みーちゃんの安住の地が失われつつあったことに加え、ひどい結膜炎にかかっていたこともきっかけだったという。

 動物病院に連れて行き、結膜炎は抗生剤の投与ですぐに治ったが、血液検査で猫エイズ陽性と判明した。病院で数週間隔離生活を送ったのち、Iさんの家に来た。

 夜鳴きもせず、粗相もいたずらもせず、すんなり室内の生活に順応したという。特に「これをやってはダメ」と教えるとすぐに理解する聞き分けのよさに、Iさんは驚いたそうだ。

「おばちゃん、また出かけるの?猫探し?」(小林写函撮影)

「みーちゃんは、人間の言葉を理解できるのよ」とIさん。

「賢い子ですもんね」と他の皆も口をそろえる。

 当のみーちゃんは、ケージのハンモック中で香箱を組み、目を開けたままじっとしている。自分のことが話題になっているのがわかっているのかいないのか。相変わらず顔つきは険しい。

自然とわき起こった感情

 ここで私は、見合い相手としての自分の情報をまだほとんどB会の4人に伝えていないことに気がついた。それで、仕事や家族構成、はちとの生活や、先代猫「ぽんた」の介護と看取(みと)りのことなどをぺらぺらとしゃべった。

「ご自分で保護された猫ちゃんなんですね」「投薬や給餌(きゅうじ)は大変ですよね」「うちの猫も腎臓病だったんですよ」など、各自が飼っている、または飼っていた猫の話に広がった。春のやわらかい陽が差し込むリビングで、共感したり、驚いたり、感心したりと自然に話が弾む。

 ふと、「この会の人たちから、猫を譲渡してもらいたい」と思った。

 再び、みーちゃんを見る。からだは三毛柄だが、正面から見ると顔は白黒ハチワレ柄で、どこかぽんたを彷彿とさせる。考えてみれば、ぽんたは人懐っこい猫だったが、私の母親からは「ずいぶんきつい顔をしているわね」と言われていた。

 話が一段落したところで「あの、ひとつ確認があるのですが」と、Mさんが少しためらうような表情で私に言った。

「変な猫が来たら、平和な日々も終わりだな」(小林写函撮影)

「みーちゃんは長く外で1匹で生活していた大人の猫です。もし、宮脇さんがみーちゃんを引き取ってくださり、はちくんと問題がなかったとしても、子猫同士のようにじゃれあったり、くっついて眠ったりするという関係にはならないかもしれません。それでも構わないでしょうか」

 成猫同士なので、ある程度距離を置いて過ごす関係になるだろう、ということだった。

「もちろん、構いません」と私は答えた。

 もし、猫同士が仲むつまじく過ごす姿に癒やされる、というような生活を私が思い描いていたら、期待外れになる。みーちゃんにとっても幸せではないと考えての質問だろう。

 Mさんは安心した様子だった。「みーちゃんとはちくんが、“老後の茶飲み友達”みたいな関係になれたら理想的ですけどねえ」と言い、皆がうなづいた。

次なるステップへ

 ケージの中のみーちゃんを見ると、崩した前脚に頭をのせ、目をつむっていた。

 性格はまだつかめないが、分別と度胸のある猫のようだ。甘ったれで、最近ワガママ度が増してやたらうるさいはちをいましめるような「お姉さん」になってくれるかもしれない。それは、ツレアイが希望するはちの同居猫のイメージだった。

 私は、トライアルの申し込みをすることにした。

「おばちゃんが変な子連れてきませんように」(小林写函撮影)

「トライアル」とは、保護猫が実際に譲渡希望者の家で暮らす「お試し期間」だ。新しい環境になじめるか、先住猫との相性はどうかを見極めるため行う。ほとんどの保護団体が設けている期間で、B会では2週間で、希望すれば3週間のトライアルが可能だという。

 Iさんの家から近所のカフェに移動し、譲渡申込みのための書類に記入をした。

 氏名や連絡先のほか、職業や年収、居住形態、家族構成、猫飼い歴などについて書き込み、いくつか質問を受けた。特にマンションの間取りを含めた住環境と、ツレアイが新たに猫を迎えることに同意しているかどうかについては、詳しく聞かれた。

 トライアル開始の日程は後日決めることになり、その日は帰宅した。

 帰宅し、「みーちゃん、トライアルをすることにしたから」とツレアイに告げた。

「もう決めてきたの」とツレアイは言った。みーちゃんに対しては「はちと年齢が近くて、メスならいいんじゃない」程度の興味しかないようで、私がよければそれでいい、という考えのようだった。

 世話をするのは基本的に私だから、自分には関係ない、と思っているのだろう。

 だが、実際はそうもいかなくなるのだった。

【前の回】同居猫探し 条件に合う猫を見つけるも、初対面の印象は「ちょっと違ったかな」

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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