甘えん坊将軍と化したほえまくるトイプー おとなになってからでも犬も人も変われる

なんだ、ここは!? 子犬だらけで戸惑うココくん(UG提供)

 留守中にほえ続ける、散歩中にほかの犬にほえる、トリミングに預けるとほえまくる……。問題行動に対処せず、過保護に育てられたトイプードルの成犬の男の子。UG DOGSアトラスタワー中目黒店(以下UG)の高橋信行店長が「マジでヤバい!」と危機感を感じたのは……?

 激アツ店長、中目黒の駅前で叫ぶ。

「成犬になってからだって、犬も、そして人も変わることができる!」

前回のお話はこちら

(末尾に写真特集があります)

犬も飼い主もヤバい!?

 激しい分離不安で、留守番中はずっとほえ続け、家の中では家族から片時も離れず後追いする。分離不安で感じるストレスをものを破壊することで発散させ、散歩ではほかの犬にほえ掛かり……。家族は困りながらも、「しょうがない」「かわいいから、いいか」と、4歳になるまで何もしてこなかった。まさに「甘えん坊将軍」としてわがままに育ってしまったトイプードルのココくん。

 カウンセリングにやってきたココくんとお母さんに、「正直、どちらもヤバいと思いました(笑)」と高橋店長。

「ココくんは、人間でたとえるなら幼稚園にも学校にも通ったことがないまま大きくなってしまった、世間知らずのわがままボーイ。家族への依存も強烈でした。ただ、過保護ではあったけれど愛情いっぱい育てられた分、心に闇はなかった。問題はお母さん。ココくんを『弱いから、怖がりだから』と心配し、守ることばかり考えているようでした。ココくんをちゃんと見ていないし、理解してあげていない。そして、お母さんからココくんへの依存もすごかった。よく共倒れしなかったな、と」

 ココくんはごはんの食べムラもひどかったという。「朝に用意したごはんを夕方になってようやく食べる、という感じで。食欲がないというよりも、ごはんを食べなければもっとおいしいオヤツが出てくるとわかっていたんです」とお母さん。オヤツをあげないようにしたことはもちろんあるが、「ココは頑固で、結局おなかがすき過ぎると黄色い胃液を吐いちゃう。私が根負けしてしまいました」。さらに、手からしか食べないという甘やかしぶりだった。

 その話を聞いた店長から、「自分のお子さんがごはんを食べないからといってオヤツばかりあげたりしますか? しませんよね?」と突きつけられたお母さん。実は、自身の二人の子育てはかなり厳しくしたという。「子どもはいつかは親の元から自立しなければならない。だから厳しく育てました。でもココは私がいなければ生きていけない。その思いが本当に強かったのです」

 店長はココくんをUGの群れへ放った。寄ってくる子犬たちに「なんだテメー! やんのか!?」とブチ切れるココくん。「このココくんのどこが弱くて怖がりなんですか? ほかの犬と接触する経験がほとんどなかったので、確かに怖がっている部分はあるかもしれない。でも、本当に弱い子は震えて動けなくなる。ココくんは何がよくて何が悪いのかを学習する機会も与えられてない。だったら、今ここで学べばいい」と、預かりを決める。

 それでもお母さんは、「ほかの子にかまれたらどうしようと心配だったし、これまで1週間も離れたことがなかったので、胸が張り裂けるほどつらかった」と吐露する。

少しずつ少しずつ群れにも慣れてきてニッコリ(UG提供)

過剰に心配する飼い主は多い

 そうして始まった社会化のための1週間。店長は当時の思いをこう語る。

「4歳の成犬なので激変はしないだろうし、どこまでできるかわからない。でも、世界は広いんだよと伝えることはできる。それよりも、課題はむしろお母さんの意識を変えること。ココくんをお迎えして4年間、ガチガチに凝り固まっている意識を解きほぐすのは簡単なことではない。でも、やるしかない。ココくんのためにやったる!」

 お泊まりの間、お母さんからは「ごはん食べてないのでは?」「怖がってませんか?」と心配するLINEが次々と届いた。「ほっといてもおなかが空けば食べる、怖がってない、気にしすぎ! とダメ出しの返信をしまくりました(笑)」と店長。そして、こう伝え続けたという。「ココくんは弱くもないし、かわいそうでもない。強い子です!」

 改めて店長はこう語る。

「叱ったらかわいそう、弱いのにほかの犬と一緒にしたらかわいそう、と心配ばかりする飼い主さんは、ココくんのお母さんをはじめうちにはたくさんやってきます。でもその『かわいそうだから』というナゾの遠慮メンタルで犬を狭い世界に閉じ込めることこそ、僕からすればかわいそう。『かわいそう』が別の新たな『かわいそう』を生んでいるんじゃないでしょうか? それは断ち切らないと」

 最初こそごはんを拒み、ほかの犬も受け付けなかったココくんだったが、途中から自分でごはんをガツガツ平らげ、最終日には子犬と遊ぶこともできた。「激変、とまではいかなかったけれど、少しずつ変わっていく姿に感動しました」と店長。

 その後、ココくんはトリミングに通うように。最初は嫌がってトリマーをかもうとすることもあったが、こちらも少しずつ慣れていった。「サロン探しには苦労していたので助かりました。ただ、ココはトリミングが苦手だからと、その時間だけ預けるようにしていたのです」。そんなお母さんに、あるとき店長はこう声をかける。

「トリミングの日、朝預けて夕方にお迎えにきたら?」

 戸惑いつつ、「『心配、かわいそう』とか言うと店長からまたダメ出しされそうで」とお母さんは苦笑い。思い切って1日預けてお迎えに行くと、ココくんはどこかスッキリした顔をしていたという。「帰りの車の中でもおとなしく寝るようになったのです」。以来、トリミングの日は終日、UGの群れの中で過ごすようになった。

トリミングの日は一日群れの中でハッスル! 帰りの車ではまったり(お母さん提供)

成犬になってからでも変われる

 そして3年余りの月日が流れた。8歳になったココくん、最近は気に入った子とお尻をかぎ合うなど、UGの群れの中で楽しそうに過ごせるようになっているという。

「今年に入ってから、店長から『ココくんもお母さんもすごく明るくなったよね』と声をかけてもらいました」とお母さん。店長は「時間はかかったけれど、ココくんの本来の強さがいい意味で花開いてきた。お母さんも本当に時間はかかりましたが(笑)、やっと心配性の呪縛から解き放たれ、どこか楽になったように見えたのです」と笑う。

 ココくんの家では2年前、悲しい出来事が起きている。ココくんを一番かわいがり、ココくんが一番大好きだったお父さんが、闘病の末、旅立ったのだ。「お葬式までの間、ココは亡くなった夫の足元から離れようとしませんでした。いよいよ出棺というとき、階下に来られないようにしていたのに、どうすり抜けてきたのか2階からすごい勢いで駆けおりてきて納棺師の方の足にかみついたんです。それまで人をかんだことなんて一度もなかったのに……」。お母さんは言葉を詰まらせる。

 大好きなお父さんを失ったことで、ココくんが不安定になるのではと心配したが、杞憂(きゆう)だった。お父さんを探したり待ったりすることもなく、ココくんはこれまで通り暮らせているという。「姿は見えなくなっても、夫のことを感じているのかもしれません」とお母さん。そんなココくんに家族も前を向き、笑顔が戻ったという。「変わらないココに支えられました」

「おかーさん、早く!」。ココくんは家族のアイドル(お母さん提供)

 そして現在。分離不安は完全にはなくなっていないが、「以前は私がお風呂に入るとバスルームの前で必ず『出待ち』してましたが、最近いないんです。どこ行ったかな? と探すと、リビングでのんびりしていることも」とお母さんはうれしそう。さらに穏やかにこう語る。

「『この子は私が守ってあげないとダメなんだ』と、愛情という圧でココをがんじがらめにしていたのかもしれません。UGでほかのワンちゃんと遊んでいる姿に、私はココのことを信じてあげていなかったと気づかされました。ココを信じられるようになった今、いい距離感が取れるようになった。ほんの少しですが、ココは親離れ、私は子離れできたのかもしれません」

 ココくん一家を約4年間、見守ってきた店長。「お母さんにはかなりズバズバと言わせてもらいました。それは、ココくんにちゃんと向き合っていない、ココくんのことを信じていないと感じたから。飼い主から信じてもらえない犬を見ると『おっちゃんが救ったる!』と燃えてしまうんです」と笑い、こう結んだ。

「ココくんのように成犬になってからでも犬は変われる、成長できる――。僕にとってもうれしい驚きでした。でも、何よりうれしいのはお母さんが変わったこと。本当に明るくなった! 愛犬のことを信じ、受け入れ、心配ばかりせず笑顔で普通に生活する。それが犬と暮らす幸せなのです」

高橋信行店長 プロフィール
物心がつく頃から動物関係の仕事に就きたいと考え、動物系の専門学校を卒業後、ペットショップに就職。いくつかの転職を経て、現在はUG DOGSアトラスタワー中目黒店店長。これまでカウンセリングは1300件以上、お泊まりで預かった犬は1000匹を超える。愛犬は、ジャック・ラッセル・テリア「ロイス」。
UG DOGS アトラスタワー中目黒店
住所:東京都目黒区上目黒1-26-1 中目黒アトラスタワー106
TEL:03-5708-5592
営業時間:11:00~20:00(年中無休)
公式サイト:https://anm.ugpet.jp/
店長ブログ:https://www.ugpet.com/blog/anm/
※カウンセリングは電話、対面とも要予約。HPや高橋さんのブログをチェックした上で問い合わせを。UGでは基本的に保護犬を預かる活動はしていません。

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中津海麻子
フリーライター。「酒とワンコと男と女」をテーマに、ワインや日本酒や食、ペット事情、人物インタビューなど幅広く取材、執筆。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、「ワイン王国」「朝日新聞デジタル &w」「好書好日」などに寄稿。

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この連載について
だから犬って最高だ!
「育犬ノイローゼ」に陥った飼い主が藁をもつかむ思いで全国からやってくる「駆け込み寺」=UG DOGSアトラスタワー中目黒店。ハイパーな子犬たちと悩める飼い主を相手に日々奮闘する店長・高橋信行さんの実録ルポ。
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