愛犬ロスからの再スタート 爆裂娘のトイプーと店長との出会いが私を変えた

「ドビューン!」。躍動感(笑)。仲良しのたまごちゃんと(UG提供)

 虹の橋を渡った先代とはまるで違うハイパーな子犬に戸惑い、育犬ノイローゼに陥った「ダメ飼い主」の筆者に、UG DOGSアトラスタワー中目黒店(以下UG)の激アツ店長こと高橋信行さんは、厳しい言葉を突きつけた。

「だから犬って最高だ!」最終回にひもとかれる、「エピソード0」。

(前回のお話はこちら)

(末尾に写真特集があります)

過去に縛られた私と、目の前の愛犬

「お母さん、この子に一体なにをしたんですか?」

 カウンセリングの第一声、店長は私にそう言い放った。「は?私が?」と聞き返すと、店長はさらにこうたたみかけた。

「混乱して目がビー玉みたいになっている。お母さんがもぐちゃんをここまで追い詰めたんじゃないですか?」

 そこから30分間、コテンパンにされた。詳しくは書かない(書けない? 笑)が、「夫にもそんなこと言われたことないのに!」と、ガンダムのアムロ・レイ気分。当時を振り返り、店長は「僕もずいぶんとんがってましたねー」と笑いつつ、厳しく当たった理由を教えてくれた。

「目がビー玉」と言いつつ、「本当は強い目の逸材」と店長。その言葉に泣く(UG提供)

「お母さんは前の子を失った悲しみにとらわれ、苦しんでいるのが手に取るようにわかった。僕自身、2匹の愛犬を見送っているので、気持ちは痛いほどわかります。ただ、もぐちゃんに前の子の姿を探し、暗闇の中で立ち止まったままでどうする? 目の前には、今生きているもぐちゃんがいるのに、なんでちゃんと見てあげないんだ?と。お母さんに一刻も早く目を覚ましてもらいたかった」

 もぐについて、カウンセリングで店長はこう解説してくれた。

「体は小さいけれど、めちゃくちゃ強い。その強さを発散してあげなければいけないのに、お母さんは前の子と比べ、小さな世界にがんじがらめに閉じ込めようとしている。どうしていいのかわからず、もぐちゃんはこんな目になっちゃってるんです。そして、そのストレスがイライラやかむことにつながっている。もぐちゃんは全然悪くない。強いけれど、とてもいい子です。変わらなければいけないのは、お母さんあなたです」

 そして、もぐに向かってこう言った。

「大丈夫、心配するな。もぐのことはオレが守る、救ったる!」

センターを陣取るもぐ。目ギラギラ、毛ボーボーのブチャいく時代(UG提供)

社会化お泊まりで変わったもぐと私

 この連載で50匹を超えるワンコとそのご家族を取材してきたが、私の「ダメ飼い主ぶり」は間違いなくワーストクラスだと、今は素直に認めることができる。いや、当時も自分に原因があるという自覚はあった。だからこそ、痛いところをズバズバと突かれすぎて落ち込んだ。その店長のショック療法が、しかし、私に火をつけた。

「ちゃんと目の前のもぐと向き合う。意識を変えて店長を見返すんだ!」

 もぐは、1週間の社会化お泊まりへ。体調は? ごはんは食べられてます? ……つい問い合わせてしまう私の心配をよそに、もぐは、同じ日生まれで、群れのリーダー見習いだったトイプードルのジーニーや、事情があって保護犬としてUGで育てられていたミニチュアダックスフントのたまごちゃんと、幼なじみとして激しく楽しく遊びまくった。

 店長からは「心配しすぎ!心配ばかりしているお母さんこそ心配」などダメ出しの連続だったが、同じ時期にお泊まりに来ていたトイプードルのまるーんくんのお母さんとSNSを通じてつながり、励まし合えたことが心の支えになった。

 UGでは、社会化お泊まりの同期や一緒に遊んだワンコの飼い主さんがつながり、同じ悩みを抱えるもの同士、仲良くなるケースが多い。最近ではオフ会も開催され、ワンコはもちろん飼い主さんたちの温かなコミュニティーとなっている。

「チーム唐揚げ」結成! センターがジーニー、その後ろがもぐ(UG提供)

店長との出会いが生んだ連載

 もぐの母として発奮したのと同時に、ライターとしては別の意味で高ぶりを覚えていた。「すごいおもしろい人、見つけちゃった。店長をガッツリ取材したい!」。出会いはサイアク、というベタなラブコメみたいななれそめだったが(笑)、店長の経験や熱い思いに、当時のsippoの編集担当者さんとともに強く共感し、この連載が始まることになった。

 連載のスタートは2020年。コロナが猛威をふるい始めたころだった。ステイホームで犬を飼う人が急増、需要が増えたため価格ははね上がり、ペット業界には「コロナバブル」が巻き起こった。

「十分に調べることなく、考えることなく犬を飼う人が増えたように思います」と店長。そうして子犬育てに翻弄(ほんろう)された家族が、次から次へとUGにやってきた。10年以上カウンセリングをしてきた店長にとっても経験したことのない異常な忙しさで、心身ともに疲弊したという。

「それでも、うちに来てくれるのは、子犬をちゃんと育てたい、幸せに暮らしたいと真剣に考えているご家族ばかり。だから頑張れた。一方で、思いつきで飼い、旅行に行けるようになったらもういらないと手放す人も世間には少なくなかったようです」と店長。実際、コロナ禍が明けた去年あたりから、特に大型犬の保護犬の数は増えているという。人間の都合で犬を不幸にすることはあってはならないと、未曾有のパンデミックを経験した今、改めて考えさせられる。

それぞれのワンコたちの今

 ここで連載で反響が大きかったワンコの近況を少し紹介したい。

 初回に登場した白柴のココちゃんは、この春10歳を迎える。いつもかわいい姿をSNSで見せてくれている中、昨年、大きなケガを負った。朝のお散歩でいつもどおり後ろ脚を激しくケリケリしていたとき、急に叫び声を上げて震え、かかりつけ医に駆け込んだところ、大腿(だいたい)骨の脱臼と靱帯(じんたい)断裂が発覚。緊急手術で骨頭を切除した。術後はプールやフィジカルケアでリハビリに励み、マッサージや鍼灸(しんきゅう)にも通って頑張っている。

「ココは小さいころからお散歩が大好き。私たち飼い主は何もできないけれど、お散歩を楽しめる日々を少しでものばしてあげたい」とお母さん。「ココには毎日ありがとうね、と伝えています」

SNSでも大人気のココちゃんスマイル! リハビリ頑張ってお散歩楽しんでね(お母さん提供)

 飼い主をめったがみする「血祭り柴きょうだい」として波紋を呼んだ赤柴のすずらんちゃんと黒柴の楓くん。sippo掲載後、UGで群れのリーダーとして暮らしていたトイプードルのジーニーを迎えた。家庭犬としての幸せを知り、今ではすっかり末っ子キャラを満喫しているジーニーだが、さすが元リーダー。トリミングなどでUGにやってきたときは一転、厳しくりりしく後輩を指導しているという。

「すずらんは今でもパワフルで、わが家のクイーンとして君臨。楓はおしゃべりとおでかけ大好き男子に。ジーニーのよき相棒として甘ったれ合戦を繰り広げる毎日です」。UGでも人気のトリオとなった3匹の日々を語りながら、お母さんはいとおしそうに目を細めた。

「強いすずらん姉ちゃんと、オレの相棒の楓だよ!」。自慢の家族と一緒でジーニー楽しそう(UG提供)

 激しい尻尾追いで自らの尻尾を食いちぎってしまった黒柴のぽわくん。2年前、赤柴のみみちゃんという妹ができた。「みみは最初からぽわのことが大好き。それがお迎えの決め手になりました」とお母さん。UGを卒業したあと、ぽわくんの興奮や尻尾追いは減っていたが、みみちゃんが来てからさらに落ち着いたという。

「みみは力も気も強く、ぽわは尻に敷かれています(笑)。でも、ここぞというときはお兄ちゃんらしく叱る。尻に敷かれているのはぽわの優しさなのかも」。お母さんは「ここまで来られた」と胸をなで下ろして言った。「店長、スタッフさん、そして家族に心から感謝しています」

ぽわくん(左)とみみちゃん、仲良くシャンプー。「気持ちいーねーお兄ちゃん!」

 さて、わが家のもぐは……。「成長とともに警戒心が強くなる」と店長に指摘されたとおり、用心深く犬見知り、知らない人も苦手と、愛嬌(あいきょう)たっぷりなトイプードルとは言い難い。家ではインターホンにサイレンにとにぎやかにほえ、外出先では猫を被り「おとなしいですね」とほめられるものの、抱っこされていると気が大きくなってヤンキーもぐが出現。大きなワンコや、店長の愛犬でUGのリーダーのロイスにさえ「やんのか!」とほえかかることも。強い(笑)。

 ボール遊びが大好きで、「投げて!」と目をキラキラさせながら家の中を爆走。そして何より、名前のとおり食べることが大好きな食いしん坊に成長し、夫と私が手作りしたごはんを、やはり目をキラキラさせながらおいしそうに爆食してくれる。こんなもぐも、あんなもぐも、どんなもぐも全部かわいい! とバカ親全開で溺愛(できあい)している。先代のぷりぷりへの今も尽きない愛と感謝ともに。

食いしん坊怪獣(筆者撮影)

「犬をトレーニングするのが仕事じゃない」

 3000匹余りをカウンセリングしてきた店長は今、「多くの犬、そして飼い主さんたちと出会えたことで、僕自身、成長できた」と振り返り、こう続けた。

「完璧なトレーニング法なんてない。1週間では無理と判断すれば長く預かってトレーニングをしてくれるところを紹介することも。僕やスタッフがアドバイスしたことを、さまざまな事情からできない飼い主さんだっている。僕らでできることには限界があって、すべての犬と飼い主さんを救うことはできない。そうした現実も受け止めながら、これからも自分の『役目』を果たしていきたい」

 この思いは、店長が、自らを「トレーナー」とは決して名乗らないという姿勢にも表れている。

「犬をトレーニングをすることが僕の役目ではない。犬を見て、飼い主さんを見て、行動はもちろん、体質や体調を聞き、ごはんや栄養、皮膚や被毛の相談にも乗る――。こうした犬との生活すべて、そして、その子の人生ならぬ『犬生』について一緒に考えていきたい。犬と、犬を迎えたご家族に笑顔になってもらうためにできることはなんでもしたい。だから僕は、これまでも、これからも『店長』です」

 犬を愛し、犬に愛される激アツ店長は、中目黒の駅前で今日も明日も明後日も、ずっとずっと叫び続ける。

「だから犬って最高だ!」

高橋信行店長 プロフィール
物心がつく頃から動物関係の仕事に就きたいと考え、動物系の専門学校を卒業後、ペットショップに就職。いくつかの転職を経て、現在はUG DOGSアトラスタワー中目黒店店長。これまでカウンセリングは1300件以上、お泊まりで預かった犬は1000匹を超える。愛犬は、ジャック・ラッセル・テリア「ロイス」。
UG DOGS アトラスタワー中目黒店
住所:東京都目黒区上目黒1-26-1 中目黒アトラスタワー106
TEL:03-5708-5592
営業時間:11:00~20:00(年中無休)
公式サイト:https://anm.ugpet.jp/
店長ブログ:https://www.ugpet.com/blog/anm/
※カウンセリングは電話、対面とも要予約。HPや高橋さんのブログをチェックした上で問い合わせを。UGでは基本的に保護犬を預かる活動はしていません。

【「だから犬って最高だ!」連載一覧はこちら】

中津海麻子
フリーライター。「酒とワンコと男と女」をテーマに、ワインや日本酒や食、ペット事情、人物インタビューなど幅広く取材、執筆。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、「ワイン王国」「朝日新聞デジタル &w」「好書好日」などに寄稿。

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この連載について
だから犬って最高だ!
「育犬ノイローゼ」に陥った飼い主が藁をもつかむ思いで全国からやってくる「駆け込み寺」=UG DOGSアトラスタワー中目黒店。ハイパーな子犬たちと悩める飼い主を相手に日々奮闘する店長・高橋信行さんの実録ルポ。
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