愛猫の安楽死は正しい選択だった でも3年経った今も後悔していることがある
いつか来るペットとのお別れの日――。経験された飼い主さんたちはどのような心境だったのでしょうか。
2021年12月、保護猫のラックくん(年齢不詳)は安楽死でこの世を去りました。外猫として生きていたおじさん猫のラックくんを保護し、4年10カ月をともに過ごした飼い主の八千代さんに、ラックくん保護の経緯、病気、そして安楽死について、また現在お気持ちをお聞きしました。
自力では生きていけないと判断し保護
――愛猫のラックくんを飼うことになった経緯を教えてください。
私は東日本大震災のペットボランティアをきっかけに、今は地域猫のボランティア活動をしています。私が外猫の保護に詳しいことを知っている方から「最近見かけなくなった、片目の見えない猫がいて心配している」という相談がありました。その猫がラックです。
その後、知人が久しぶりにラックを見つけたとき、ラックはガリガリにやせ細り、見えない方の目がぐじゅぐじゅで腐敗臭がするとのことで、すぐに向かって保護して、動物病院にかかりました。
――病院ではどのような処置をしたのでしょう?
おなかにガスがたまりパンパンになっていたのでバリウム検査をしたところ、巨大食道症がわかりました。また、猫エイズ(猫免疫不全ウイルス)のキャリアで、他には腎不全、脱水、重度の歯肉炎がわかりました。2週間ほど入院し治療をし、自宅に引き取りました。目の腐敗は、おそらくエイズで免疫力が落ちていたことが原因で、何かしらの菌が入って腐り始めたのだろうとのことでした。
――巨大食道症というのはどういう病気でしょうか?
猫にはあまり多くない病気とのことですが、食道が異常に太くなり、筋力が落ちた状態で無力化し、息をしたり鳴いたりするとどんどん空気を吸ってしまう病気です。また、動物は4つ脚なので食道が横向きで、その病気の子は、食べたものが胃まで届かず吐いてしまいます。
治療では治らないので、処置としては、1つ目はご飯を高い位置で食べさせること。通常は犬や猫はご飯を床において食べさせていると思うのですが、巨大食道症の子はそれだと胃まで食事が届かないのです。2つ目は食道が縦になるように、食べさせた後も縦に抱っこして胃まで到達するまで待つことです。
ラックはいい子で順応が早く、高い位置でご飯をあげていれば大丈夫でした。また、空気を吸っても、げっぷをしてガス抜きができるようになりましたが、それでも年に1、2回は誤嚥性肺炎になったりはしていました。
扁平上皮がんが発覚、末期で安楽死を決めた
――ラックくんは扁平(へんぺい)上皮がんだったとのことですが、病気に気がついたきっかけは?
亡くなる5カ月前に誤嚥性肺炎とおなかのガスを抜くために1日入院した際、獣医が「あごにふくらみを感じる」と、組織を取り検体に出し、扁平上皮がんが発覚しました。
――治療方針はどのように決めましたか?
獣医からは延命治療のための手術の話がありました。「あごの切除をして胃婁をする。それでも転移の可能性はあるからどのくらい生きられるかはわからない」と説明されました。ラックは多くの病気を抱えてずっと苦労をしてきて、痛みとも戦ってきた子で、それ以上嫌な思いをさせたくなかったので、私は緩和治療を選びました。
――病気発覚後はどのように過ごしていましたか?
口の中のガンなので、ガンが大きくなると食べ物が食べにくくなりました。また、ラックの場合は何より出血がすごかったんです。亡くなる20日前から、食べたいけど食べられないという状態でしたので先生に相談したところ、「食道にチューブを入れてみないか」という話をいただきました。
首から食道チューブを入れる手術は簡単で、口からお水もちゅーるの摂取も可能でした。食道チューブを入れたらいいことばかりで、ラックの巨大食道症のガスがそのチューブから出てきてくれるようになり、おなかにガスがたまらなくなりました。また、管からご飯を入れてあげられるので、つねにおなかいっぱいになってラックは満足そうでした。
――そんな良い状態から、安楽死を選択されたのはなぜでしょう?
首に入れていた管の周りの皮膚が耐えられなくなって、管を縫合していた糸が緩み、皮膚が広がり、管から食べ物を入れてもうまく入っていかないようになりました。皮膚の内側が肉眼で見える状態でした。すぐに獣医に見せたところ「鎮静剤を入れて縫合しても、また皮膚が崩れての繰り返しで、今までのような状態では管は落ち着かず、結局、餓死させることになるでしょう」とのことでした。
今までの長年の保護猫活動の経験上、もうこれ以上何かをしても無理なのだろうなというのは感覚でわかりました。そのまま生きていてもご飯も食べられない、チューブでご飯を入れてあげることもできない、結果、餓死に近い形で生涯を終えることになる。でも餓死という苦しい死に方だけはだけはさせたくなく、獣医師と相談して安楽死を選びました。
自分の行動に今も後悔が残る
――ご協力いただいた事前アンケートに、「後悔していることがある」と書かれていましたが、何を後悔していますか?
安楽死を選んだことに後悔はないのです。これ以上、手の尽くしようがないと獣医も私もわかっていたので、その状態を長引かせることはラックのためにならないという判断のもと決めたので、タイミング的にもベストだったと思います。
自分が寂しくなるとかそんなことではなく、いかにラックが苦しくなく旅立てるか、それだけを考えて決めました。でも、その時の自分の行動には後悔がいまだに残ります。
安楽死は初めてで、いざというときにオロオロしてしまったんです。ラックは人懐っこい子で、病院で安楽死の直前でも私と目が合うとうれしくてのどをゴロゴロ鳴らしていました。最期、先生が「抱っこしてあげてください」とおっしゃって、抱っこしてその後、診察台の上で点滴処置をしたのですが、診察台の上で逝かせてしまったことをとても後悔しています。最後まで抱っこしたまま、のどを鳴らした状態で逝かせてあげればよかったと。3年3カ月経っても、そのことに後悔があります。
――その後悔を持って、今何を思いますか?
もし次、万が一安楽死をさせなければならないことがあるとしたら、同じ後悔をしないように行動したいと思います、また、もし安楽死を選択しなければならないこの話を知った方が同じ後悔をしないように、どうしても伝えたいと思いました。その子の一番好きな状態で逝かせてあげてください。その子の幸せは何なのかは飼い主が一番わかっているからです。
――「ペットの死に向き合う」とはどういうことだと思いますか?
その死に向き合う際、自分のできることを全力で尽くすこと、お世話すること、その子にとって嫌なことはしないこと、その子にとって喜ぶことを考えて接することです。
ペットは人間を選べません。保護した以上、その子にあった寄り添い方が必要だと思っています。普段からストレスがかからないように、猫らしく、猫の習性、個々の性格を考えた接し方や住環境を作り、高いQOLを考えて猫生のお手伝いを心がけています。
そうやってお見送りすることが、死に向き合うことだと考えています。
<取材を終えて>
10年以上にわたり地域猫活動をしている八千代さんは、自力では生きられない外猫を自宅で保護し、大切に育てていらっしゃいます。今回、獣医師としっかり話し合いをし、初めて「安楽死」という大きな決断をした八千代さん。「日本では安楽死自体の症例が少なく、インターネットなどでもなかなか情報がありません。これから安楽死を選択されるペットオーナーの方が、自分と同じような後悔をされないよう、私がお話をすることで少しでもお役に立つなら」と取材をご快諾いただきました。
【前の回】愛情と死の恐怖は表裏一体 愛猫を亡くした飼い主、いつかまた会える日を願う
【募集】ペットを亡くされた経験を教えてください。本連載の取材先を募集しています。詳細はこちらへ(応募期間:4月30日まで)
sippoのおすすめ企画
「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。