甘がみするトイプー 元気だからいいかと危機感もたずにいたら仲良し家族が分裂

洋服ガブガブ。手から服から、何から何までかみまくる(お母さん提供)

 めちゃかわいい。でも、かむ。とにかくかみまくる。出会ったその日から、愛犬は暴れん坊の本領を発揮していた。「子犬だからこんなものか」「元気だからいいか」と危機感を持たずにいると……。仲良し家族は分裂の危機に陥ってしまう。

 UG DOGSアトラスタワー中目黒店(以下UG)の激アツ店長こと高橋信行さん、中目黒の駅前で叫ぶ。

「『叱るのはかわいそう』は、本当にかわいそうなのか?」

(末尾に写真特集があります)

待ちに待った出会い

「部屋をきれいにする。勉強もがんばる。だからお願い!」

 幼いころから犬をほしがってきた娘に、父親は「命を預かるんだから、そう簡単には飼えないよ」と言い続けてきた。しかし、娘は有言実行で突破しようと勉強に励み、見事成績がアップ。そのがんばりにほだされ、一家はブリーダーのHPでひとめぼれした月齢2カ月になるトイプードルの子犬に会いに行く。娘がまもなく中学3年になる冬のことだった。

 ブリーダーに行くと、ほかに二家族が同じ子犬を目当てに訪れていた。「ブリーダーさんから『どのご家庭にお譲りするかはこれから決めます』というようなことを言われました」とお母さん。トイプードルの男の子は元気いっぱい! 「暴れるし甘がみがすごくて、抱っこしようとしたのですが無理でした」と娘さんは苦笑い。

 そのブリーダーには少し早く生まれた犬がいたが、子犬はその先輩に向かって「ウー……」とうなっていた。お母さんは「こんなに小さい子がうなるんだと驚きました。でも元気だからいいか、って」と振り返る。

ひょっこり! パピこたくん、めちゃくちゃかわいい! だけど……(お母さん提供)

元気な証拠だから、まぁいいか

 相性がいいと判断されたのか、3組のオーディションから選ばれ、トイプードルの子犬がお家にやってきた。「こた」と命名されたパピーは、ちゃんと寝るし、ごはんもバッチリ食べるし、夜鳴きも最初にちょっとだけ。家に来たばかりの子犬にありがちな困りごとはあまり感じなかった。しかし、甘がみがひどくどんどんエスカレート。まだ小さくてソファに上がれなかったので、家族全員、かまれそうになるとソファに避難したという。

「それでも『元気な証拠だから、まぁいいか』と、正直そこまで危機感は感じていませんでした」とお母さん。

 しかし、こたくんはどんどん成長し、かむ力も強くなっていく。念願のワンコが家族になり、一番こたくんをかわいがっている娘さんだったが、かまれることには戸惑った。腕が傷だらけになり、血も出るほど。お父さんが大きな声で注意しても、こたくんはどこ吹く風。

「今思うと、その原因は私にあったのかもしれません」とお母さん。「『まだ子犬なんだからかわいそう。叱らないで』と夫を制したのです。私が甘やかしたことで、こたは『かんでもいいんだ』と思ってしまったのかもしれません」

「子犬はみんなこんな感じ?」と危機感は覚えなかったころ(お母さん提供)

事件、そして家族がギクシャク

 そうこうしているうちに、こたくんは月齢5カ月に。実はこのころ、インターネットを検索する中でお母さんはUGの高橋店長のブログを見つけていた。「全部読みました。でも、どこかで『うちはここまでじゃないかな』と、自分を納得させてしまいました」

 どんどん大きくなるこたくんはアゴの力も強靱で、子犬の甘がみというにはあまりに激しく、家族の手はみんな傷だらけに。そして「事件」が起きる。

 娘さんはずっと愛犬と寝ることを夢見ていた。こたくんが月齢7カ月になったころ、ついに夢を叶(かな)えることに。ところが真夜中、娘さんの悲鳴が家の中に響いた。慌ててお父さん、お母さんが駆けつけると、こたくんが娘さんの腕を本気がみして血が出ていた。娘さんは「びっくりしたしショックだったし……。思わず泣いてしまいました」と語る。

 このままではまずいと、お母さんは近所のトレーナーに来てもらうことに。「やさしくほめて絶対に叱らない、いわゆる『優しいトレーニング』。こたに対して厳しく接することができない私にはピッタリと思ったのです」

 トレーナーからは、「かまれても決して叱らず、こたくんだけを部屋に残して家族全員が外に出ていくように」と指導された。部屋に自分だけがポツンと残されたことでこたくんにさみしさを感じさせ、「かむ=嫌なことが起きる」という体験をさせる。それが意図だったが、「こたはまったくへこたれない。さみしがるどころか、『追っ払ってやったぜ』みたいにドヤ顔。むしろ成功体験になっていたのかも」と娘さん。「このトレーニング、こたに合ってないのでは?」と疑問に思ったというが、マジメなお母さんはかたくなだった。

「誰かがかまれると、母から『ちゃんとやって!』とせっつかれ、何をやっていてもいったん部屋から退場させられました」と娘さん。お母さんは申し訳なさそうに「当時は、プロのトレーナーさんが言うんだから守らなきゃ、という思いに縛られていたのです」。

 何もしなくてもとにかくほめる、家族がこたくんに合わせる。ケージに入れるのは「罰」でこたくんのストレスになるから基本的にケージには入れない――。トレーナーから指導されたことを続けていた結果、こたくんのかみは改善されるどころかますます激しくなり、毎日家族の誰かが本気がみされるように。それまではできていたお散歩前の首輪とリードの装着も怒ってかみついた。

「細心の注意を払い、ビクビクしながら暮らしていましたね」とつぶやくお母さん。お父さんや娘さんが強く叱ると、こたくんは助けを求めてお母さんのもとに逃げる。本気がみしても叱らない、むしろ自分を守ってくれるお母さんの存在が、こたくんのかみを増長させていたのかもしれない。

 実はこのころ、娘さんとその上の息子さんが同時に受験を控えていた。荒ぶるこたくん、そして、そのこたくんのことでギクシャクする家族。「家の中の雰囲気、最悪でした」。そして、お母さんの方を見ながらこうつぶやいた。

「あのころ、お母さんのことだいっ嫌いだった」

もう限界か…

 月齢半年を過ぎ、自我が目覚めてくると、こたくんはますます荒れていった。「完璧とまではいかないまでもお散歩はいけてたのですが、8カ月になった頃からほかの犬にほえかかり、1歳になるとオラついてケンカを売りまくるようになってしまったのです」とお母さん。

 回避するための策として指導されたのは、「ほめ」と「おやつ」。遠く数十メートル先に犬を発見したら、そこからおやつでこたくんの気を引き、ほめる。それをほかの犬が通り過ぎるまで続ける。「かなりの量になるのでおやつばかりあげるわけにいかず、フードを使いましたが、あまりに量が多く、1食分のフードをお散歩中に中腰であげ続けました」

お散歩中もトレーニング中も、ひたすらおやつをあげ、ほめ続けた(お母さん提供)

 当然だがこたくんはどんどん太り、トレーニング中に吐き戻してしまうことも。そしてある日、ついにトレーナーにもかみついてしまった。それを見たお母さんは「やっても悪化するだけだ。このトレーニングはやめよう」と心を決める。

 ちょうど子どもたちの受験も終わった。そこで、気を取り直して新しいトレーニング先を探すことに。すると、すでにノイローゼ気味だったお母さんを心配した犬友さん数人が「こういうところもあるみたいだよ」と、sippoのこの連載を教えてくれたという。

「これは!」。半年以上前にブログを読みあさった、UGの高橋店長だ。「すぐに電話でカウンセリングの予約を入れました」

ブリーダーからお迎えした日。すでに娘さんの手をかみかみするこたくん(お母さん提供)

後編へつづく(8月28日公開予定) 

高橋信行店長 プロフィール
物心がつく頃から動物関係の仕事に就きたいと考え、動物系の専門学校を卒業後、ペットショップに就職。いくつかの転職を経て、現在はUG DOGSアトラスタワー中目黒店店長。これまでカウンセリングは1300件以上、お泊まりで預かった犬は1000匹を超える。愛犬は、ジャック・ラッセル・テリア「ロイス」。
UG DOGS アトラスタワー中目黒店
住所:東京都目黒区上目黒1-26-1 中目黒アトラスタワー106
TEL:03-5708-5592
営業時間:11:00~20:00(年中無休)
公式サイト:https://anm.ugpet.jp/
店長ブログ:https://www.ugpet.com/blog/anm/
※カウンセリングは電話、対面とも要予約。HPや高橋さんのブログをチェックした上で問い合わせを。UGでは基本的に保護犬を預かる活動はしていません。

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中津海麻子
フリーライター。「酒とワンコと男と女」をテーマに、ワインや日本酒や食、ペット事情、人物インタビューなど幅広く取材、執筆。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、「ワイン王国」「朝日新聞デジタル &w」「好書好日」などに寄稿。

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この連載について
だから犬って最高だ!
「育犬ノイローゼ」に陥った飼い主が藁をもつかむ思いで全国からやってくる「駆け込み寺」=UG DOGSアトラスタワー中目黒店。ハイパーな子犬たちと悩める飼い主を相手に日々奮闘する店長・高橋信行さんの実録ルポ。
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