触ろうとするとかみつき手がつけられない黒柴 だから散歩は行かなくていい?

がじがじがじ! おもちゃならいいけど、これが足に向かうとつらい(娘さん提供)

 飼い主さんの横で楽しそうに歩く犬。街角で普通に見る「犬の散歩」の光景だが、実はUG DOGSアトラスタワー中目黒店(以下UG)のカウンセリングで、「お散歩がうまくできない」という悩みは多い。今回は、ハーネスがつけられず、さらに外に出るとパニックになり、道ゆく人が振り返るほどの悲鳴を上げてしまう黒柴の男の子とその家族の物語。

 激アツ店長こと高橋信行さん、中目黒の駅前で叫ぶ。

「『怖がりだから』『臆病だから』と守ることが、優しさだと思っていませんか?」

(末尾に写真特集があります)

念願だった黒柴を迎えた

「やっと、やっと犬を迎えられる!」

 幼いころから犬と暮らしたいという夢を、就職とともに叶(かな)えることにした娘さん。一緒に住む両親を説得し、柴犬のブリーダーを探し始めた。「柴犬がずっと大好きだったんです」

 ブリーダーを予約し母親と二人で向かうと、生まれてまだ1カ月ほどの黒柴の子犬がいるという。「ほんとにちっちゃくて、まんまるで」とお母さん。娘さんも「まだ耳も立っていなくて、本当にあどけなくてかわいかった」と、当時を思い出して目尻を下げる。

パピー玄くん! お家に来たころ(娘さん提供)

 月齢2カ月になったらお迎えに行く予定だったが、母犬と離そうとしたところ不安からか食欲が落ちてしまった。回復を待って会いに行くと、黒柴パピーは元気いっぱいに! 連れて帰ると家の中でも怖がることなくクンクンと探索活動に励み、トイレも上手にでき、ごはんも食べてくれた。「大丈夫なのかな、とホッとしました」と娘さん。

 黒柴の男の子は、黒を意味する「玄」と名付けられた。

 初めての子犬育ては心配なことだらけだった。ある朝、玄くんは珍しくトイレを失敗しうずくまっていた。よく見ると、お尻から髪の毛が出ている。床に落ちている髪を食べてしまい、うんちをしようとしたときにそれが出てきてしまったようだ。

「動くと悲鳴を上げて……。びっくりし、慌てて時間外にやっている緊急病院に駆け込みました」

 髪の毛もそうだが、糸状のものを誤飲し、それがお尻から出てきた場合、下手に引っ張ると腸を傷つけてしまう可能性がある。幸い玄くんは大きな問題もなく、髪の毛を取ってもらってスッキリ。しかし激しく悲鳴を上げる様子に、獣医から「この子は神経質かもね」と言われたという。「そのころから『あれ?』と思うことが増えてきました」と娘さん。

ハーネスを着けようとすると…

 ほどなく、かかりつけ医が主催するパピーパーティーに参加。玄くんはせわしなく室内を走り回り、ほかの子犬を追っかけまわした。「トレーナーさんから『落ち着かせてください』と言われ、玄だけリードをしたまま子犬の輪に入れてもらえませんでした」

 終了後、トレーナーから「玄くんはかなり元気なので、トレーニングに通った方がいいかも」とアドバイスされた。「落ち着きがないなりに、そのトレーナーさんがおやつを使いながら教えるとおすわりができたんです。この方なら預けても大丈夫かなと、お願いすることにしました」と娘さん。

 実は、落ち着かないことよりも何よりも、家族を悩ませていたのは「お散歩」だった。ワクチンが終わる前までは抱っこ散歩ができていたが、いざデビューしようとすると、玄くんはハーネスをひどく嫌がり、無理につけようとすると怒ってかみついた。

 なんとか装着して外に出ても、今度は歩くのを拒み大きな悲鳴を上げる。「周りから虐待でもしてるんじゃないかと思われそうで人目が気になり、心が折れそうだった」と娘さんはため息をつく。外から帰ってきて脚を拭こうとするとやはり嫌がり、怒ってかみついてくる。

 週に2回のトレーニングで、トレーナーはハーネスの手前におやつを持ち、装着する練習をしたというが、玄くんは頑として首を通そうとしなかった。

「そのトレーナーさんは『無理強いはしない』という方針だったため、2カ月ほど通ったものの、結局ハーネスがつけられるようにはなりませんでした。そして、『無理するとかまれるので、お散歩には行かないでいい』と言われたのです」とお母さん。

「ハーネス、イヤっ! 嫌い!」(娘さん提供)

もうすぐ6カ月、このままでいいの?

 玄くんのたぎるエネルギーと体力は家の中で爆発するように。窓の外を通る人や犬にほえまくり、触ろうとするとかみつき、手がつけられなくなっていった。娘さんの足は傷だらけに。トレーナーからは「家の中でも靴を履いて」「『木』になったつもりでかまれても反応しないでください」と指導された。

「娘の顔がどんどん暗くなるし、夫は『なんでこんな犬連れてきたんだ!』と怒るし……。家の中がギスギスし険悪な雰囲気に。私も仕事先から帰宅するのが気が重くなってしまいました」とお母さん。娘さんは「ネットやしつけ本などでは『月齢6カ月ぐらいまでがトレーニングや社会化で重要』と書かれていて、玄はまもなくその6カ月になろうとしているのに、お散歩にすら行けていない。このままトレーニングに通い続けたところでお散歩に行けるようになるんだろうか? と不安になりました」。そして、こう吐露する。

「本当に……本当につらかった」

かみつかれ、服は穴だらけ、足は傷だらけ(娘さん提供)

 かまれまくった足だけでなく、心もボロボロに傷ついてしまった娘さんは、思考停止に陥ってしまった。お母さんがインターネットで調べ「こういうところもあるよ。行ってみない?」と声をかけても、娘さんは「うん」と返すだけで黙り込んでしまったという。

 そんな中、お母さんはsippoのこの連載に行き当たる。自分の尻尾をかみちぎってしまった黒柴のポワくんのエピソードに驚き、共感したお母さんは、すぐに行動に移す。

「このままでは、玄も、娘も、私たちも、家族がみんなダメになってしまう。なんとかしなければと、私の一存でUGにカウンセリングの電話を入れたのです」

家の中でエネルギーとストレスが爆発!(娘さん提供)

後編へつづく(9月25日公開予定) 

(この連載の他の記事を読む)

高橋信行店長 プロフィール
物心がつく頃から動物関係の仕事に就きたいと考え、動物系の専門学校を卒業後、ペットショップに就職。いくつかの転職を経て、現在はUG DOGSアトラスタワー中目黒店店長。これまでカウンセリングは1300件以上、お泊まりで預かった犬は1000匹を超える。愛犬は、ジャック・ラッセル・テリア「ロイス」。
UG DOGS アトラスタワー中目黒店
住所:東京都目黒区上目黒1-26-1 中目黒アトラスタワー106
TEL:03-5708-5592
営業時間:11:00~20:00(年中無休)
公式サイト:https://anm.ugpet.jp/
店長ブログ:https://www.ugpet.com/blog/anm/
※カウンセリングは電話、対面とも要予約。HPや高橋さんのブログをチェックした上で問い合わせを。UGでは基本的に保護犬を預かる活動はしていません。

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中津海麻子
フリーライター。「酒とワンコと男と女」をテーマに、ワインや日本酒や食、ペット事情、人物インタビューなど幅広く取材、執筆。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、「ワイン王国」「朝日新聞デジタル &w」「好書好日」などに寄稿。

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この連載について
だから犬って最高だ!
「育犬ノイローゼ」に陥った飼い主が藁をもつかむ思いで全国からやってくる「駆け込み寺」=UG DOGSアトラスタワー中目黒店。ハイパーな子犬たちと悩める飼い主を相手に日々奮闘する店長・高橋信行さんの実録ルポ。
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