一目ぼれでポメプーの子犬を迎えたが 寝ない、飛びつき、かみつきで飼い主ボロボロ

おもちゃもすぐ飽きて、お母さんの手を狙い……(お母さん提供)

 寝ない、飛びつく、かみつく、お散歩でまともに歩けない――。「困った!」がほぼフルコースのポメプーの子犬。初めて犬を迎えたお母さんは、かまれて流血した手はもちろん、心も傷だらけに。悩む中、UG DOGSアトラスタワー中目黒店(以下UG)の高橋信行店長のブログに行き着いた。

 激アツ店長、中目黒の駅前で叫ぶ!

「『子犬はよく寝る』『子犬は甘がみするもの』……。そんな常識をブッちぎってくる子犬もいる!」

(末尾に写真特集があります)

ポメプーに一目ぼれ

「ワンちゃんと暮らしたい!」

 そう目を輝かす妻。犬を飼うのが夢だったが、幼いころは親が許してくれずかなわなかった。結婚し自分の家庭を持って、ついに! ところが夫はイマイチ乗り気じゃない。幼少期に追いかけられたことがあり、犬が苦手だったのだ。とはいえ妻の熱い思いにほだされ、二人で食事に出かけたある日、夫婦は近くのペットショップに立ち寄った。

 たくさんのパピーがいる中で目を引いたのは、ポメラニアンとトイプードルのミックス、ポメプーの子犬だった。しかし、「私はテリア系の子がいいなぁ、と思っていたんです」と妻。一目ぼれしたのは、なんと夫のほう。「かわいい! この子にしよう! この子がいい!」

 子犬はとにかく元気いっぱい! 「抱っこしているというより、釣りたてピッチピチの魚を抱えているみたい(笑)。ずーっと動き続けていて、ケージに入れたらよじ登って脱走していました」。そのときの光景を思い出した妻は、そう言って笑った。

 その子は月齢3カ月を過ぎ、ほかの子犬の比べて体が少し大きかった。「売れないとどこか別のショップに移されるみたいなことを聞き、悩みました」と夫婦は口をそろえる。

 後ろ髪をひかれながらもレストランへ向かったが、食事中は、あの子を飼うか飼わないかをずっと家族会議していたという。5時間悩み続け、夫婦はお迎えを決める。

ふわモコキュート! 犬が苦手なお父さんが一目ぼれ、もナットク(お母さん提供)

まったく寝ない犬だった

 翌日、晴れて家にやってきた男の子は「エル」と名付けられた。「『ル』がつく名前がいいという私の願いに、夫がいろんな名前を考えてくれて、『エル』と聞いたときピン! ときました。小さいころ大好きだった絵本『ずーっとずっとだいすきだよ』に出てくる犬の名前が『エルフィ』だったのです」

 ペットショップからアドバイスされたとおり、1週間はケージから出さず、新しい環境に慣れさせるようにした。「初日にちょっと夜鳴きしたぐらい。ごはんもモリモリ食べて、こんなに手がかからないんだと思いました。ただ……」。お母さんは続ける。

「まったく寝ないんです。昼も夜も、エルの寝ているところを見たことがなかった」

 ケージから出すようになると、エルくんは本領発揮! おもちゃを出すと最初の数分は喜んで遊ぶものの、すぐに飽きるのかお母さんの手をねらってきた。「手は傷だらけに。みみず腫れになり流血もしました」とお母さんはため息をつく。そこから、エルくんの「飛びつき、かみつき」が始まった。

 お母さんに飛びついては洋服にかみつき、ビリビリに破りちぎる。暴れん坊ぶりにお母さんが疲れ果てケージに入れると、ぴょんぴょんジャンプして「出せー!」とばかりにギャンぼえ。「扉を閉めて隣の部屋で友人と電話していたとき、エルの声がうるさくて相手の声が聞こえないほど。友人から『大丈夫なの?』と驚かれました」とお母さん。仕方なくケージから出すと、また暴れまくり、かみつきまくり……という無限ループ。

こんなにかわいいのに、お母さんを悩ます小悪魔エルくん(お母さん提供)

次第に追い詰められて…

 共働きだが、仕事の関係でお母さんの方が早く帰宅する。お留守番の間、エルくんはゆっくり休んでフル充電。そのパワーを一気にお母さんに向けて炸裂(さくれつ)させた。ひと暴れしたところでお父さんが帰宅。「妻に向けてさんざん発散したあとなので、僕にはそれほど……。子犬ってこんなもんかな、元気でいいなと思っていました」とお父さん。

 お散歩デビューしても、やはり飛びつきとかみつきは変わらず、お母さんの服の裾は穴が開くほどボロボロに。まともに歩くことができない。さらに拾い食いもするため気を抜くことができず、リードを持つ手は緊張しっぱなしだった。お母さんはこう振り返る。

「YouTubeなどのしつけ動画を参考に、叱らない優しいトレーニングに挑戦してみました。気をそらせて歩かせるというやり方でしたが、エルには全然効かない。仕方なく厳しい方のしつけ法も試しましたが、これもまるで効かない。ほとほと途方にくれてしまって」

 ストレスなのかあり余るエネルギーなのか、エルくんの攻撃はカーテン、机やイスの足にも向かい、あちこちがボロボロに。お母さんが疲れて寝ていると、お母さんの長い髪をロックオン。引きちぎられそうになった。

ジャンプ! からの、ガブっ!!  洋服はボロボロに(お母さん提供)

「子犬だからイタズラはするものなのかな。そのうち落ち着くのかな……。夫とそう話し、頭では理解しているつもりでしたが、あまりの暴れん坊ぶりにメンタルがどんどん削られ追い詰められていきました」とお母さん。お父さんは「エルのエネルギーをほとんど妻が一人で受け止めていた。そこまで追い詰められていたとは気づけませんでした」と振り返る。

 なんとかエネルギーを発散させようと、ドッグランにも行ってみた。エルくんはすでに中にいた5匹ほどの犬たちの元へ駆け寄り「遊ぼう!」と誘った……つもりだったが、犬社会を知らずただただ追いかけてくるエルくんに犬たちは逃げ惑い、飼い主たち全員から嫌な顔をされてしまったという。

「このままじゃ大変なことになる。ちゃんとプロにお願いして社会化トレーニングをしないと、と焦りました」

 ところが、ネットで「子犬、寝ない」で調べても、「子犬は寝るのが仕事」とばかり出てきてしまう。「そんな中、『寝ない』はもちろん、『飛びつく』『かみつく』といったワードすべてがヒットしたのが、高橋店長のブログだったのです」

 店長にカウンセリングだけでもしてもらいたい!  お母さんの悲痛な思いをお父さんも受け止め、UGへ。エルくんはまもなく月齢6カ月を迎えようとしていた。

 群れの中に入った途端、エルくんのしっぽがうれしそうにブンブン! お母さんに向かっていたエネルギーを爆発させるかのように、遊んで遊んで遊びまくる熱き1週間が始まった。

後編へつづく(7月31日公開予定)

(この連載の他の記事を読む)

高橋信行店長 プロフィール
物心がつく頃から動物関係の仕事に就きたいと考え、動物系の専門学校を卒業後、ペットショップに就職。いくつかの転職を経て、現在はUG DOGSアトラスタワー中目黒店店長。これまでカウンセリングは1300件以上、お泊まりで預かった犬は1000匹を超える。愛犬は、ジャック・ラッセル・テリア「ロイス」。
UG DOGS アトラスタワー中目黒店
住所:東京都目黒区上目黒1-26-1 中目黒アトラスタワー106
TEL:03-5708-5592
営業時間:11:00~20:00(年中無休)
公式サイト:https://anm.ugpet.jp/
店長ブログ:https://www.ugpet.com/blog/anm/
※カウンセリングは電話、対面とも要予約。HPや高橋さんのブログをチェックした上で問い合わせを。UGでは基本的に保護犬を預かる活動はしていません。

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中津海麻子
フリーライター。「酒とワンコと男と女」をテーマに、ワインや日本酒や食、ペット事情、人物インタビューなど幅広く取材、執筆。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、「ワイン王国」「朝日新聞デジタル &w」「好書好日」などに寄稿。

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この連載について
だから犬って最高だ!
「育犬ノイローゼ」に陥った飼い主が藁をもつかむ思いで全国からやってくる「駆け込み寺」=UG DOGSアトラスタワー中目黒店。ハイパーな子犬たちと悩める飼い主を相手に日々奮闘する店長・高橋信行さんの実録ルポ。
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