ずっと徘徊する老犬に飼い主は寝られず これって大丈夫?愛犬にできることは?
本来、老犬の睡眠時間は、成犬時代より長くなるのが正常と言われています。それが「老犬なのに寝てくれない」場合、脳に異常を抱えている可能性も。それだけでなく「夜中ずっと徘徊している」という状況に陥ってしまっているとすれば、多くの場合は認知症、さらには脳腫瘍が隠れていることも。
このまま徘徊(はいかい)を続けさせておいてよいの? 対処法や解決策はある? 病院との連携はどうすれば? そして飼い主がすべき決断とは…。「苅谷動物病院グループ」で総院長を務める白井活光先生にお話を伺います。
薬の処方で改善に向かうことも
成犬のころはお散歩をすればよく眠ってくれたのに、老犬になって体力が落ちているにもかかわらず、散歩をしても寝てくれないのはなぜ? そんな疑問と不安を抱えている人は少なくないといいます。さらに寝ないだけでなく、夜中ずっと徘徊しているという老犬も。もしそんな状態にあるとしたら、私たちはどうすればいいのでしょうか。
「基本的にはそのまま徘徊させておいて大丈夫、ということになっています。『歩いていたい』という気持ちになっているのだから、そのまま続けさせてあげましょうということ。嫌がるのを無理して止めさせる必要はないし、歩かないよりは歩く方が筋肉は長持ちします。ただ、けがだけはしないように十分に気をつけてあげてください」
「それよりも」と先生が警鐘を鳴らすのが、「そのせいで飼い主が眠れなくなってしまうこと」。そのために、愛犬に薬を処方するのもひとつの手だと語ります。
「睡眠導入剤、鎮静剤、抗うつ剤などを使うことを勧める場合もあります。薬を飲ませることに抵抗を感じる人もいますが、それで愛犬が健康を害するわけではありません。逆に処方することでよく眠るようになれば、愛犬と飼い主、双方が幸せになるのです」
薬には、筋肉の弛緩(しかん)を強くするタイプ、脳の動きを抑えるタイプなど効果効用がさまざまなので、主治医によく状況を説明し、相談することが必要。犬の症状により合う合わないがあるので、飲ませてみて薬を変えたり、また併用したりなど、一度うまくいかなくても、 諦めずに対応する姿勢も重要だと言います。
「また最近では、老犬ホームや介護シッターに預ける人も。日中だけ預けておいて、夕方迎えにいき、夜は一緒に過ごすというパターンです。預けた先でマッサージしてくれたり、知育トイで遊んでくれたりすることで脳が活性化されますし、いつもとは違うワンちゃんや人間の声や匂いが刺激になって、夜は疲れてよく寝てくれるという話を聞くこともありますよ」
思い込みはNG、なるべく検査を
さて、老犬の徘徊行為などが見られるようになった場合、「これだけはしてはいけないこと」は何があるのでしょうか。
「それこそが、『認知症だから仕方ない』と決めてつけてしまうことです。認知症だと思い込んでいたら、その後発作が始まって、実は脳腫瘍だったという事例も。もし症状が現れたときは、ほかに重病が隠れていないかをしっかり調べましょう。認知症と、脳腫瘍などほかの病気とでは、対応もお薬もまったく違うのですから」
その場合にはどんな検査が必要になるのか、体力のない老犬だからこそ気になるところです。
「MRIなど大きな検査が受けられればいいのですが、それが難しい場合、腫瘍(しゅよう)の有無であれば、比較的短時間で済むCTスキャンでわかることもあります。また神経学的検査で脳の異常が判明することも。もし検査が厳しいと判断したら、腫瘍の可能性もあることをお伝えして、その場合に出てくる症状を説明し、その症状が出てきたら、報告してもらうようにしています」
脳腫瘍だった場合は、認知症のようにぐるぐると同じ場所を徘徊するほか、顔面まひになったり、発作が出たり、目の動きや足の動きがおかしくなったりするのだそう。
「腫瘍があると脳圧が上がり、炎症を起こす可能性があるのでステロイドを使ったり、脳圧を下げるためにイソバイトという薬を処方することもあります。気圧のアップダウンで体調が変わるので、脳疾患がある犬の飼い主さんには気圧もチェックしてもらうように。やはり認知症と脳腫瘍では、ここまでの違いがあるのです」
生きがいを与え続けることが、認知症予防に
検査に連れていきたくても遠出を嫌がったり、もう歩けない場合に車に乗せたくてもむずがったり。老犬の状態によっては、どんな検査も難しいという場合もあります。
「そういう場合は白黒つけるのではなく、今できることをしてあげるというのも、飼い主ができる最善の策のひとつです。考えられる可能性を探りながら、痛みを取ってあげたり、環境を整えてあげたり。最終的にどうするのかは飼い主が決定すること。医師はそのためのヒントを提示しますので、どうぞなんでも相談してみてください」
最後に、認知症予防のためにできることを教えてもらいました。
「犬にとっての生きがいを与え続けること、ではないでしょうか。ごはん、散歩、スキンシップ、おもちゃ……なんでもなんでもいいのです。それを習慣化しつつ、でも飽きないように少しずつ変化させることも大切ですね。認知症は、同じ環境で同じ生活を繰り返していると発症しやすいと言われています。生きがいと変化、それがいちばん重要ではないかと考えています」
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- 監修:白井活光
- 苅谷動物病院グループ総院長。獣医学博士。1998年日本大学大学院卒業。同グループ「三ツ目通り病院」や「葛西橋通り病院」の院長を歴任。2015年から現職。日本臨床獣医学フォーラム副会長。専門分野は総合臨床。
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