「暑いときは寝るしかない」(小林写函撮影)
「暑いときは寝るしかない」(小林写函撮影)

愛猫「はち」がストラバイト結石に よかれと思って与えていた手作りスープがまさか?

 元野良猫「はち」を家に迎えてちょうど2年が過ぎた、2月上旬の朝だった。

 私は自室で仕事をしていた。はちが、「あーう、あーう」と気になる鳴き方をしているので廊下に出ると、猫トイレの前でウロウロしていた。

 猫砂の上にしゃがむが、すぐに立ち上がって出てくる。今度は自室に置いてある別のトイレに行き、同じ動作を繰り返す。

(末尾に写真特集があります)

はちを連れて動物病院へ

 膀胱炎だ、と私は思った。はちが家に来て間もない頃にも、かかったことがある。

 廊下のトイレは、たらい型の容器にヒノキの固まる猫砂を入れて使っている。自室に置いているのは、3カ月前に導入したシステムトイレだ。

 両方の猫砂を観察する。少量だが、尿は出ているようだった。血は混じってはいない。

 システムトイレの上のトレーをはずす。下のトレーに敷いた尿の吸収シートをよく見ると、尿で濡れた部分がキラキラと光っていた。インターネットで検索すると、「キラキラは、尿の中に発生した結晶や結石である可能性が高い」とあった。

 すぐにはちを連れ、シート持参でかかりつけの動物病院に向かった。

 診察台では相変わらずじっとしていられないはちを動物看護師さんはがっちりと保定し、院長先生は超音波検査をする。

 モニターには、縁が少し白くなったはちの膀胱が映った。炎症により粘膜が厚くなっている証拠で、膀胱炎であることは間違いなかった。

 炎症をおさえるための消炎剤と、結石予防に効果のあるサプリメントが1週間分処方された。これで様子を見て、再度、超音波検査をすることになった。

 ただ、結晶や結石があるかどうかは「シートの状態だけでは判断は難しく、尿検査が必要」とのこと。

「では次回、おしっこを持ってきます」

 と私は言い、病院をあとにした。

「僕はただ平穏に暮らしたいだけなのにな」(小林写函撮影)

 システムトイレに替えておいてよかった、と思った。そもそもシステムトイレを取り入れたのは「猫にも飼い主にも負担をかけずに採尿し、検査に出すため」だった。本当は、気になる症状が出る前に検査をして予防につとめるはずだったのだが、結局、症状が出るまでやらなかった。

 飼い主の怠慢にほかならない。

 幸い、薬とサプリメントが効き、はちのトイレに出たり入ったりする行動はおさまった。だが、数日経っても排尿回数は通常より多く、1回の尿の量も少ないようだった。

 採尿したら、尿は新鮮なうちに動物病院に提出しなければならない。常温なら3時間以内で、冷蔵庫で冷やせば、6時間までなら成分が変わらないという。

 はちは、明け方におしっこをする習性がある。そこではちを病院に連れて行く日の前夜、システムトイレの下のトレーに敷いてあるシートをはずし、床についた。

後日の診療で

 このところ、はちは私の部屋で寝ている。部屋から出ないようにドアは閉めておいた。

 翌朝、トレーには尿が溜まっていた。あらかじめ買っておいた魚の形の醤油さしで吸い上げてふたをし、チャック付きのポリ袋に入れ、冷蔵庫で保管した。

 はちを捕まえて、病院へ行く。超音波検査をしている間に、尿検査の結果が出た。

「僕って上品な木目調の柄なんだ」(小林写函撮影)

「やっぱり、少し石が出ていますね」

 院長先生は、スマートフォンで顕微鏡写真を見せてくれた。

 そこには、四角いガラスのような塊が点々と散らばっていた。「ストラバイト」という結石の1種だという。

 名前は知っていた。漠然と「猫がよくかかる泌尿器系の病気の一つ」という認識はあった。

 結石は、尿に含まれるリン、カルシウム、マグネシウムなどのミネラル成分が結晶化し、その結晶がさらに集まって大きくなったものだ。

 猫は祖先が水の少ない砂漠で生活していたため、あまり水を飲まなくても生きていける動物といわれる。少ない飲水量で濃い尿を排泄するため、濃縮された尿が膀胱の中に長時間とどまることになる。それが、結石のリスクにつながるらしい。

「寒い時期になると、動くのが億劫になったり、のどの乾きを覚えにくくなったりして、水を飲む量がさらに減ります。冬にこの病気にかかる猫ちゃんは多いんですよ」

 と院長先生。ほかには体質や、食事の内容が原因になるという。

「発声練習中。あーう、あーう」(小林写函撮影)

 はちのストラバイトは、結石になる前の結晶の段階で、量も少量だ。そのため、「現段階では療法食に切り替える必要はない」とのこと。膀胱にまだ炎症があるので、消炎剤とサプリメントを飲ませてあと2週間様子を見て、「それでも効果が得られない場合には考えましょう」と言われた。

 重要なのは、家で水をできるだけ多く飲める工夫をし、しっかり排尿できるようにすること。そうすれば、膀胱内に尿が溜まる時間が短くなり、結石の形成を抑えられるという。

まさか…

「ササミと野菜でスープを作ってときどき飲ませているのですが、続けても大丈夫でしょうか」と私は院長先生にたずねた。

 スープ自体は成分のほとんどが水なので、よほど大量にとらなければ影響はないそうだ。「飲水量を増やすためにはいいと思います」と院長先生は答えた。

「ただ、ササミは、結石の原因となるマグネシウムやリンが多く含まれています。結石のある猫ちゃんには避けたほうがいいかもしれません」

 結石ができるか否かは猫の体質にもよる。それでも、よかれと思って与えていた手作りスープに、ひょっとしたら原因があったのかもしれないと考えると、ショックだった。

【前の回】「採尿をし、動物病院で検査をしたい」 穏やかな晩秋、愛猫「はち」のトイレを見直す

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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