「毎日暑いね、みんな元気?」(小林写函撮影)
「毎日暑いね、みんな元気?」(小林写函撮影)

「採尿をし、動物病院で検査をしたい」 穏やかな晩秋、愛猫「はち」のトイレを見直す

 元野良猫「はち」を家に迎えて1年と10カ月が過ぎ、晩秋を迎えた。

 夏前からはじめた歯みがきは、右上だけでなく、左上の奥歯も3秒間程度ならできるようになった。だが進歩はそれだけで、下の歯までみがくことはできなかった。

 それでも私は、よしとすることにした。今のところ、はちは歯みがきを歓迎はしていないが、噛み付いて拒否することはない。「歯みがきは、スキンシップの一貫」と考え、気長にトレーニングに励むことにした。

(末尾に写真特集があります)

ふと思い立って

 先代猫「ぽんた」を家に迎えて同じ期間が過ぎた頃は、安定していた慢性腎臓病の症状が少しずつ悪化し、体重減少や食欲減退にやきもきする毎日だった。そのときと比べると、健康上特にこれといった問題のないはちとの生活は、穏やかだ。

 そこでふと、「はちのトイレを替えてみよう」と思い立った。

 はちのトイレは、大きめのたらい型の容器にヒノキの木屑を原料とした固まる猫砂を入れたもので、従来型と呼ばれるタイプ。ぽんたが使っていたものと同じだ。

「暑い時はシャワーが気持ちいいって?僕は浴びないよ」(小林写函撮影)

 ぽんたを迎えるとき、私は近所のスーパーで、セール品になっていたシステムトイレを購入した。システムトイレとは、容器が2層式になったトイレのことで、下段に尿を吸収するためのシートを敷き、すのこ状になった上段に専用の猫砂を入れる。猫が排尿すると、尿は猫砂からすのこを通って下段のシートに吸収されるという仕組みだ。

 これを選んだのは、近所の猫を飼っている知り合いから「消臭効果が高く、頻繁に猫砂を交換する手間いらず、掃除も楽」とすすめられたからだった。

 だがぽんたは、このトイレを使わなかった。代わりに、家のあちこちに粗相をした。それで試行錯誤をした結果、たらい型容器+ヒノキの猫砂というスタイルに落ち着いた。

どれがいいだろう

 猫のトイレに関する見解はさまざまだ。猫が四本脚で立ったまま360度方向転換ができる大きめの箱型の容器に、鉱物系の砂をたっぷり入れるのがベストという話はよく聞く。これは、鉱物系のものは自然の砂に近く、排泄(はいせつ)後に砂をかく猫の習性に適しているかららしい。

 一方、システムトイレのほうが清潔で、現代の生活には合っているという意見もある。また猫の好みに合わせていろいろ試した結果、軽くて肉球に挟まりにくい紙製に落ち着いた、という知り合いもいた。

 私がヒノキの猫砂を選んだのは、鉱物系の猫砂よりずっと軽く、自然素材で、なんとなくぽんたが気に入りそう、という理由からだった。

 それをそのまま、はちに引き継いだのだが、ここで私は、思い切ってシステムトイレに替えることにした。

「カラスさんこんにちは、日に焼けた?」(小林写函撮影)

 その一番の理由は、「採尿をし、動物病院で尿検査をしたい」からだ。

 はちは、保護してから一度も尿検査をしたことがなかった。今、体調に気になるところはない。だがそういうときにこそ検査をし、現状を知り、わずかでも発病につながる兆候があるなら対処したほうがよい。

 自宅で採尿する方法は、インターネットでいくつか紹介されている。猫が用を足しているときに後ろからお玉で採る、などの方法もあるが、想像しただけでもハードルが高い。

 そこへいくとシステムトイレの場合は、下段にシートを敷かずに用を足してもらえば、そこに溜まった尿をスポイトで採るだけでいい。実に簡単そうだ。

 調べてみると、システムトイレの種類も専用の猫砂も、私がぽんたを保護した5年前に比べて増えていた。私は「はじめてシステムトイレを使う成猫におすすめ」という構造がシンプルなタイプを選んだ。専用の猫砂は、現在はちが使っているものに近い極小タイプにした。

使った!

 家に猫用トイレは2つ置いてあった。そのうちの一つをシステムトイレに替えて様子を見た。

 トイレを替えると、そこで用を足さない猫もいることは聞いていた。

 はちも、最初は「なんだ、これは」という様子でふんふんと臭いをかいでは素通りしてした。中に入ろうとして前脚を砂の上に置いては引っ込める、という動作をすることもあった。

 それが1週間ほどたったとき、意を決したように中に入った。腰をおろし、しばらくじーっとしていたかと思うと、ぴょんとトイレの外に飛び出て、ザッザッと威勢よく砂をかき、立ち去った。

 上部のトレーをはずして確認する。下のトレーに敷いたシートの上には、黄色いシミが広がっていた。

「なにこれ、ニンジン?」(小林写函撮影)

 一度使うと、あとは安心するのか、はちはこのシステムトイレを毎日利用するようになった。頻度は従来型のトイレと同じぐらいで、どちらを特に好む、ということもないようだった。

 これなら、採尿も問題なさそうだ。

 なのに、私はやらなかった。

 採尿したら、できるだけすぐに動物病院に持っていかなければならない。こちらが病院に行けるタイミングで、はちがシステムトイレでおしっこをするとは限らない。こちらの都合に合わせて、水をたくさん飲ませる、などということもできない。

 と、言い訳はいくらでも浮かぶが、結局は、急を要さないとやらないのだ。

 ところが、その急を要するできごとがおこった。はちが家に来て、ちょうど2年が経ったときだった。

(次回は8月4日公開予定です)

【前の回】苦戦する歯みがきトレーニング おいしそうにスープを飲む愛猫「はち」に癒やされて

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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