高遠城址公園にて
高遠城址公園にて

何をしているときに幸せを感じるか 私の場合はほとんど犬が関わっていた

 先代犬の富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らすライターの穴澤 賢さんが、犬との暮らしで悩んだ「しつけ」「いたずら」「コミュニケーション」など、実際の経験から学んできた“教訓”をお届けしていきます。

(末尾に写真特集があります)

人ぞれぞれの充実感と原動力

 何をしているときに幸せを感じるのかは、人ぞれぞれだと思う。ここでいう「幸せ」とは、自分を取り巻く環境などを全体的に見た幸福度ではなく、あえて具体的な行為について考えてみたい。

 たとえばスポーツなどで体を動かして躍動しているとき、楽器を演奏しているとき、車を運転しているとき、仲の良い友人たちとわいわい飲んでいるときなど、なんでもいいがドーパミンが出ているなと実感するような瞬間があるものだ。充実感といってもいい。そしてそれがその人の原動力になったりもしている。

 ある競技が上達したいと練習に励み、チームメートと一丸となり戦って勝利したときに「うぉー、やったー!」となる人もいれば、その試合を観戦して興奮する人もいる。かと思えば、家でひとり読書をしている時間が一番好きなんだよね、という人もいる。これを読んでいるあなたは何をしているときが一番充実していると感じるのだろうか。

ドライブで顔を輝かす大吉

 私の場合、子どもの頃から体を動かすのが苦手で、ドッジボールをやっても楽しいと感じた記憶はないし、運動会も苦痛でしかなかった。野球やサッカーもやったことはあるが、それは中学で何か部活に入らないといけなかったらやっただけで、サボってばかりのやる気のない部員だった。だからスポーツや体を動かすことに充実感は一切ない。

 基本はインドア派で、あれこれ音楽を聴いたり、雑誌のインタビュー時期を読んでそのバンドのルーツをレンタルレコード屋でたどったり、ちょこっとギターを始めたり、ファミコンのゼビウスとかマージャンを夜な夜な真剣にやっていたのを覚えている。そこに幸せを感じていたのか記憶にないが、何やってんだ少年の俺、と今は思う。

ドライブで睡魔と闘う福助

ライターでも書くのが苦痛なことがある

 高校生になるとバイトを始めて、それどころではなくなった。鬼シフトで働き、夏休みも冬休みは連日バイトしていた。たぶん欲しいギターがあったからそんなに働いていたと思うが、ギターを手に入れてからも同じペースで働いたからよく分からない。なんとなく同級生と遊ぶより、ちょっと年上のバイトの先輩たちといる方が楽しかったのだろう。

 そこからは以前書いたようにバンド活動に明け暮れ、30歳で挫折した。でもバンドをやっていた頃はお金はなかったが充実感はあった、と思う。そしていつの間にか成り行きでライターになった。

富士丸と10年暮らした初台(渋谷区)にて

 それからもう15年以上経つが、文章を書いているときに充実感があるかと自分に問うと、正直そんなにない。たまに「昔から読んでます」とか、「愛犬を亡くしたときに『またね、富士丸。(集英社文庫)』を読んで救われました」と言われたりすることがあるが、ありがとうございますとしか言えない。

 なぜなら、あの本は誰かを救いたいなんて思って書いていないからだ。ただ、ライターの先輩が勝手に決めてきて「いいから書け!」と言われたから仕方なくやっただけだ。今思えば先輩には感謝しているが、当時は嫌で嫌で仕方なく泣きながら書いた。ただつらかった記憶しかない。

 あの本以外でも、そもそも何かを書くときに、誰かを感動させたい、人に感謝されたいなんて思っていない。もちろん何かを感じてもらいたいという思いはあったりするけれど、どう受け取るかは読む人の自由である。書き手がどうこう言える話でもない。

50を過ぎた私にとって

 さて、前置きが長くなってしまったが、現在の私がどういうときに幸せを感じるのか、ベスト3を書いてみたい。

高知の沈下橋にて

 第3位は、大福と旅行するとき。そんなに頻繁ではないが、たまに大福と妻と車で泊まりがけで出かけることがある。一週間くらいかけて、香川、高知あたりをのんびり回ったことがあるが、あのときは楽しかったなぁ。

 宿は犬がOKであればどこでもよく、食事も気にしない。コテージに泊まって庭でバーベキューとかそれくらい。でも旅行中、大福は顔を輝かせていた。そして夜はコテンと寝る。そんな姿を見られてうれしかった。

高知の川で釣りをしてみたが何も釣れず

 第2位は、なにげない日常の夜、大福がソファでうとうとしている横で、晩酌しながら映画などをなにげなく観ているときだ。旅行もいいが、なにげない日常の中、大福が健康でまったりしていることに、ふと充実感をかみしめることがある。

高知の貸別荘にて

 そして第1位は、睡魔に負けて仕事部屋で大福と一緒に昼寝をするときだ。誰しも経験あると思うが、ずっとパソコンに向かって仕事をしていると、たまに耐え難い睡魔に襲われることがある。そこであらがっても効率が下がるだけなので、私は30分だけ、と決めて横になることがある。

仕事部屋にあるベッドに割り込んで眠る

 そこでベッドで昼寝するとえらいことになるので、だいたい大福が寝ているベッドに強引に割り込んで隣に寝る。すると大福はほんのり暖かく、すぐ横で寝息が聞こえてくる。そのときに「あぁ幸せだ」と感じ、速攻で落ちる。そして30分のはずが1時間くらい寝てしまい「いけね!」と起きて仕事に戻る。大人になっても何やってんだ俺、と思う。

 3位から1位すべてに大福が絡んでおり、頭の片隅でこんなことでいいのかと思うが、私はこういう犬大好き人間になってしまった。どこで道を間違えたのか。間違いなく犯人は富士丸だが、これはこれでいいかとも思っている。今年は大福とどこかへ旅行したいな。

香川県に寄ったのはさぬきうどんを食べるため

【前の回】実はすごく飼い主を気遣っている犬 それに気がついたエピソード

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穴澤 賢
1971年大阪生まれ。フリーランス編集兼ライター。ブログ「富士丸な日々」が話題となり、犬関連の書籍や連載を執筆。2015年からは長年犬と暮らした経験から「デロリアンズ」というブランドを立ち上げる。2020年2月には「犬の笑顔を見たいから(世界文化社)」を出版。株式会社デロリアンズ(http://deloreans-shop.com)、インスタグラム @anazawa_masaru ツイッター@Anazawa_Masaru

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この連載について
悩んで学んだ犬のこと
先代犬は富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らす穴澤賢さんが、犬との暮らしで実際に経験した悩みから学んできた“教訓”をお届けしていきます。
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