「ハナよ。だれかおばちゃんに抱っこの仕方教えてあげて」(小林写函撮影)
「ハナよ。だれかおばちゃんに抱っこの仕方教えてあげて」(小林写函撮影)

困惑の多頭飼育がスタート 気が強い?甘えん坊?正式に家族になった三毛猫「ハナ」

 愛猫「はち」の同居猫候補、推定9歳の三毛猫「みーちゃん」を保護団体B会でみつけ、トライアルを開始。紆余曲折を経て、トライアル開始から1カ月後に譲渡が決まり、「みーちゃん」は正式に「ハナ」として我が家で暮らすことになった。

(末尾に写真特集があります)

多頭飼育がスタート

 これが昔話なら「はちくんとハナちゃんは、温かい家庭で仲良く幸せに暮らしました、めでたしめでたし」となるが、そう単純にはいかないのが現実だ。

 はちが早朝に興奮し、ニャーニャー鳴いて私を起こすのは、ハナが家に来て1カ月が過ぎてもおさまらなかった。

 興奮状態は2時間ぐらい続く。その間私は、自動給餌器(じどうきゅうじき)から出るフードを食べるのを見守り、キッチンで手作りスープやウェットフードを与え、リビングに移動してじゃらし棒で遊んだり、ブラッシングをしたりする。

 はちは落ち着くと、私の部屋に戻ってベッドの上で居眠りをはじめる。こうしてリビングからはちの姿が消えると、私はハナのケージの扉を開けて食事を与え、自由に出歩けるようにしてやる。

 ハナが家の子になって数日後から私はまた、ハナをときどきケージに隔離するようにしていた。

 理由は、ハナがはちにたびたび猫パンチを浴びせるようになったからだ。

執拗なはちへの猫パンチ

 ハナの猫パンチは、たとえば、ハナがはちに鼻チューをしようとして、はちが嫌がって顔をそむけたときに起こる。

 それから、2匹に同時におやつを与えるときだ。早食いで食いしん坊のはちに対し、ハナの食べ方はゆっくりで、いつも少し残す。すると横でハナの食べているものをもの欲しげに見ていたはちが、残りに口をつける。そうすると立ち去りかけたハナが戻ってきて、前脚で、はちの頭を数回はたく。

「上の茶白さんね、店子なの。『屋上貸して』って言うので」(小林写函撮影)

 この場合は、ハナの猫パンチの理由もわからなくない。だがリビングですれ違いざまに突然はちに飛びかかり、パンパンと叩(たた)くことがあるのは謎だった。

 いずれの場合も、はちはハナに叩かれると眉間にしわを寄せ、耳を横に伏せて「シャー!」と声をあげる。それでもハナがにじりよってくると、ハナにお尻を向けて逃げ出す。

 たまにハナが逃げるはちを追いかけて、さらに叩くこともあった。するとはちも応戦し、2匹はお互いに激しい猫パンチを繰り出す。

 一度、はちが興奮してハナに噛みつき、ハナが「ギャッ」と声をあげたことがあった。ハナが怪我(けが)をした様子はなかったが、床には黒と茶色の毛が散らばり、はちの鼻の頭には、うっすらと引っかき傷がついていた。

はちはハナを避けるように

 やがてはちはハナとの接触をあからさまに避けるようになった。ハナが近づいてくる気配を察すると立ち上がり、ハナの視界に入らない場所に移動するようになった。

 譲渡が決まる直前には、2匹はほどよい距離感を保てるようになっていたのに、どうしたのだろうか。

「本当にこの2匹は一緒に暮らせる相性なのかな?」とツレアイは心配そうに言う。

 私も、不安がゼロということはない。ただ子猫と違い、見ず知らずの成猫同士が穏やかに同居できるようになるまでには、数年かかる場合もあるという。

 腰を据えて見守るしかないと、私は腹を決めていた。

「『はな』と隣どうしか。縁起でもない」(小林写函撮影)

 ハナが家の猫になって1週間が過ぎたとき、私はハナをかかりつけの動物病院連れて行った。

 ハナは猫エイズキャリアである以外には、特に健康上問題はないということはわかっていた。B会の人たちからは、保護された当時の健康診断の検査結果表をもらっていた。だが、何も心配がないときにこそあいさつがてら連れて行き、病院に慣らしたほうがいいと考えたからだ。

「猫同士ではよくあることですよ」

 ハナは抱っこを嫌がらない猫だ。はちより体格も小さいため、捕まえてキャリーバッグに入れるのに何の苦労もなかった。

 自転車の荷台にキャリーバッグをくくりつけ、ペダルをこぐ。初夏の風が心地よく、ハナとのはじめての「おでかけ」に、行き先が病院とはいえ心が弾んだ。

 ハナは道中、心細そうに鳴き続けていたが、病院に着くとおとなしくなった。診察室に入り、「はじめまして」と声をかける院長先生にキャリーバッグから抱え出されるときも抵抗せず、診察台の上でも鳴かず動かず、されるがままになっていた。

「先生、爪を切らせてあげているときに首を抑えなくてよろしいのよ。肩をもみなさい」(小林写函撮影)

 爪切りをお願いし、動物看護師さんがハナの脚先に手をかけた。すると「ハナちゃん、肉球にベッタリ汗かいている!」と声を上げた。見ると診察台の上にも水滴が付いていた。実は、緊張でかたまっていたようだ。

 ハナの体重は3.8kgで、体型もちょうどよく、歯周病にもなっておらず、健康そのもの、とのこと。

 なにか気になることはありますかと院長先生に聞かれたので、

「はちにやたら猫パンチをします。すれ違いざまに叩いたりします」

 と話した。すると、

「きっと遊びたいか、かまってほしいんでしょう。猫同士ではよくあることですよ」

 と院長先生は言った。

 私は驚いた。子猫ならわかるがハナは9歳だ。遊びたい年でもないだろう。そう口にすると、「それはハナちゃんが元気な証拠ですね」とのこと。

「でも、はちが本気になって喧嘩(けんか)になったら、体格の差から負けることははっきりしているんですよ、それでも嫌がるはちに飛びついていくんです、わけがわかりません」

 と私。

 院長先生は苦笑いし、言った。

「三毛猫ちゃんは、一般的に気が強いって言われますからねぇ、まあ、はっちゃんがやさしいのかもしれないですね」

(次回は5月17日公開予定です)
【前の回】紆余曲折あったトライアルを経て 猫の首輪をはずし、大切そうにバッグにしまった

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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