「ここは落ち着かないから、うちのマンションで診ていただきたいわ」(小林写函撮影)
「ここは落ち着かないから、うちのマンションで診ていただきたいわ」(小林写函撮影)

先住猫「はち」と2匹目「ハナ」 それぞれの安心と関係構築にケージの重要性を知る

 愛猫「はち」の同居猫となった元保護猫の三毛猫「ハナ」は、「人慣れしていて賢く、聞き分けのよい落ち着いた熟女」というふれこみで家にやってきた。1カ月と少し一緒に暮らした結果、その評価はおおよそ間違ってはいなかった。

(末尾に写真特集があります)

はちに対する行動だけが…

 唯一意外だったのは、はちに対する行動だった。強引な鼻チューにはじまり、次は執拗な猫パンチを繰り返す。

 かかりつけの動物病院の院長先生によると、この行動は「はちと遊びたい、または構ってほしいからで、元気な証拠」とのこと。2匹の関係性を心配する必要はないらしいが、ハナにちょっかいを出されるたびに「シャー」と言い、迷惑そうな顔で逃げまわるはちが少し気の毒だ。

 ときにハナは、はちのお尻の臭いをくんくんかいでいる。するとはちは「キャッ!」と声をあげ、いつも10㎝ぐらい飛び上がりながら逃げ去る。

「いつハナがやってくるかわからないから、高いところにいないと」(小林写函撮影)

「はちをパンパン叩いたりするのは、もうちょっと控えめにしてね。あなただって、相手にしてもらえないとつまらないでしょう」

 私は、「落ち着いた熟女」とは程遠い態度のハナを諭(さと)した。

 実際ハナは、はちに避けられると、ときどき不満そうに「ウー」とか「アー」とか言いながら部屋の中をぐるぐる歩き回った。

 こういうときは、ハナを抱え、ケージに入れると落ち着く。上段に置いたクッションの上にのせるとしばらくは憮然(ぶぜん)とした顔をしているが、やがて香箱を組み、うとうととまどろみはじめる。

ケージの役割

 ケージは、ハナのお気に入りの場所だった。

 ハナを正式に家の猫にすることになったとき、私は借りていたケージを保護団体に返し、代わりに同じものをインターネットで購入した。

 理由は、まだはちとハナはときどき隔離させる必要がありそうだったのと、ハナ自身がケージを自分専用の個室だと認識しているようだったからだ。

 気がつくとハナはケージの中にいて、くつろいだり、毛繕いをしたり、昼寝をしたりしている。

 ケージ内には、ハナ用の小さめの猫トイレが置いてあり、基本的にはハナはここを使う。食事も、ケージの中で食べさせるようにしていた。そうしないと、あわよくばおこぼれに預かろうと近づいてきたはちに、ハナが猫パンチをお見舞いするからだった。

 インターホンが鳴れば、ハナは一目散にケージに飛び込む。掃除機をかけ始めたときも同様だ。

 ケージは、猫にとって災害時の避難場所にもなるため、家に1つあるとよいとされている。だが多くは、ケージを置くのは多頭飼いの家庭で、何らかの理由で猫を隔離する必要がある場合だ。隔離の必要がなくなれば猫は入らなくなり、そのため、片付けたり処分したりすることが多いと聞く。

 だがハナは、自分からケージに入る。これは緊急時のことを考えると非常にありがたい。

「こんな大きなものは邪魔になるだけ」と言っていたツレアイも、その利便性を理解したようだった。

「さてと、はちと遊ぼうかな」(小林写函撮影)

 ケージは、はちとハナの距離をはかるのにも役立った。

 普段は、ハナから逃げているはちも、ハナがケージに入っているときは近づいて、じーっと中を見ていることがある。ハナの食器の中にフードの食べ残しがないかを確認するのが最大の目的かもしれないが、ハナにも目線を向けているので、気になってはいるようだ。

“ハナマン”の住人

 そのうちはちは、ハナがケージの中で昼寝をしているときに限って、ケージの屋根に置いた猫ベッドの中で昼寝をするようになった。

 こんなに距離が近くてくつろげるのかと最初は不思議だった。だが、物理的な距離は近くても、上下で寝ている分には視界にお互いが入らない。そのため、ハナがはちにちょっかいを出すこともない。

 はちははちなりに距離をはかりながら、ハナと共存できる方法を本能的に探しているのかもしれない。

 私たちはこの光景を「ハナマン(ハナのマンション)の屋上を間借りしているはち」と呼んだ。

 ハナは、人間が就寝するときはケージに入れ、扉は閉めるようにしていた。夜中に出歩き、はちの安眠を妨害しないようにとの配慮からだった。はちは、私の部屋の衣装ケースの上を寝床にしており、夜中にトイレに行ったり廊下に出たりできるように、部屋のドアは開けていた。

「おばちゃん、ハナはマンション持ってるのに、僕はないの?」(小林写函撮影)

 ある日のことだった。

 未明に、猫の鳴き声で目が覚めた。声のするほうに目を向けると、薄暗い中で、チェストの上にのっているハナが浮かび上がった。

 一瞬、何が起こったのかわからず、夢かと錯覚した。ハチも起き上がり、不思議そうな顔をしている。

 前の日の夜もケージの扉は閉めた。それなのになぜ、ハナがここにいるのか。

 ハナを抱えてリビングに行く。するとケージの1階の扉がはずれていた。どうやら、ハナが扉を持ち上げて開閉口でないほうのフックをはずし、出てきてしまったらしい。

 ずいぶん器用なことをするなあと驚き、フードを少し与えた。でも、特に空腹でもなさそうだった。

 ハナはそのままケージ入れ、扉を閉めた。簡単に開けられないように結束バンドで補強もした。

 私は再びベッドに入りながら考えた。そろそろ、ハナを終日自由にさせてもいいのかもしれない。

(次回は6月7日公開予定です)

【前の回】困惑の多頭飼育がスタート 気が強い?甘えん坊?正式に家族になった三毛猫「ハナ」

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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