その子は本当に保護犬猫? 保護ビジネスに加担しないために賢い迎え主になろう
公益社団法人「アニマル・ドネーション」(アニドネ)代表理事の西平衣里です。この連載は「犬や猫のためにできること」がテーマです。
「保護犬」「保護猫」という言葉が一般的に使われ、迎えるならばペットショップより行き場のない子を、と考える方は着実に増えています。一方で、その優しいキモチを手玉に取るような営利寄りの譲渡活動も散見されます。賢い迎え主になるために知っておきたいことをまとめました。
「保護犬ってペットショップで買うより安いんでしょ?」
中間支援組織である私たちアニドネが寄付を届けている『特定非営利活動法人DOG DUCA』の代表である高橋氏の本業はドッグトレーナー。
「この2年くらいで、保護犬を迎えた方からのトレーニング依頼がとても増えています。特徴としては、皮膚や歯の状態があまりよくない『繁殖を引退した子』や、『ペットショップで流通にのせられなかった遺伝疾患のある子』が多いです。そういった子の譲渡費用は相場よりとても高く、10万円以上。譲渡費に加え、数年間分のフードや保険加入が必須となっている話もよく聞きます。多くの迎え主さんは、もちろん犬たちを思っての決断です。しかし一部にはペットショップで購入するのと同じ感覚で『値段が安い純血種を求めて保護犬を選ぶ』といった理由で引き取る方も増えていますね」
流行りに乗じた営利活動?
繁殖引退犬を例とします。ペットショップで並ぶかわいい犬猫たちには、当然ですが母犬父犬がいます。動物愛護管理法ではメスの生涯出産回数は6回まで、交配時の年齢は6歳以下、が明記されました(2021年改正にて)。繁殖を引退したなら、心あるブリーダーであれば自分たちで終生面倒を見る、もしくは、次の犬生を楽しんでもらうため良い飼い主を探すことをします。しかしながら、もし繁殖引退犬を「商品を作れなくなった物」としてみるならば、コストがかかるだけでなんの価値もありません。であれば、あまり耳馴染のない繁殖引退犬を「保護犬」として世に出せばもらい手がつくかもしれない、そして一方で社会貢献意識はあまりなく「ペットショップで買うよりは安い」と思う人たちとマッチングが成り立つわけです。
保護犬猫はさまざまな理由で行き場がない動物のことを言います。迷子で行政施設に保護され飼い主が引き取りに来なかった、飼育放棄、ブリーダー崩壊、遺伝疾患で流通外になった、野犬や野良猫などです。行政以外に、民間の非営利団体が保護活動をしています。しかし、昨今公益性のある非営利活動ではなく、積極的な引き取りや転売のような保護活動が出てきているのです。
日本の文化的背景も原因
犬や猫は人間と共に暮らすべきパートナーであり、行き場のない保護犬猫たちは社会的弱者と言えます。行政や企業だけでは社会的弱者を救えない場合、市民が自発的に取り組むこととなり、それは社会貢献を目的とした非営利活動であるべきで、課題解決に対して対価を望むことではないと言えます。ですから、私たちアニドネは行き場のない犬猫を保護し非営利で活動する団体へ寄付を届けています。
しかしながら、日本の動物保護団体の多くは、組織基盤が脆弱です。もともと日本には地域社会や家族中心の相互扶助文化がベースにあるため、しっかりとした社会化活動になりにくい、といった側面があります。また非営利活動に対しての、寄付控除は海外に比べ限定的であるため、なかなか寄付文化が根付いていません。
そういった背景があるため、一般の方の非営利活動が社会貢献につながっているという意識が普及していないと言えます。例えば「保護犬」といった言葉を見聞きすると「かわいそう。救うべき」といった感情が素直に湧いてきます。それ自体は人として当然の感情で悪いことではありません。けれど、その保護犬や保護猫が本当に「社会として救うべき存在なのか、営利に利用はされていないのか」といった、一時の感情に流されるのではなく背景にあるものを見抜く目を持つことが大変重要になってきます。
知らず知らずのうちに加担しない3ポイント
とはいえ、人生の中で保護犬や保護猫を迎えるのは一度きり、多くても数回のこと。初めての経験であれば、こんなものなのかな、と思ってしまいがちだと思います。そうならないために、シンプルに3つのポイントをお伝えしたいと思います。
【その①】保護動物のHISTORYを保護団体が把握しているか?
どんな困りごとがあってその犬猫は救われたのか、その後メディカルチェックでの健康状態はどうなのか、その犬猫の性格を保護団体が把握しているのか、その上で保護団体はぴったり合う家族を求めマッチングをしているか。保護団体は保護した子の最大限の幸せを願い活動をしています。当然、個体のことをよく理解しているはずです。
【その➁】譲渡費用が妥当か?
保護には医療費やフード代がかかります。その費用を譲渡費としているのなら問題はないと思います。しかし前述したように、数年間に及ぶフード契約(犬は成長によってフードも変わりますし、好みも変わります)や保険加入義務(ペット保険加入は推奨しますが、保険商品は飼い主が決めることです)、賛助会員費(団体の活動に賛同するならばぜひ加入ください。だけど強制されるものではありません)などが積みあがっていくのは、営利寄りの保護活動かもしれません。譲渡費用は猫ならば3万円前後、犬ならば5万円前後が妥当でしょう。団体によっては個体に譲渡費はつけず無償譲渡をし、活動に賛同した方から団体へ寄付をいただく方針をとっています。
ちなみに、アメリカのカルフォルニア州やメリーランド州、マサチューセッツ州では、ペットショップで展示される犬猫は保護団体やシェルターで保護された個体のみ、と決められており、カルフォルニア州では「保護動物の養子縁組に関わる金額は 総額 $500 を超えない」という規制もあります。
【その③】動物福祉的な観点で犬猫を扱っているか?
これは、アニドネとしては声を大にして言いたいことです。保護犬猫のいる環境は衛生的ですか?臭いはきつくないですか?お散歩に毎日行ってもらっていますか?幸せそうに過ごしていますか?トライアル(迎えることを決断した後に2~3週間のトライアル)期間はありますか?よーく現場で見てきてください。ネットで申し込んで、どこかから長距離輸送されるような扱いは動物へダメージを与えます。
そして、迎えたなら愛しぬいてほしい
前述した『特定非営利活動法人DOG DUCA』のドッグトレーナーである高橋氏は言います。「相談に来られた方が売れ残りの犬や繁殖引退犬を引き取っているな、と思っても迎えた方にはそのことはあまり伝えません。なぜなら、僕のところに相談に来られる時点で、その子との暮らしをより良くしようと思ってくださっているからです。だから全力でその子との暮らしが最高になるようにお手伝いします。ずっとゲージで暮らしてきた子は当然トイレはどこでもしてしまいますし、外を歩いたこともないのでお散歩はできません。ですがちょっとした犬の行動を理解できれば、すぐにできるようになります」
この記事を読んで「もしかしたら、私が保護犬を迎えたことで営利に加担をしてしまったかもしれない」と思った方もいるかもしれません。そのことは、近しい方が保護犬を迎えようとしているならば、この記事をみせてあげてください。さらなる営利活動のループを拡げないために。
最後に、あなたが巡り合った目の前の犬や猫には、まったく罪はありません。どんな環境にいたとしても、彼らは今を楽しんで生きています。やっと巡り合えたあなたを心から愛しています。残された犬生猫生がすばらしいものになるようにしてあげてください。
(次回は7月5日公開予定です)
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