能登半島の地震と豪雨災害で動物も被災 住む家を失い家族と離れた犬や猫たち

ハルちゃん(2024年2月12日撮影)

 能登半島の地震・豪雨災害での被災動物たちの報道が少ない。1月1日の地震被害に追い打ちをかけるように、9月下旬、奥能登を豪雨が襲った。珠洲市、輪島市、能登町ではあちこちで河川が氾濫し、地震で脆弱となっていた地盤に相次いで土砂崩れが発生して、仮設住宅までもが床上浸水となった。人とともに暮らしていた動物たちはどうなっているのか。

(末尾に写真特集があります)

あちこちに飼育ケージ設置

 私が代表を務める非営利法人「一般社団法人東京都人と動物のきずな福祉協会」では、発災の直後、環境省動物愛護管理室からお声かけいただき、「広域譲渡モデル事業」として、環境省及び石川県と連携協働。被災者が所有権を手放して石川県に引き取られた猫を東京で譲渡する活動を行なっている。私たちの活動を通じて、能登半島の被災動物の現状を伝えたい。

 発災から1カ月後の2月6日、私は、協会の業務執行理事、古川尚美とともに、小松氏にある石川県南部小動物管理指導センターを訪問。平常時は動物の収容施設ではないが、事務所やセミナールームのあちこちに飼育ケージが設置され、それなりの頭数の猫が収容されていた。

石川県南部小動物管理指導センターにて話を聞く(2024年2月6日撮影)

 能登の北部ではライフラインが大きなダメージを受け、水道の復旧の見通しの立っていない状態。能登北部保健福祉センターでは、「一時預かり」や「所有権放棄」の猫を収容する部屋も壊れ、猫カリシウイルスや猫ヘルペスウイルスよる猫風邪が蔓延していった。そのため収容猫の一部を小動物管理指導センターに移していたのだった。

石川県南部小動物管理指導センターから猫2匹、ツナちゃんとノトちゃんを引き取った(2024年2月6日撮影)

 私たちは被災動物の状況についてお話を聞き、ひとまず猫2匹、11歳の白猫ツナちゃんと、9歳の黒白猫ノトちゃんを連れて帰った。東京に着き、連携する苅谷動物病院グループ、三ツ目通り病院(江東区)でメディカルチェックを受けたところ、2匹ともに心臓に病をかかえていた。

 ツナちゃんとノトちゃんについては、2月17日と18日に開催された「ちよだ猫まつり2024」オープンシェルター保護猫譲渡会を通じてご縁に恵まれたのは幸いだった。ツナちゃんは俳優のいとうまい子さんご夫妻に迎えられ、かかりつけの動物病院に定期通院して、投薬等、手厚くケアされている。ノトちゃんは公務員の家に迎えられ、新しい家族との関係を築きつつあるようだ。

俳優のいとうまい子さんご夫妻に迎えられたツナちゃん

能登の復旧にも関わる公務員の愛猫となったノトちゃん

家族と幸せな「第二の猫生」

 被災猫の第2便は2月12日、環境省動物愛護管理室が東京に搬送して、私たちは7匹を引き受けた。珠洲市で被災した飼い主が所有権を放棄した猫たちだった。到着後、ハルちゃん、ハンちゃん、ルルちゃん、ミミちゃん、ククちゃんは苅谷動物病院グループ、三ツ目通り病院に、ミーちゃんは赤坂動物病院(港区)に、ムーンちゃんは明大前動物愛護病院(世田谷区)にそれぞれ搬入された。退院後、私たちが運営する東京シェルター・シェアリング神田神保町に入所。

ムーンちゃん

 第2便の猫たちについては、猫風邪の慢性症状がなかなか治まらなかった。発災後、住む家を失って雪の中を放浪していたのか。収容されていた場所でウイルスに感染したのか。ミーちゃんは、左の眼球が委縮して失明し、シラミにたかられていた。それでも次々とご縁に恵まれ、7匹とも今は新しい家族と幸せな「第二の猫生」を送っている。

現在も家族募集中

 被災猫の第3便も環境省動物愛護管理室が東京に搬送し、3月7日に到着。能登中部の羽咋市で、去勢・不妊手術が行なわれないまま放し飼いにされていたのだが、飼い主がついに所有権を放棄して県に引き取られた。「半野良」との言葉も添えられていたが、そのうちの6匹を私たちが引き受けたのだった。

 6匹は、健康状態に大きな問題はなかったが、近親交配の影響による先天性の障害か、指の欠損のある子が見られた。また、人との関係が十分に築かれていなかったようで、社会化に時間がかかった。それでも、私たちが月2回開いている「オープンシェルター保護猫譲渡会」を通じて、4匹が譲渡完了。写真のこまつちゃんともなかちゃんは、現在も家族募集中だ。

東京シェルター・シェアリング神田神保町でご縁を待つこまつちゃん(第3便)

東京シェルター・シェアリング神田神保町でご縁を待つもなかちゃん(第3便)

避難所でのペット同伴避難のルールを

 石川県健康福祉部薬事衛生課、動物愛護担当の出雲路智(いずもじ さとし)さんによれば、地震発災後の1月から3月までに寄せられたペットについての相談は399件。「主な相談内容は、『(地震に驚き)猫や犬が行方不明になった』、『(家が全壊あるいは半壊で住めなくなって)ペットを一時預かってほしい』でした」。

環境省動物愛護管理室が東京まで搬送(2024年2月12日撮影)

 環境省のガイドラインでは、「災害時ペットは同行避難が原則」とされているが、ペットと一緒に避難所で過ごせるかどうかは、現実として、施設管理者や他の避難者の意見で決まっていく。

 石川県能登中部保健福祉センターの餅井眞太郎さんによれば、能登半島地震の避難所でも、ペットへの対応はさまざまだった。「『ペットも家族だから、追い払うわけにはいかない』と、そのまま受け入れられた避難所もあるが、混乱もあったようだ。県としては、『ペットについてもご配慮を』と各避難所にお願いするほかなかったが……」。

ルルちゃん(2024年2月12日撮影)

 ペットを連れて避難所を出て、半壊の家で暮らす人も少なくなかった。車中で長期間過ごすことはエコノミークラス症候群の原因になる、といわれても、車中泊を選ばざるを得なかった人も。農業用のビニールハウスで暮らす人もいた。猫・犬と暮らしていた人が被災した場合、苦難の避難生活を送らざるを得ないのが現実だ。

 内閣府「避難所運営ガイドライン」には、「『ペット同伴避難』のルールづくりを検討するように」との記述はあるが、「飼い主が責任を持って避難所でペットを飼育するための居場所を確保する」「飼育ケージを用意する」等、具体的な対応を検討している自治体は少ないのではないだろうか。

 いつどこで災害が発生しても不思議ではない日本列島。各自治体は早急に避難所でのペット同伴避難のルールをつくる必要がある。

【被災猫の救援活動のため、クラウドファンディングに挑戦】
能登半島の震災・豪雨の被災猫の救援活動のため、一般社団法人東京都人と動物のきずな福祉協会では、クラウドファンディングに挑戦しています。「能登半島の被災猫を保護し、医療にかけ、譲渡につなぐ。」ご支援、シェアをどうぞよろしくお願いします。

東京生まれ。出版社勤務を経て、企画・編集・プロデュース会社経営。新聞社・通信社での連載コラム執筆、月刊誌、週刊誌、単行本等の編集・執筆に携る。主著『ペットロス』『猫への詫び状』(いずれも新潮社)、『犬と猫のための災害サバイバル』(学習研究社)等。現在は、一般社団法人東京都人と動物のきずな福祉協会・代表理事と特定非営利活動法人ちよだニャンとなる会・業務執行理事を兼務。

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