80歳台のブリーダーが放棄した推定12歳のチワワ 高齢夫婦と幸せな余生を送る
公益社団法人「アニマル・ドネーション」(アニドネ)代表理事の西平衣里です。この連載は「犬や猫のためにできること」がテーマです。
世界のどこよりも超高齢化社会を迎えつつある日本。2025年には、65歳以上の高齢者が総人口の約3割になるとされています。(内閣府 高齢化の現状と将来像より)。
誰だっていつかは老いるもの。老いてもなお、犬との豊かな暮らしを実現できる国ならば、年を重ねるのもまた楽し、だと思いませんか?
飼育放棄の9割が高齢者という現状
アニドネが支援をしている「一般社団法人 ゆめまるHAPPY隊」(長野県松本市)が保護する犬の9割は愛護センターに保護された犬で、残り1割は個人からの引き取りとなっています。そのうち、高齢者が放棄した犬は、なんと9割。監事の国本智子さんにお話しをお聞きしました。
「独居老人が知らず知らずのうちに認知が進み、犬のお世話ができなくなることや、飼い主の健康問題で入院されるという致し方ない理由も多くあります。実は、私は犬の保護活動をしながら、人の高齢者のデイサービスセンターの経営をしています。ですから、包括支援センターやケアマネージャーの方からのヘルプが入ることも多々あります」
高齢ブリーダーが放棄した「ゆずちゃん」を迎えた家族は高齢夫婦
現在、国本さんの団体ではチワワの元ブリーダーから犬の保護をしています。この元ブリーダーは、80歳を超え、ブリーダー業に必要である第1種動物取扱業の更新をしないことを長野県松本保健所に説得され、「ゆめまるHAPPY隊」がサポートをすることになったそう。
「現在はレスキューの途中で、15頭を保護しています。茶色のロングコートのゆずちゃんは推定12歳で、令和4年12月に保護しました。生きてきた多くの時間をケージ内で過ごしていました。そんなゆずちゃんに、いい家族を見つけてあげたくて。ご主人様が75歳で奥様が80歳のご夫婦のお宅で、現在1カ月間のトライアル中です」と国本さん。
高齢者だから犬と一緒に暮らせないわけではない
譲渡条件に年齢制限を設けている保護団体は多くあります。行政で運営する愛護センターも、基本的に60歳や65歳を上限としています。しかし、「ゆめまるHAPPY隊」では年齢を譲渡条件には含めてないそう。その理由をお聞きしました。
「同じ年齢でも、健康状態や犬の飼育知識は大きく変わります。今回のゆずちゃんの迎え主さんは、過去にチワワの飼育経験がありました。亡くしてからさみしい日々を過ごされていましたが、まだまだ元気なご夫婦です。もう一度犬と暮らしたい、という強い願いを私に伝えてくれました。しかし、飼育放棄をする人の9割が高齢者です。簡単には譲渡できません。過去にどのように犬と暮らしていたのか、ご夫婦の病歴、自宅の状況、もしご夫婦に万が一のことが起きた時には、すぐに『ゆめまるHAPPY隊』に連絡をもらい、犬の所有権を戻してもらうことを約束してもらいました」
犬を飼育するモラルを持とう
他にも、高齢者から保護したお話を国本さんに聞きました。一人暮らしの高齢男性が飼っていたのは、柴犬8匹とヤギ3匹、そしてニワトリたち。犬のリードを放し、近所の子供が怖がるなどのトラブルがあり、ご近所の方や包括支援センターから国本さんへ相談がきた事例です。
「私たちが向き合う保護活動の原因は、高齢者の立ち行かない飼育状況にあります。しかしながら今一度考えたいのは、年齢の問題ではなく『犬を飼育するモラル』です。言葉はなくとも感情豊かな犬たちと、15年以上しっかりと向き合うための覚悟があるのか、金銭的な面は大丈夫なのか。しっかり考えて飼育に踏み切るべきです」
犬との暮らしにはセーフティネットが必要
海外では多くの動物保護団体が「Seniors for Seniors」というプログラムを実施しています。譲渡されにくい高齢の犬を高齢者が引き取ることにより、保護団体の手厚いサポートが受けられます。例えば、医療面のサポートがあったり、譲渡金額が安くなったり、信託の契約を結ぶなどの仕組み作りがなされています。
日本では、保護団体が小さく組織化されてないたがために、命を救うことで手一杯になっているのが現状。ですが、超高齢社会の日本でこそ、「ゆめまるHAPPY隊」の国本さんが行っているような、丁寧で、かつ地元に根付いた譲渡活動が増えてほしいと思いました。
なお、アニドネ認定団体の中には、他にも高齢者の問題に新しい仕組みを導入している団体があります。
名古屋市にある「特定非営利活動法人DOG DUCA」 では「シニアドッグ・サポーター制度」を導入し、高齢者のサポートをしています。
猫では、札幌市の「特定非営利活動法人 猫と人を繋ぐツキネコ北海道」は、「永年預かり制度」という、譲渡先として難しい高齢者などに必要な準備をしていただいた上で預かっていただき、飼育継続が困難になった際は団体が猫を引き取る仕組みを導入し、200匹以上を高齢者が預かっています。
盛岡の「認定特定非営利活動法人 もりねこ」では、「終生預かりボランティア」を募集しており、年齢制限なくボランティアに参加できる仕組みを作っていいます。
人と同じく医療面の発達で高齢化の進むペットたちには、訪問医療や一時預かりのような共に暮らし続けられる仕組みも必要でしょう。ペットと共に入居できる高齢施設が増えることを心より願います。また、命を生み出すブリーダーやペットショップも、扱うのはモノではなく貴重な命です。よって、ゆりかごから墓場まで動物福祉観点に寄り添った事業の拡大をすべきだと思います。
私も近い将来高齢者になります。そのとき日本がヒトにも犬猫にも優しい国であるために、まだまだ変えねばならないことは山積みです。犬猫と暮らすことは決して人間のエゴであってはならず、双方が幸せに暮らせる国にするために、アニドネも努力します。
(次回は6月5日公開予定です)
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