犬と暮らす覚悟 阪神タイガース・秋山投手とふれあったセント・バーナード、なぜ保護犬に?
公益社団法人「アニマル・ドネーション(アニドネ)」代表理事の西平衣里です。この連載は「犬や猫のためにできること」がテーマです。
2年連続でアニドネに寄付をくださっている、「阪神タイガース」の秋山拓巳投手。寄付はアニドネ経由で保護活動をしている団体に届けています。秋山選手がなぜ寄付を続けるのか?そして自ら足を運んで現場視察をする理由とは?
今回は現場で出会ったセント・バーナードの「ヨーゼフ」くんのエピソードも織り交ぜながら、犬と暮らすことについて語ってみます。
保護現場で何が起きているのかを知りたい
阪神タイガースの秋山投手とともに、兵庫県西宮市にある認定特定非営利活動法人「ペッツ・フォー・ライフ・ジャパン」(以下PFLJ)を訪問しました。秋山投手たっての希望で、現場訪問は2回目。
就寝前に、犬の動画をよく見るという秋山投手。かわいいその姿の裏にある「保護犬」という存在を知り、自分も何かできないか、と考えアクションをスタートされました。「自分のような立場の人間が寄付をし、現場訪問をすることで、より現状を多くの方に知ってもらえれば」と語る秋山投手。そして、実際の保護犬たちの現状も知りたい、という強い思いから、アニドネとともに現場訪問となりました。
1歳半のときに保護。一年かけて成長中
当日は、保護施設のスタッフも保護犬たちも、今か今かと秋山投手の来訪を待っていました。そして秋山投手が到着するや否や、駆け寄る犬たち。ヨーゼフくんは「なでて!」とあっという間にゴロンからの仰向け状態に。これには秋山投手も「でかいな~、かわいいな~!」と満面の笑み。
このヨーゼフくん、一年前に保護されたときは運動不足で後ろ脚の筋力が弱く、また排泄物の上に寝転んでしまうなどトイレトレーニングが入っておらず、体中の毛が黄色く変色していました。
PFLJで保護後、5~6回かけて変色した全身の毛をバリカンで刈り、毛が伸びてきたら毛先の黄色い部分をカット、しっかり毛が生えそろう今の状態になるまでに6カ月以上かかったそう。トレーニング面では、アイコンタクト・おすわり・ふせ・お手といった基本的なことの他、生活に必要なハウス・トイレ(ワンツー)・歯みがき・耳掃除・爪切りやシャンプーなど人がケアをするときに、人の指示を聞き、落ち着くトレーニングを続けています。その成果は着実に出ていて、本来は子犬のころに必要な社会化も他の保護犬たちと暮らしながらヨーゼフくんらしく、明るく学んでいるようでした。
確かに、ヒョイっと抱き抱えられる小型犬と違って、大型犬は自分で動いてもらわないとお世話もできません。ちなみに、ヨーゼフくんは体重60kgの巨体です。
飼育費は月に7万円!
ヨーゼフくんを保護した、同施設長の石本さんにお話を伺いました。
「現在ヨーゼフくんは日々トレーニングをしていますが、まだ譲渡には出せません。超大型犬であるセント・バーナードは穏やかで賢く、大変癒やされます。ただ、軽い気持ちではともに暮らせない犬種です。散歩はしっかりたくさん歩くことが大きな体を支える筋力作りのために重要です。そして、広いスペース、また食費だけでも月に3万円、医療費やシャンプーなども含めていくと月6~7万円は必要だと思いますね。経済面以外にも、何かあったときにチームでお世話ができるような体制をとれるご家庭がいいと思っています」
石本さんは、セント・バーナードであるヨーゼフくんの保護依頼があったとき、法人として受け入れ可能かどうか考えたそう。しかしながら、まだ若いヨーゼフくんを見て、新たな幸せの場を作ってあげたい、との思いから保護したといいます。
「ヨーゼフくんの寝る場所を確保するだけでも、狭い施設内のスペースが必要です。他の犬とふれあうときも注意をしないと、体の大きさに差がありすぎて危険です。ただ、当のヨーゼフくんは、私たちの懸念もつゆ知らず。楽しそうに純粋な心で私たちの期待に応えてくれるので、スタッフたちも大きな励みをもらっています」
「今は犬との暮らしはしない」と秋山投手
野球選手はキャンプや遠征試合で自宅をあけることも多いため、「今は犬との暮らしはできない」と話す秋山投手。犬を見つめる目はやさしさにあふれ、次から次へと犬たちが秋山投手の膝(ひざ)に乗りたがります。気づくとヨーゼフくんも、60kgの巨体を強引に乗せていました(笑)
また秋山投手は、こうも話してくださいました。
「昨年初めて保護施設に伺い、自分の中で印象が変わりました。なじみのない方にとって保護犬は危険だったり、病気がちだったりする印象があるかと思うのですが、全く違います。今日の訪問で会った犬たちも本当に人懐っこくて、かわいらしい子ばかりです。ペットショップで買うのではなく、こういった施設があることを、もっと世の中の方々に知ってほしいです。そのために、自分のような立場の者が発信者となってがんばっていけたら、と思っています。そして継続することが重要だと考えています。保護犬への活動が自分自身の仕事への活力ですね」
覚悟を伴う犬との幸せな暮らし
私は、ヨーゼフくんとふれあった途端に心がとろけました。子どものころ大好きだったハイジの世界が目の前に!背中に乗りたい、ふかふかの毛を枕にしてみたい、と。しかし、ヨーゼフくんの過去を知り、犬との暮らしは楽しいことばかりではなく、大きな覚悟が伴うものだと感じました。
もとの飼い主さんも、1歳半で手放すことを考えてヨーゼフくんを迎えたわけではないと想像します。ヨーゼフくんの人間を信頼する態度からは、愛情を受けていたと感じます。まさに、飼い切れなくなっての決断。そこに、犬との暮らしは一時の憧れで思い描いたシナリオ通りにならない難しさがあり、保護される犬が多くいる現状へとつながっているのだと感じました。
筆者は17歳半になる愛犬と暮らしていますが、ハイシニアになり、留守番を嫌がりさまざまな面で欲求が強くなってきました。たった1、2時間をペットシッターさんに預けただけで体調を崩すこともあり、家族でスケジュール調整を続けながら生活しています。まさに愛犬ファースト。寿命を考えると、この生活がずっと長く続くわけではないので、いまの宝物の日々を大切に、と思って過ごしています。
保護犬を迎えたい方が増えてきたことは、私たちアニドネにとっては喜ばしいことです。保護犬になってしまうのは人間のせい、しかしながらその保護犬を幸せにするのも人間。後者がどんどん増えていく2023年にしたいと思っています。
(次回は3月5日公開予定です)
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