「とにかく楽しむこと」 本業と動物保護活動を両立するリーダーたち
「公益社団法人アニマル・ドネーション」(アニドネ)代表理事の西平衣里です。アニドネが支援をしている保護団体の中で、動物とはまったく関係のない本業を持ちながら保護活動に邁進する3人の女性リーダーに話を聞きました。司会業、歯科医師、介護施設経営と、それぞれのプロフェッショナルでありながら、犬猫の命を救い続ける素晴らしい女性たち。二足の草鞋をはき、進み続ける彼女たちの根底にあるものとは?
歯科医を本業に猫の保護活動を行う
きっかけとなった1枚のチラシ
1人目は、歯科医師の岡田朋子さん。新潟市の「新潟動物ネットワーク」の代表です。月曜日から土曜日(木曜日は定休)までご自身の診療所の患者さんの治療をしながら、年間約500匹の猫の保護活動をしています。
「私が生まれた産室に親が犬を連れてくる、というような生粋の動物大好き一家で育ちました。大学卒業後は大学の医局に勤務していたのですが、たまたま映画館に1枚のチラシが置いてあったんです。『動物園の動物は幸せなの?』という、その一言が私のその後の人生を変えました。
「まずは知ってみよう、と新潟市の『犬抑留所(現在の愛護センター)』への見学会を数名で企画しました。清掃センターのはずれにあったプレハブ小屋のような抑留所では犬がほえ続け、毎週、犬猫が殺処分されていました。自分が育った地域で人知れず大切な命が絶たれていることを知り、できることをしようと2001年7月にボランティア組織を立ち上げました」
歯科医の経歴が保護活動にも活きる
岡田さんは、歯科医らしく美しい歯並びでいつも素敵な笑顔を絶やさない。保護活動というのは命を救う活動なので、レスキュー依頼は昼も夜も入るはず。どのようにして対応しているのか聞いてみたら、とても明瞭に答えてくれました。
「時間的な工夫は、特にしていません(笑)。『やるしかない!』と思ったら行動しちゃっているのと、たくさんのボランティアスタッフで成り立っているんです。新潟動物ネットワークは、やりたいことをそれぞれがやる、というベースがあるので私がすべて指示を出さなくても動ける状態が出来ているんでしょうね。病院のスタッフも私の保護活動に理解があるのもありがたいことです」
「また、私たちは行政と良い関係を築いているのですが、連携をうまく進めるためには、書類の書き方ひとつ、連絡の行い方ひとつとっても、ノウハウが必要になります。それは歯科医という仕事で培ったものが活きていますね」
時間がないことも楽しむ
「日曜日は歯科医は休みですが、月に3回の譲渡会があり稼働しています。なので、久しく好きな旅行には行ってないですね。ただ、保護活動関連で東京や地方の団体さんに招かれ講師をすることがあります。そういった場合はプチ旅行を兼ねて行った先で楽しむようにしています」
アニドネには『保護活動をしたいんですが、どうしたらいいでしょう?』といった問い合わせが入ることがあります。岡田さんなら、的確なアドバイスがいただけるのでは?と聞いてみました。
まず最初に出てきたのは「私ができるからだれでもできますよ~!」という言葉。いえいえ、岡田さんだからできているのでは?と筆者は思うのですが「私なんかなにもできないです。だけど一人ひとりやれることはたくさんあって。お礼状を書くことも、譲渡会のボランティアも、いろいろな役割を持った方が集まって保護活動をやっています。まずはできることから一歩を踏み出してみては?」というアドバイスをもらいました。
デイサービスセンターを経営しながら犬のシェルターを運営
愛犬たちの存在に後押しされて
2人目にご紹介するのは、人間の介護施設を長野県松本市で経営しながら、「一般社団法人 ゆめまるHAPPY隊」を立ち上げた国本智子さん。国本さんが自身の愛犬として保護してきた「ゆめちゃん」「まるくん」「だいくん」が、法人名になっています。
「父親が、定年退職したあとに母親の介護をするためにデイケアセンターをつくったのです。その当時、お泊りもできるデイケアセンターはめずらしく、非常に忙しくなりました。私は当時30代でしたが、親の事業を助けるために代表になったんです。同時に、一緒に暮らしていた愛犬が亡くなったあとに、近所の犬を引き取ったり、保護犬を迎えるために保健所に行ったりしていました」
「だいちゃんは目がつぶれていて、『こんな犬はやめたら』と行政の職員さんに言われるほどひどい状態でした。こんな子たちがいるならもっとたくさん救いたいと思って、仕事と保護活動の両立をスタートしたのが2011年。介護事業のために頑張った30代を経て、犬のために40代は頑張りました」
介護と動物をつなげた事業をつくりたい
ドッグシェルターがあるので、夜間に犬のお世話があることもあるでしょう。そして本業の介護事業もお泊りがあれば、当然24時間体制です。気が休まる時間がまったくないのでは?と質問をしてみました。
「そうですね。そこは工夫をしています。たとえばシェルターは自宅の側にあるので、行ったり来たりになりますが、自宅にいるときは料理をするなどして自由な時間を感じるようにしています。確かに時間はないです。だからたくさんのことはできないのですが、今日やるべきことを5つくらい決めてやりきって、毎日達成感を味わうようにしています」
国本さんの今後の夢を聞いてみました。
「現在の人間の介護事業と動物の事業をつなげて展開したいんです。例えば、愛犬と一緒にシニアが過ごせるような施設です。どちらが先に旅立っても安心して過ごせるような場所があればいいなと思っています。私がやるのか、次世代の方へつないでいくのか、今後しっかり考えていきたいですね」
フリーランスの実績と人脈を活かし設立
本業はナレーターや司会業
最後にご紹介するのは名古屋市の殺処分ゼロに大きく貢献している保護団体「特定非営利活動法人 ファミーユ」の代表理事、熊崎純子さん。筆者は熊崎さんと打ち合わせする際にいつも、なんと聞き取りやすいきれいな声だろう、と思うのですが、それもそのはず、本業はナレーターや司会業。
「学生時代にイベントや展示会などのコンパニオンのアルバイトをしていたとき、所属事務所からナレーターの養成を受けさせられ(笑)、いつのまにかステージなどでしゃべるようになりました。一般企業に勤めていた時期もあったのですが、私は同じことをやり続けることが向いていないようで、自分で仕事を選ぶフリーランスで、ナレーターや話し方・マナー講座の講師など、主に人前でしゃべることを生業にしてきました」
愛犬は21歳のトイ・プードル「ゆずちゃん」
「スタンダード・プードルの『ミニー』も一緒にくらしていますが、彼女は14歳。大型犬にしては高齢ですよね。ふたりとも長生きしてくれて本当にかわいいのです。犬と暮らし始めて日本の動物問題をいろいろと知ることになり、保護活動に興味を持ったのが40代」
「3年間は個人で活動をしていましたが、所属していた商工会議所の経営者仲間から『NPOを立ち上げたら?』と促され立ち上げたのがファミーユです。現在理事の守隨智子さんと髙山真理さんの3人で設立しました。守隨さんはネット通販を手がける会社の社長。高山さんはフォトグラファーが本業です。3人とも趣味も性格も全く違うのですが、それぞれが社会人としてプロといえる仕事を持っていることは、法人運営にもとても活かされています」
保護活動で得たものが仕事で活きる、逆もしかり
「例えば、仕事で悩んだり落ち込んだりがあったとします。なんとなく前を向けないな、ということって誰でもあると思うんですよね。そんなときに、ファミーユで保護した子にすばらしい譲渡先が決まったなど、うれしいことが起きるわけです。となると仕事での悩みがどうでもよくなるというか。また、大好きな犬猫に囲まれ、同じ志しを持つボランティア仲間と楽しくお世話をすることは、私自身が癒やされます。保護活動でリフレッシュして仕事を新たな気持ちで頑張れるときもあります」
「逆に保護活動でとても悲しい思いをした時、仕事に夢中になり忘れる(笑)。1つのことで悩まなくなるのは、ダブルワークのいい面だと感じています。もちろん常に時間に余裕はなく目まぐるしい生活ですが、楽しんで乗り越えていけていると感じています」
共通するのは楽しむ、すぐ動く、収入面の安定
3人のヒストリーはいかがでしたか?3人とも謙遜しつつ軽やかに話をしてくれましたが、マルチタスクをこなす日々は本当に大変だと思います。「大変だからおすすめはしませんよ~」と言いながらも、3人ともに語ってくれた「楽しむこと」の重要性。保護活動をしていると想像を絶するような命の限界に向き合うこともあるはずです。しかしそこは自らが望んで立ち上げた保護活動。逃げずに前を向く姿にたくましさを感じました。その姿に共感する仲間が増え、活動が拡大しているんだろな、と。そして、プロフェッショナルの彼女たちが本業で収入を得ていることは、保護活動の安定につながっていることも間違いないでしょう。
もし、あなたが犬猫のために何かしたい、と思うのなら、二足の草鞋生活に踏み出すことをお勧めします。働き方改革のもと、以前よりフレキシブルに自分の時間をつくりやすくなった時代ともいえます。この3人のように、自分で団体を立ち上げるもよし、どこかの団体に所属するもよし、個人で活動するもよし。自分のライフプランに合わせて、楽しみながら踏み出してはいかがでしょうか。それによって大好きな犬猫が救えるのならば、人生において幸せなチョイスに違いありません。
(次回は7月5日公開予定です)
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