家猫として安定してきた元野良猫「はち」 唯一残った困りごとは“かみ癖”だった
人生ではじめて一緒に暮らした猫「ぽんた」を看取(みと)って2カ月半後に保護した、元野良猫「はち」。激しい夜鳴きと朝鳴きに続き、脱走未遂事件、頻尿や発熱などにやきもきする毎日は、家に迎えて3カ月が過ぎ、新緑の季節になると安定しつつあった。
パソコンのキーボードを打つ手にガブリ
はちと先代猫ぽんたは、2匹とも事情があって外で暮らすようになった猫で、もとは飼い猫だったらしい。年齢も7歳ぐらいでともにオス、同じような境遇の猫だから、性格や行動に共通点はあった。来客があってもものおじせずに愛想よく振る舞い、甘え上手なところは、その代表的な例だ。抱っこも爪切りも嫌がるが、2匹とも気質は穏やかで、攻撃的なところはない。
それでも、はちには一時期ちょっと困った癖があった。パソコンでの作業中に、私の手にかみつくことだった。
キーボードを打ったり、マウスを触ったりしている手を、いきなりガブッとやるのだ。
それは思わず声を上げてしまうほどの痛さで、流血こそしないが、みみずばれになり、かみ跡にうっすら血がにじむこともあった。甘がみの域は超えており、本気に近かった。
ツレアイは「甘やかしているからじゃない?そういうときはビシッと叱って、しつけないと。その点ぽんたは、かみ癖なんかなくて、おりこうだったなあ」などと言う。
だが、猫を大声で叱ったり、たたいたりするのはNGだ。飼い主を怖い人と思わせる原因になるだけなので、決してやってはならない、とネットの記事にも本にも書いてある。猫がかみついてきたときは物を落としたり、猫の嫌がる音を立てたりして遠回しに注意するか、かまれた手を押さえてじっと猫の目を見て、「痛いからやめて」と冷静に諭すように、などのアドバイスも散見される。
しかし、どの方法もはちには効き目がなかった。
猫が飼い主をかむには理由があるという。インターネットの情報からは、はちがどれにあたるのかが特定できなかった。それで爪切りのために動物病院に行った際、動物看護師さんに相談をした。
「もしかしたら、キーボードを打つときに手がひらひらするので、おもちゃだと勘違いしてかむのかもしれませんね。手はかむものではない、ということをわかってもらうために、かんだらすぐにおもちゃを与えて遊んだほうがいいかもしれません」
対策が功を奏す
なるほど、と思い、その日からデスクのそばにじゃらし棒を置くようにした。はちが手にかみつくと、すぐさま棒を取り出し、仕事を中断して少し遊んでやる。
普段、はちは、こちらがいい加減うんざりするぐらい長い間じゃらし棒に食いついてくるのに、このときはほんの数分戯れると満足するらしかった。落ち着くと私のベッドの上で香箱を組み、まどろむようになった。
そのうち、パソコン作業中の私の横にいても、手をかむことはなくなった。
はちは、ぽんたに比べると甘えん坊で「かまってちゃん」の猫だった。
例えばぽんたは、手製のスポンジボールや自分の毛でできた毛玉ボールにひとりでよく戯れていた。はちは、これらには興味を示さない。目の前に転がすと、ちょいちょいと前脚で突つきはするが、すぐにそっぽを向いてしまう。
「ぽんた兄さんは、ひとりで遊べたんだから、はちも遊べるようにならないとね」と言いながら、鈴が入った市販のプラスチック製のボールや、転がすと中からドライフードがこぼれ落ちるおもちゃなども与えてみたが、反応は同様だ。人間に遊んでもらうほうが好きらしい。
そんなはちだが、夜、眠るときはひとりを好む。
ぽんたは、家に迎えて1週間が経つと私の足元で眠った。1カ月もするとおなかの上に乗って丸くなり、寝息を立てた。
はちが私のベッドで夜通し過ごすことはなく、寝るのはたいていリビングのソファかチェストの上だ。
これについて、猫を飼っているある知り合いに話すと「欧米型なんですね」という感想を述べた。欧米では、赤ちゃんのときから子どもと夫婦の寝室は別にする習慣があることから、こう例えたのだろう。
実際、睡眠の質という観点からすると、猫とは別々に寝たほうがいいらしい。「猫を押しつぶさないように」と不自然な姿勢になったり、猫の行動によって夜中に起こされ睡眠不足になることがないからだ。
わかってはいるが、日本人としては欧米型は少しさみしい。
それにしても家に迎えて3カ月で、悩みがこの程度であることは幸せだ。ぽんたの場合は、同じ頃に慢性腎臓病と診断され、通院の日々だった。
(次回は11月4日公開予定です)
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