猫が重い病気で闘病、すると家族に変化が 「カマクロ」の著者が語る猫との暮らし
家族の再生を描いたコミックエッセー『カマかけたらクロでした』『マタしてもクロでした』(いずれもKADOKAWA)などが人気の漫画家うえみあゆみさんが、昨夏、2匹の保護猫を迎えました。しかし猫との生活は、想像とは違っていた様子……猫の性格、闘病、家族の変化、現在の猫への思いなどをお聞きしました。
ベタベタに甘える雄猫を探そう
「うちのにゃんずは超クール。モミモミも見たこともない……猫のキャラはいろいろですね」
漫画家のうえみあゆみさんが、ほほ笑む。
40代の夫と、大学生の長女、高校生の長男と4人で暮らす都内のマンションに、2匹の子猫を迎えたのは、昨年7月だった。
結婚以来ペットを飼ったことはなかったが、漫画家仲間が猫と暮らしていて、前から「猫っていいな」と思っていたそう。
「猫動画もよく見ていて、パソコンを打つ手元に猫が甘えてきたり、肩やひざに乗ってくる動画を見て憧れていました。いいなあ、自分も猫の“重たい愛”がほしい~と思って(笑)。周囲の猫先輩たちに言うと、『甘えて欲しいならだんぜん雄猫がいい』と薦められました」
「よーし、ベタベタの雄猫探そう」と検索を始めたうえみさんは、保護猫サイトで“横分けの前髪”が可愛い雄のキジ白の子猫に一目ぼれをした。その猫には“センター分けの前髪”の兄弟がいて、保護主が「兄弟一緒にもらってほしい」と願っていることを知った。
少し迷って猫先輩に相談すると、「兄弟で育つと猫の成長にもよい」と聞き、気持ちが固まり、長女と一緒にお見合いにいった。そして、2匹一緒に迎えることにしたのだった。
名前は子どもたちと考え、「桃太郎」と「浦太郎」(呼び名は、桃と浦)に決めた。
念願の猫との暮らしが始まったが、この1年、“思いがけないこと”の連続だった。
浦太郎がFIPに?
桃太郎と浦太郎は、猫エイズと猫白血病ウイルスの検査(共に陰性)と去勢手術を終えて、家にやってきた。だが浦太郎は、猫風邪が少し悪くなったようで、保護主が薬を持たせてくれた。
「屋外にいる猫のほとんどが、猫風邪の原因となる猫ヘルペスウイルスを持っているようですね。浦の目や鼻のぐしゅぐしゅが気になって病院に連れていくと、『症状が悪くなったら薬を飲んで、成猫になり免疫力が高まれば症状は治まっていくだろう』というお話でした」
浦太郎は“鼻ぐしゅ”ではあったが、よく食べてよく水も飲んだ。桃太郎とともに家にすぐ慣れ、一緒に寝たり、追いかけっこをしたり、猫らしい姿を見せてくれていた。
「桃は、遊びがシンプルに好き。浦は、勝つことが好き。だいたい最初は俊敏さに欠ける浦が負けるけど、ねちっこく桃を追いかけて、結局、浦が勝つことになっている」
そうして、元気に秋、冬と過ごし、新年を2匹と共に迎えたが、今年3月ごろ、浦太郎の体に異変が起きた。
「食欲が減って、呼吸が大変そうになって。今回の猫風邪はやけに重いな、と思いながら病院にき、猫風邪の強い薬を飲むことにしたのですが、なかなかよくなりませんでした」
うえみさんは、不安になった。猫先輩のひとりが、FIP(猫コロナウイルスが原因で発症する猫伝染性腹膜炎)で猫をなくしていて、致死率の高いFIPの怖さや症状を前から聞かされていたのだ。
獣医師もFIPを疑い、血液検査を受けることになった。
結果を待つ間に、浦太郎の状態は悪化、あっという間に自力で立てなくなり、水も飲めなくなった。強制給餌(きゅうじ)をしながら、うえみさんは「昔飼った老犬が死ぬ前の様子に似ている」と思ったそうだ。
「猫コロナウイルスは猫の体内で変異して、それがFIPとして発症し悪さをします。屋外で同じ環境下にいた兄弟の桃も猫コロナウイルスは持っているけれど、変異するかしないかは個体によって違うんです。残念ながら、この病気には正規の治療薬はありません。でも、症状をかなりの確率でやわらげる栄養補助剤が手に入るとわかりました。自己責任で与えるもので、高額なのがネックでした」
最初に相談した病院では、150万円~200万円の費用がかかるといわれ、うえみさんは、猫を飼う上で「想定外だ!」と驚いた。
「うちは長男が受験を終えたばかりで、家計は焼け野原。たとえば猫を飼ってユニクロの服をたまに買うことはできても、ボッテガ・ヴェネタのバッグを毎月買うのは無理。でもFIPのケアはボッテガ・ヴェネタばりの支出が3カ月続くわけです……。それでも、できることはしてあげたかった」
うえみさんは保護主のボランティアさんにも相談し、別の病院を紹介してもらい、同時に自分でも多くの情報を調べ続けた。家族には、「浦を助けたいけど、もしかしたら間に合わないかもしれない」と状況を正直に告げた。方針について、家族で意見も出し合った、
時差や情報、注射に追い詰められて
「FIPの猫は世界中にいるし、たくさんの飼い主が悩んでいるわけです。結局、海外のボランティア団体のサイトに接触し、情報を得ていきました。アメリカ人のボランティアを通し、日本で栄養補助剤を輸入している方を紹介していただきました。病気の進行は早く時間との勝負だったし、無我夢中でした……」
海外の団体と連絡を取る時、日本は真夜中。昼は日本で新たな情報を得ようとネットを駆使し、うえみさんは寝不足になった。栄養補助剤を入手したルートが“イレギュラー”だと後から知り、いろいろな思いにさいなまれたもした。何よりも、栄養補助剤を注射で浦太郎に打つこと自体が、大きなストレスになった。
「ケアを受け入れてくれた病院でも練習しましたが、浦が痩せて、皮膚をつまめず針が刺せない。失敗してへこみ、この量で大丈夫?と心配で追い詰められました。でも必ず家族の誰かが浦の体を押さえて協力してくれましたね。コロナ禍だし、私の万が一の事態にも備え、息子がやり方を覚えてくれました」
注射は夜7時の1回。時間がずれないようアラームを鳴らすと、浦太郎はびくっと警戒し、そばで見ている桃もそわそわしたそうだ。
ケアの時間はつらかったが、それでも続けているうちに、浦太郎は食欲を取り戻し、体重も徐々に元にもどってきた。2匹の追いかけっこも、また見られるようになった。
「今年7月まで84回の注射を続けました。寛解は約7割といわれていて、経過観察中です。費用は最初に聞いたものより抑えられましたが、やはり高い。猫先輩や、著名なイラストレーターさん、身内も寄付をしてくれましたが、私の新刊の印税はすべてふっ飛びました」
夫の変化、自身の変化
猫が来て目まぐるしい日々を過ごしたが、今は穏やかで、「家族も変わった」とうえみさんはいう。
「いちばんの変化は、夫が家事をしてくれるようになったこと。だいぶ助かってます(笑)」
浦太郎のケアが大変になった4月以来、夫が仕事から帰る前に買い物をし、帰ってきたら夕飯を作り、洗濯もしてくれる。“猫介護で疲れた妻のサポ-ト”を買ってでて、浦太郎が元気になった今も続いているのだ。
夫は、うえみさんが描くコミックエッセー、『カマかけたらクロでした』、その10年後を描いた『マタしてもクロでした』(7月発売)にも、浮気した張本人としてセキララに登場している。
うえみさんは明るくいう。
「10年後どころか、オリンピックみたいに4年に一度ゴタゴタがあるかな(笑)。でも夫が猫を可愛がる姿は見ていて微笑ましいです。新刊の書きおろし部分には猫のことも少し触れました」
子どもたちも猫を可愛がっている。オスにしてはクールな猫たちだが、相手をするのはまんざらでもないようだ。
「受験の頃、息子は勉強を終えると『疲れたー』と居間に猫を“吸い”に来ていました。2匹ともすごく甘えん坊ではないけど、とくに浦は娘と気があうのか、娘が帰ると『おねえちゃんだ』というようにいそいそと走って玄関に迎えにいき、ベッドでどや顔でおねえちゃんに腕枕をされる。餌をあげたり、いちばん世話をしているのは私なのに、迎えにも出てくれず、寝床にも入らない。どういうこと?(笑)」
うえみさんは取材の最後に、猫を飼う前と後の「自身の大きな変化」も話してくれた。
「正直なところ、私は初めての猫を飼うにあたって、猫エイズ(FIV)とか白血病ウイルスはクリアをしている子がいいと思ったし、言い方は悪いけどパーフェクトに健康な子が欲しいと考えていた。でもいざ迎えたら、猫風邪にバリバリに感染していて、そしてまさかのFIPにも……そして、弱っていく愛猫と全力で向き合い、気持ちががらっと変わったんです」
今後、もし猫を迎えるような場合は、“もらい手がつきにくいようなタイプ”の子がいいと思うようになったのだという。
「最初は猫動画でも、子猫が足を引きずっていたら『大変、ムリ』と決めつけていましたが、そうした柵をとび越えて、猫エイズなどのキャリアのほか、事故で片足をなくした保護猫たちにも目がいくようになりました。そういう子を迎えたら、『1秒でも嫌な思いはさせたくない』とも思う。浦の闘病体験を通し、猫への理解が深まったのかもしれません」
夫のことにしても、「自分は土壇場に強いので」とうえみさんはいう。でもその半面、さみしがりやの一面も……。
「桃と浦にはもう少し、私に甘えてほしいな。お願い、もっとべたべたして(笑)」
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