「助けられる?」息子が連れ帰った瀕死の子猫 愛情たっぷりの抱っこで幸せな日々
災害地で救命救護する看護師「レスキューナース」として活動する一方、赤ちゃんの正しい抱き方「まぁるい抱っこ」を提唱する辻直美さん。大の動物好きで、初めて飼った犬は25歳まで生きたそう。現在は大阪府の自宅で3匹の保護猫と暮らしています。「動物から学ぶことも多い」という辻さんに、歴代のペットへの思い、触れあい方を聞きました。
「お母さん、猫も助けられる?」
「この子がミュウ、10歳です。瀕死(ひんし)だったのによくここまで育ってくれました」
辻さんがほほ笑んで、茶トラ猫をなでる。
辻さんとミュウの出会いは10年前の7月。小学生だった2人の息子が学校の脇のやぶで見つけた。息子はへその緒がついたままの子猫を手のひらに乗せて家に連れ帰り、辻さんに向かってこう言った。
「おかあさん、レスキューナースだったら猫も助けられる?」
子猫は血で毛がぬれて、息をしていない。辻さんはとっさに処置をほどこした。
「気道が小さく挿管もしていられないので詰まっているものを出そうと思い、猫の口を吸いました。すると羊水とコアグラ(血の塊)が出てきました」
そのまま人工呼吸をしたら、息の量が子猫に多すぎる。辻さんはストローで息をそっと吹き入れながら、指一本で心臓マッサージをした。すると、猫の心拍が戻った。
「臍帯(さいたい)がついていると大出血をおこすので、ひもで2カ所縛って間をはさみで切りました。低体温になっていたので、長男に『湯を沸かして』と言い、次男に『カイロ持ってきて』と指示。それから連れていっていいですかと動物病院に電話をしました」
保護後の素早い処置も奏功したのだろう。ミュウは1週間で呼吸が落ち着き、退院。そのまま辻家の家族になった。
「息子たちが命を抱えてきたし、何があっても助けなきゃと思ったんですよね。母から獣医さんへとつないだ命のリレーを、息子に見せることができてよかった。ミュウを家に迎えてからは、当時いたアルマという犬が、たっぷりの愛を注いでくれました」
辻さんは、アルマの行動が、今も忘れられないという。
愛情深かった犬
辻さんがアルマを迎えたのは、結婚して間もない20代前半だった。
「ダックスフントが欲しい」と思っていた時、知り合いの医師が紹介してくれたという。
「ブリーダーのところで、色々な毛色が合わさって、ショーに出られず売り物にもならない犬が生まれた。殺処分対象になっていると聞き、『うちの家族にします』と即答しました。確かに色ががちゃがちゃでしたが可愛かった。性格もよかった」
アルマはオスだが面倒見がよかった。辻さんが出産すると、赤ちゃんにぴたっと寄り添い面倒を見た。しっぽで寝かしつけたり、おむつが汚れると、「汚れたよ」と辻さんのところに知らせにいったり。ところがある時、血を吐いてしまった。
「動物病院に連れていくと、獣医さんに『たぶんアルマは、お母さんの大事なものを“守らなきゃいけない”とがんばりすぎたんだね』と言われました。私は初めての育児でもけろっとしていたのに、アルマは育児ノイローゼになっちゃった。そんな愛情深い犬だから、その後に来た子猫の面倒もよく見てくれました」
猫のミュウを迎えた時、アルマは15歳。ミュウのおしりをなめてウンチを出してあげたり、大事そうに抱きかかえることもあった。
「シニアになっていたアルマですが、ミュウがきたら『わしが、またがんばらないと』という感じで、がぜん元気になった。白髪もなくなったんです」
愛は性別も種も超える
7年前の10月、ミュウが3歳の時、黒猫ジジがやって来た。辻さんのお母さんが近所で保護した、オスの子猫だった。
「東京に仕事で出かけていた時、母から『猫、捕獲。あんたもう1匹欲しかったやろ、迎えにこい』と急にメールが来て(笑)。その直後に台風が来たので、結果としてジジの命が救えてよかったのですが」
ジジは少しやんちゃだったが、アルマにすぐになついた。ミュウも可愛がった。
「オス3匹、川の字で寝ていました。愛は性別も種も超えるのだと、感動しましたね」
アルマは、2匹の猫を育て上げたあと、3年前、25歳で旅立った。その日の朝まで元気で、まさにピンピンころり。毛づやのよさに、葬儀屋さんにも驚かれたそうだ。
その後、メスのサビ猫、レオを迎えることになった。レオは生後わずかで紙袋に入れられ、袋の口をホチキスで留めた状態で神社に捨てられていた。
「レオは母の知り合いの知り合いが保護して、縁あってうちで迎えました。私が忙しかったので保護主のグループがしばらく預かってくれたのですが、甘やかされて超お嬢に!ミュウとジジは振り回されっぱなし。てのひらで転がすってこういうことか、欲しい物はこうやって手にいれるんだと、勉強になりました(笑)」
動物も抱っこで落ち着く
辻さんは一般社団法人育母塾の代表理事を務め、赤ちゃんの抱っこの専門家でもある。提唱するのは、赤ちゃんを包むように抱く「まぁるい抱っこ」という方法。
「赤ちゃんが身を委ね、脱力してきた状態を理想的な姿勢に近い形で、体と腕を使い包みます。抱っこの延長として、スリング(布)で包みこむのですが、我が家の猫もスリングの抱っこが好き。抱っこされたい子いる~?」
取材中に辻さんがスリングを取り出すと、猫たちが寄ってきた。ミュウ、ジジを順番に包んで抱くと、2匹ともうっとりした表情を見せた。
「猫も犬も抱っこで落ち着くんですよ」
辻さんのもとには、動物病院や動物園からも「抱っこ」の講習の依頼があるそう。
「ペットをうまく抱けない飼い主さんに“抱き方を教えたい”と獣医さんにいわれて指導したり、猿の赤ちゃんを育てる飼育員さんに抱っこを教えたこともあります」
動物園で、猿を人工的に育てた場合、親が赤ちゃんに愛情を持てないケースがある。抱きしめたり毛繕いすることは愛情表現であり大事なコミュニケーションなので、それをされずに育った猿は、親になった時に「我が子」を抱くことができない。
「毛繕いされない赤ちゃん猿は、寂しくて自分の手をかんで感染して死ぬこともあるのだとか。それで、人工飼育の猿を飼育員のおじさんたちが抱っこしていたわけです」
その後、辻さんはうれしい報告を聞いた。飼育員にスリングで抱かれた猿たちが、群れに戻り、親となった。その時、“ごく自然に”赤ちゃんを抱くことができたそうだ。
小さいうちに何かの理由で親から離されたとしても、誰かにちゃんと抱きしめてもらったという記憶があれば、「大丈夫」なのだ。
「確かな愛を感じれば幸せになれるんです。紙袋に入っていたうちのお嬢も、うんと幸せにならないとね」
辻さんはそう言って、末娘のレオを優しく抱っこした。
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